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zizi さんの日記

 
2016
7月 17
(日)
15:41
風に尋ねて 第23話
本文
風に尋ねて  第二十三話


「あれ?バンドはいないの?」
「言ってなかったっけ、まあイベントだからそんなモンでしょ」

カンちゃんは平然と言う。今回のMIYABEはバンド不在でヴォーカル抜きの音源を流してそれに合わせて歌うというスタイルだった。そして、MIYABEは一旦音源を止め、カンタローさんと二言三言交わす。そして再度曲の音源が流れ、歌が入る...正直言うとボクはがっかりした。音も曲調もpopな感じで、後で知ったけんだど曲はMIYABE本人でなくコンペで採用されたライターが書いた曲だった。期待していた迸るような勢いが感じられない。その代わりにまとまってて聴きやすい感じはあるけれど。

「あんなんだったかなぁ」
ボクは思わずつぶやいた。その時後ろから声が聞こえた。
「宮部、ずいぶん大人になってんじゃん」
振り返るといつの間にか話三好さんが見てた。

「あ、リハからいらっしゃるなんてもしかして顔パスです?」
「ちゃんとチケット持ってきてるわよ。ファン以外にアンタの友人達用に発券してくれてたりしてんでしょ?」
「ええ。そうですけど...」
「まあ凪子さんにはリハから見せてってお願いしたけど」
「やっぱ気になります?」
「どちらかってっとあのシークレットゲストのコがね...ってどうでもいいでしょ。で、さっきのどういう意味?」
「あ、MIYABEさんですね。なんだかちょっと以前と違うような..」
「がっかりした?」
「少し。だって昔はもうちょっとトンガってたでしょ?」
「ハハッ!昔はって...少年はオッサンみたいな事言うね」
「すいません偉そうに...そんなつもりじゃ」
「いいのよ、でもその通りね、とりあえず売れる事が先決。そう考えたんでしょうね」
「でもゲストの成瀬美月って...この二人が今ジョイントって何だか絶妙のタイミングですよね」
「仕組まれてんのよ」
「やっぱそうなんですかね」
「えげつないよね...成瀬ってコ、大丈夫かしら」
「え?何がですか?」
「さっき楽屋入って行く時見たあの表情...あれ結構キツイ感じだったね...」

「やはりそうですか」
それまで黙って聞いてたヒヨコが急に口を挟む。

「おや、あのピアノの...」
「はい、桜井と申します。それで、美月...あ、成瀬さんは...」
「あの様子...精神的に結構来てる表情だったよね」
「ですよね...私もそんな風に感じました...」
「どうする?声かけてみる?」ボクは聞いた。
「でも今私が急に出てったら...逆にメンタルぐちゃぐちゃになるかも」
「あらアナタあのコの知り合い?」
「実は前の学校で一緒にピアノやってて...その。以前は親しい友達でした」
「以前は、ね...ふ〜ん」
三好さんはそれだけで関係を理解したかのようで、ちょっと考え込むような表情を見せた。

リハーサルは進み、MIYABEの歌、MCとの打ち合わせ、マイクのセット位置など確定する。その時ボクたちはステージから見えないようにPA席の後方に移動した。そしていよいよ成瀬美月がステージに上がる。やや俯きがちにやって来て、エレピの前に座る。そして静かに置いた指が鍵盤を走る...「Amazing grace」だ。イントロの終わりで成瀬の方に顔を向けたMIYABEとコンタクト、歌が乗る。初めて聴くの成瀬のピアノにボクは思わず息を飲んだ。正統的な技術がある事は一聴にして瞭然で、その若さには似つかわしくない情感が溢れている。ここでは用意された音源では無く、成瀬のピアノのみで伴奏し、MIYABEが歌う...というパフォーマンスだった。薄暗いPA席の後方で、小声でヒヨコに尋ねる。

「どう?」
ボクの耳にはとてつもなく素晴らしいピアノだったんだけれど。
「うん...久しぶりに聴くから良くわかんない...けど...何だか本調子でない感じ...」
ヒヨコは少し首を傾げながら言う。カンタローさんが小声で言った。
「MIYABEはこなしてる感じやね。彼女は...理由はわかんないけど何だかナーバスな感じするね」
カンタローさんの洞察には驚かされる。淡々と作業をこなしてるようで、ステージに立つアーティストの状態を凄く良く把握してる。
「じゃ、この後よろしく」
そう声をかけられ、ハッとなった。この後は最後にオープニングのカンちゃんとボクのリハだった。MCとMIYABE、成瀬の打ち合わせが少しあり、それを最後にステージからMIYABEと成瀬が下がり、ボクとカンちゃんが入れ替わりにステージに上がる。

「お疲れさまです」

ボクとカンちゃんは二人とすれ違い様に声をかける。

「お疲れっす」MIYABEば当然ボクの事を知らない。
「....」成瀬は堅い表情のまま口を動かしながら頭を下げたが声は聞こえなかった。

「気楽にな」

成瀬の緊張した様子が伝わり、それが伝播しているボクにカンちゃんが声をかけてくれた。と言っても軽く音を出し、機材のチェックとバランスを確認した程度ですぐに終わる。ヒヨコは...と見ると、さっきの場所から目で成瀬美月を追っている。成瀬はステージ横の狭い楽屋に入って行ったようだった。フロアではMIYABE関係のスタッフ一同ボクたちは眼中に無いらしく、ただMIYABEのマネージャーらしき人と成瀬美月の事務所の人たちがヒソヒソ話をしながらドアの外の様子を気にしているのが目に入るのみだった。リハはすぐに終わり、ボクたちには楽屋もなく、フロアの隅っこで開場まで待った。

そしていよいよ開場する...招待客が続々と入場してくる。ボクたちはヒヨコも含めて移動しステージ脇で待機する。30分後、開演となり、いよいよカンちゃんとボクのオープニングの時間が迫る。実はボクは今日の事を考えてて昨夜殆ど眠れていなかった。しかし待ってる間は緊張と興奮が入り混じった妙な気分が続き、眠気を感じるどころか益々目が冴えて来る。そしてステージに足を向ける時間は突然に訪れたような気がした。

「行こっか」
カンちゃんは全く通常モードの声だ。
「頑張って」
ヒヨコが小声で応援してくれるのを聞き、二回頷いたボクは意を決して、まだ照明が落ちた状態のステージに進む。ザワついてたフロアが静まり、カンちゃんがボクの方を見る。エレピの前に座り大きく深呼吸をし、準備が出来たボクは頷く。

「じゃ」

それだけ言うとカンちゃんはいきなりギターを鳴らした。一曲目は「SUZIE Q」だ。カンちゃんの渋い声がkandersに響く。ボクはもうただ無我夢中で。最初は客のアウェー感にすっかり縮こまってしまった。でもカンちゃんは流石に堂に入った感じで。2曲目「LIKE A ROLLING STONE」で自分の気持ちもほぐれて来た。あれだけ練習したんだ、大丈夫。カンちゃんはMCも絶妙で、徐々にアウェー感をほぐし、自分のペースに乗せて行く。そしてとっておきの選曲、3曲目の「虹の彼方に」を終えたところでボクはようやく周りを見る事が出来るようになった。ステージ袖のヒヨコが親指を立てて頷いてる。フロアのハルやマコやクラスメイトがこっち見てて時々「カンちゃーん」「ジジー」と声を掛けてる。三好さんはカウンターに座っている。演ってみると時間があっと言う間に過ぎて行き、いよいよ最後の曲「Stand by me」を演奏する頃には結構な拍手をもらっていた。まだ演っていたい...そんなちょっと寂しい気持ちとハイな状態が入り混じった妙な感覚を覚えつつステージを降りた。

「良かったじゃん」

ヒヨコは手を静かに叩きながら迎えてくれた。ボクはすっかり興奮気味だったんだけど、それを隠し照れ笑い 気味の表情で応え、そろりと明るくなったフロアに紛れる。自分はあまり難しい事をやったワケじゃないし、カンちゃんには最後までおんぶに抱っこだったけれど、とても楽しかった。また演りたいと思った。ノドはからからになっていた。カウンターに行き、ドリンクを貰う。

「お疲れ、良かったよ」凪子さんがニコニコしながらジンジャーエールをくれた。
「うん、良かったんじゃない?」三好さんもそう言ってくれた。
「お初にしちゃ、良かったんじゃね?」カンちゃんと軽くグラスを合わせる。

ハルやマコたちが寄って来て声かけてくれる。一気に気が抜けたボクをよそに会場ではインターバルが入り、MIYABEの準備が始まる。スタッフから撮影録音は禁止ですとの注意が続き、この時点で今はまだ、成瀬は狭い楽屋にいる。

「あのコ楽屋?」
三好さんは成瀬の様子が気になるらしい。
「そうだと思いますけど...」
「客の中にテレビクルーが居るね...おおかたレコーダかカメラでも持ってんだろね」
「え?どっかに忍ばせてるんですかね?」
そう答えるボクに三好さんが吐き捨てるように言った。
「昔TV局で顔合わせた事ある。下請けの制作会社だけど名前も知ってるからね」
「知ってる人ですか?」
ボクが疑問を口にするのと三好さんが口を開くのは同時だった。
「おーい、セントラルTVの人!なにやってんの?」

どうやら知らんぷりしてるらしい。三好さんは構わず大きな声で言った。

「そこの黒いポロシャツのオッさんさぁ、どこの番組?ここで撮ったの放映すんの?」

ホール中の視線が集まる。その人物は確かに一人だけ服装も年齢もな違いな雰囲気だった。最前方に立っていたのだが、ツカツカと三好さんの近くまでやって来て小声で言った。

「ちゃんとチケットは持ってましたから。何か問題でも?」
「あらら、ファンの誰かを買収したのかな」
「人聞きの悪い...事情により来れなくなったご本人様了解のうえ譲って頂いたんスよ」
「ふ〜ん...どんな事情なんだか....」
「ともかく。言いがかりは止して下さい」
「最後にはMIYABEと成瀬二人で挨拶って事になっているんだっけ...カメラどこに仕込んでんの?」

その男は黙ったままホールに戻った。三好さんの所にMIYABEのスタッフが来て、何事かと尋ねている。事情を説明してる間に準備も終わりが近づき、何だか不穏な空気を残したまま再び暗転し、いよいよMIYABEのステージが始まる。


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投稿者 スレッド
zizi
投稿日時: 2016-8-10 9:19  更新日時: 2016-8-10 9:19
登録日: 2008-4-25
居住地:
投稿数: 3112
 Re[2]: kakanさんへ
kakanさんどもっす〜

あっ。え〜と曲についてはですね、某サイトも聴かせて
いただきましたがちょとt「虹の彼方に」がビックリでした。
すっごい良い味でしたね。アレ聴いてここに書きました。
スージーQはAサインデイズとうい映画でも使われてて印象的でした。
そうですね、いつか演奏出来たらと思います!ただ私が最近あまり
楽器触ってないのでその機会があれば事前に相談の上予習の必要が(笑)

どうもありがとうございました〜
kankan
投稿日時: 2016-8-5 18:50  更新日時: 2016-8-5 18:50
TheKanders
登録日: 2008-1-14
居住地:
投稿数: 1999
 Re: 風に尋ねて 第23話
お久っす。
突然の23話。
話の進行も去ることながら、
カンちゃんとジョイント。
聴いてくれているっすね。
某サイトで、やっている曲ばかりで、驚きっす。
最後の「スタンド・バイ・ミー」は十八番で、
音出し会でも何度かやりました。

このレパートリー。現実にziziさんとやってみたいものです。
zizi
投稿日時: 2016-7-17 15:57  更新日時: 2016-7-17 15:57
登録日: 2008-4-25
居住地:
投稿数: 3112
 あとがき
今回は早速後書きです。
当初の予定では24話で終わる予定だったのですがどうも終わりそうにありませんね(開き直ってやがる)。いや難しい...

さておき、「時をかける少女」がリメイク、全5話のドラマ化されてます。さてどうでしょう...主演は黒島さん...え〜と好きです。確か昨年だったか大河ドラマで高杉晋作の奥さん役の方ですね。で、観てみました。まだ二話までですからとりあえず視聴を継続ですが、ちょっと気になったのが、どうもメイン3人の設定が細田アニメのキャラに似ている点(主人公:バカっぽい、ケンソゴル:見た目チャラい、吾郎:しっかり者)あのアニメはあれで良いのですが、このドラマのキャラ設定が明らかにそれを意識してるっぽくそれに沿っているのは...オリジナルのストーリーにするっつっといて...と少し裏切られた感。あと未来から来たのが二人って...う〜んこちらは今後の展開に期待します。

ちなみに是非見ようと思ってたNHKで制作放映された黒島さん主演の広島8.6のドラマを見逃してしまっており今夏の再放送を期待しつつ...


登場人物

成瀬 美月:ヒヨコ以前の学校時代の友人。現在絶交状態。
MIYABE:「Blue mirage」の宮部先輩。
三好絵理香:MIYABE元マネージャー兼元カノ。
時次 航佑 :ジジ。高校1年生。吹奏楽部所属。
桜井 陽代子 :ヒヨコ。中途半端な時期にやって来た転校生。
喜屋武 寛太 :カンちゃん。クラスメイト。ライブハウス「kanders」に出入り。
幸田 春雄 :ハル。クラスメイト。女子の情報収集に余念が無い。
紺野 眞子 :マコ。ジジ中学時代の同級生。(ようやく登場)
ゴリ先生;ホントの名前は城園 梁。クラスの担任。
貫太郎:ライブハウス「Kanders」マスター。結構年配です。
凪子:ライブハウス「Kanders」スタッフ。アラサー位?の美人です。
南 一郎:複数の女子に声かけて回ってる先輩。
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