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zizi さんの日記

 
2016
10月 22
(土)
23:17
風に尋ねて 第26話 最終回
本文
風に尋ねて  第二十六話 最終回

 翌日からボクは吹奏楽部に復帰した。今年のコンクールは県大会を勝ち抜き、夏休み最後の日曜日に行われるブロック大会にコマを進めていた。と言っても、もちろんボクは参加出来なくて、ブランクを取り戻すべく個人練習を再開しながら当日は応援兼裏方、という立場になる。大会前日の土曜日になり、皆最後の練習を終えた時、何の用事か職員室に入って行くヒヨコをみかけたけれど、その後、楽器運搬係を承っているボクは明日の準備で手が離せなくなり、声をかける事が出来ないまま家に帰った。すると夜、ヒヨコから着信があって、そういえばここ数日互いにタイミングが合わず逢えてなかったっけなんて思いながら応答ボタンを押した。

「ジジ?夜遅くゴメン、今、話せる?」
「うん、あ、そういえばさ、今日学校来てたよね?」
「ちょっと用事があって...あのさ、明日って時間ないかな?」
「ああ…あれ?言ってなかったっけ、実はさ、明日コンクールのブロック大会なんだ...ボクは出ないけど裏方の仕事があって。朝7:00時に学校集合でさ」
「...じゃあ時間ないか...」
「うん...結果発表が夕方だから学校に戻るのは結構遅くなるかな...」

しばらく沈黙が流れる。

「そっか...そうだったね...。じゃ、今日は早く寝ておかないとね」
「え、うん...まあそんな所かな」

その日は明日の事に気を取られていて、ヒヨコとはコンクールが終わったら連絡してゆっくり逢って話しをすれば良いか...そう考えつつ、疲れていた事もありすぐに眠ってしまった。翌日、朝早くから学校に集合し、運搬車に大型の楽器を積み込み、貸切バスで移動し会場の市民ホールへ赴く。出演順は午後一番になっていて、会場内ではスマホの電源は当然オフだ。やがて自校の演奏になり、楽器搬入をした後ステージ脇で見守る。自分で舞台に出た訳ではなかったけれど、久々の空気に緊張する。出来は良かったと思う。しかしさすがに全国大会は厳しいかな。今年はここまで来ることが出来ただけて上出来だ。演奏終了後、楽器を搬出し、ボクと数名は運搬車に同乗し、一度学校へ戻る。空模様の加減が悪くなって来た。学校に着き、雨が降り出す前にと急いでトラックから楽器を降ろし、部室まで運ぶ。運搬係の同級生部員から「来年は一緒頑張ろうな」なんて優しい言葉に嬉しさをかみしめがら、全部を部室に運び込み片付け終えた。一息ついた所でオフにしたままのスマホの電源を入れる。

「あれれ?」

何通ものメッセージと着信が入ってる。カンちゃん、マコ、ハル。ゴリ先生まで?

『桜井さん転校するって知ってた?』
『すぐ教室に来れるか?』
『もう行っちゃうぞ!どこいるんだよ?』

え?何だって?今日は日曜日だよな?なんて場違いな考えが頭を過り、周りの温度が下がったんじゃないかと思える程血の気が引くのが自分でもわかる。

「大丈夫?具合悪そうだけど」

ボクはよほど顔色が悪くなってたんだろう、一緒に楽器運搬をやってた部員が心配そうに尋ねる。本来これからまたコンクール会場に戻って審査結果発表を一緒に聞く予定だったけれど、もうすっかり頭の中は白く飛んでいた。

「ごめん...ちょっと急に気分が悪くなって...寒気がするんだ...悪いけどこのまま帰るって部長に伝えといてくれない?」
「え?あ、うん、わかった。けど大丈夫?本当に具合悪そう」

その返事を聞く前にボクはふらふらと動き出していて、ヒヨコに電話する。出ない。教室へ走る。誰もいない。屋上へ上がる。空にどんどん雨雲が広がって来た。校庭を見やる。校舎を出た所でカンちゃん達や複数のクラスメイトと立ち話してる所が視界に入る。そして、皆に見送られながら覚悟を決めたように校舎に向かって頭をペコリと下げて振り返り、校門に向かって歩いて行くヒヨコが見えた。

ボクは走り出す。廊下でゴリ先生と出会い頭にぶつかりそうになる。

「あっ!ゴリ先生、今ヒヨコ来てたの?」
ゴリ先生は書類の束をかかえたまま驚いてた。でもボクの慌てた様子を見て察したのか、申し訳なさそうに言った。
「ああ、オマエは知ってるもんだと思ってたんだけど...あのな、ジジ。辛くなるから皆には言わないでくれって言われたんだけど、桜井さんな、お父さんの仕事の都合で九州へ転校するんだ。福岡での仕事が認められたそうでな、正社員として管理職待遇で迎えられる事が決まったらしい。だから家族を呼び寄せて一緒に暮らすようにしたんだそうだ」
「なんで教えてくれなかったんですか!」
「いやだからオマエは聞いてるもんだと思ってたけど...ギリギリまで桜井さんの意志を尊重するつもりだったけど、吉山さんがお母さん経由で話を知って昨日の夜連絡あってさ、やっぱりそのままじゃあんまりだろって事になって。で、本人に連絡して学校に来てもらって、クラスの皆にも連絡して来れる人だけ来てくれたけど、オマエ達吹奏楽部員には通じなかったから」

そうだった。今日は朝から一度もスマホを触ってない。先生に一礼し走り出す。

校門を出た所で見送ってたカンちゃん達が「あっ」と声を出す間を通り抜け、ようやく追いつき、その背中に向かって声をかけた。ボクは普通に喋りかけたつもりだったけど、出てきたのは思いの外大きな声だった。

「ヒヨコ!」

足を止め、ゆっくりと振り返る。予感していたような寂しそうな...そんな表情だった。
その時雨粒がポタリと落ちてきた。

「何で言わなかったんだよ!」
「だって…」
「だってじゃないだろ!黙って行くつもりだったのかよ!」

雨はおかまい無しに降リ出して来た。お互いに構わずそのまま濡れている。

「言おうとした…」
「え…?」
「何度も...」

頭の中がフラッシュバックした。思い当たる事がある。お盆にヒヨコが両親のいる福岡から帰った来た時浮かない表情だった。kandersでステージに立つ前、郊外活動謹慎中だけど「もういいから」って言ってたっけ。来年コンクール見に来てよって言った時。高校卒業したらバンドやろうよって言った時。その時はまるで気にしてなかったけど、いつも応えを言いよどんでいた。今思えばどれもらしくない反応だった。そしてライブの後の夜、その翌朝...昨夜の電話...

雨が強くなって来た。

「でも出来なかった…」
「どうして…」
「ジジってさ、これからの事ばかり楽しそうに話すんだもの!」

そうだ…ボクはいつまでもこの風景が続くと思ってて、自分の事ばかり考えて、これからの自分の楽しみだけを一方的に語ってたんだ。思い至らなかったのか、いや、もしかしたら何か異変に気づいていたけど答えを先延ばしにしていただけなのか、ともかく自分に情けなさを感じたものの既に手遅れだという事実が頭の中を駆け巡る。しかし言葉にならない。

ボクたちはすでにビショ濡れになっていた。

「だからって…何で言ってくれなかったんだよ!」
「どうしていいかわからなかったんじゃない!」

カンちゃんとハル、マコが追いかけてきた。マコとハルが駆け寄ろうとする。
「やめとけよ」
カンちゃんは腕を伸ばし、制止した。

「いつ…いつ行くんだよ?」
「明日」
「せめてあと数日...夏休みが終わるまでとかって...」
「引越しの手続きとか向こうの受け入れの都合で無理なんだってば...」

どうにもならない。事情も気持ちもわかる。現実を受け入れるしかない、理解しよう...としてるけど口からは言おうなんて全く思っていなかった言葉が意志とは無関係に勝手に迸る。

「なんで...なんでそんなに勝手なんだよ!」
「なんでそんな事言われなくちゃなんないのよ!」
「どうにかなんないのかよ!」
「なるわけないじゃない!」

雨は降り続けていた。この雨に濡れている事なんてそれまで全く気にも留めていなかった。ただ雨の中、呆然と立ちすくむ。二人とも泣いているのかさえわからない。もしもそうなら隠してくれてんのかな、そんな気持ちを感じたのはそれからどれくらい経ってからだっただろうか、そこに皆立ちつくしていたのはおそらく数分程度の事だと思うけれど、ゴリ先生が見かねて傘とタオルを持って来てくれて、タクシーを呼びヒヨコを乗せ、皆が我に帰るでまるでは時間が止まったような感覚だった。


*


翌日。空は見事に晴れている。お母さんと一緒に荷物を抱えたヒヨコは駅のホームに勢揃いした面々に見送られながらホームに立っていた。

ボクは昨日の事が妙に照れ臭かったのだけれど、今話をしなくてどうすんだと思い直し声をかける。

「九州かぁ...結構遠いよね」
「まあそうだけど...音楽続けるんでしょ?」
「そのつもりだけど...でもやっぱりボクは音楽に選ばれたヒヨコとは違う」
「バカじゃないの」
「何でさ」
「音楽は人を選ばない。みんなに平等よ」
「そっか...。そうだね」

ヒヨコはお母さんに促され、二人で深々と頭を下げて電車に乗り込んだ。

「じゃあね」
「うん」

扉が閉まる。互いに軽く手を振りながらのさよなら。
やがて電車が動き出し、その後ろ姿を呆然と見送る。
もうすぐ終わりを告げるであろう夏の暑さに線路がゆらめいてみえる。

『また会えるかな...』

電車が遠ざかって行くのを見送りながら自分に問いかける。

『風に尋ねてみたら?』

そう応える彼女の声が聞こえた...

ー完ー

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投稿者 スレッド
zizi
投稿日時: 2016-11-3 17:56  更新日時: 2016-11-3 17:56
登録日: 2008-4-25
居住地:
投稿数: 3118
 Re[2]: 風に尋ねて 第26話 最終回:PIYOさんへ
PIYOさん最後までおつき合い頂きありがとうございました...

ついに終わりました。終盤ちょっとバタバタしましたが
終える事が出来てとりあえずホッとしています。

さてこの後二人はどうなったのでしょうか...
今ではスマホなんかでかなり便利になっちゃってますから
コンタクトは保てるかなとは思いますが、そうですね、
この辺りはやはりご想像にお任せする事としておきましょう(ズルい:笑)

自分も昔の事思い出したりしたり、また子供達がそれくらいの年頃
なので様子見たりしたがら書いたりしてました。
ティンパニーの曲中でのチューニング!なつかし〜!
自分はやってませんが耳を寄せてトントン..とやってるのって
何だかカッコいいんですよね。絵になります。
運搬は気を使いますよね〜、ココを持ったらいかんとか
重くて壊れらやすいところもあったりして(笑)

途中ちょっと筆が進まない時期があったりして、これ途中で
放り出す事になってしまうかも、なんて思った事も正直無くは
なかったですが、PIYOさんののように感想なと頂いてますと
モチベーションが回復してとても励みになり、最後まで書き上げる事が
出来たと思います。とても感謝しています!

さてこ次はどうしようかな〜とか考えたりしていますが
その事については...

「風に尋ねて」みる事と致しましょうか...
PIYO
投稿日時: 2016-11-2 17:09  更新日時: 2016-11-2 17:11
長老
登録日: 2014-3-8
居住地:
投稿数: 166
 Re: 風に尋ねて 第26話 最終回
☆ziziさん☆
長期間に渡って本当にお疲れ様でした♪
ある意味ではよく思うことでもあるのですけれど、
最後は、とてもドラマチックな展開でしたね。
…お別れはひよこさんの「お引越し」
だったのですネ(寂)…

物語は、いったんの終わりとなりましたけれど、
その後の将来は…一生会う事はなかった…ではないような
予感がしました♪読者である私たちが、このあとこうなるのかなぁ
…と読み手に託すような…
ziziさんの連載そのものはここで一度終わってしまいましたけれど
私たちはその後の展開を勝手に作っていくのですね!!

「♪風に尋ねて♪…みたら…♪」

応えてくれる「風」を見つけにいかなくては…………。。。。。

今の時代なら、その後の行方や、風のお便りでしたり、
探そうと思えば手段はたくさんありますものね。
その「今」をなぜか感じさせません。物語は、過去の想い出を
振り返っているわけではないですのに、
多くの人たちが、何かの形で同じような経験や想い出を
今に描く感覚や、携帯を持ってなかった時代に戻るようでも
あったり…

少なくとも今の私では学生時代の想い出や経験を今に
重ねて…のように読ませていただきました♪

ふと思い出していたのですけれど、
吹奏楽のコンクールで4つの違った音を、
2台のティンパニーで曲中にチューニングしていくのに
ものすごく緊張していた事を想いだしていました(汗;)
ペダル式ではなかったので、チューニングボルトを
手締めで…。(関係ないことでしたね)

第一話から毎回、違った「風」の香りや季節や、強さ弱さを
感じて作品名に繋げる様に読んでいました。

ありがとうございました☆☆☆
zizi
投稿日時: 2016-10-22 23:18  更新日時: 2016-10-22 23:28
登録日: 2008-4-25
居住地:
投稿数: 3118
 あとがき
あとがき

ついに完結致しました...結局二年間もかかってしまいまして、大変申し訳ありません...
このような場所を使わせて頂いた事、大変感謝致します。
そして最後までお付き合い頂いた皆様本当にありがとうございます。
今回後半のストーリーを思いつかないまま何とかなるだろうと始めてしまいましたが
そんな楽観的な事ではダメだなぁと思い知らされました。やはり難しかったです。
もしもまた何か書く事があれば今回の経験を生かしつつ...
とか密かに考えております(笑)

そして、PIYOさんがこの拙文をテーマにされたとても素晴らしい
楽曲を創って頂きまして、勝手ながらエンディングテーマとして
お聴き頂ければ幸いでございます...

ピアノ小協奏曲6番・ニ短調 <風に尋ねて>

http://gbuc.net/modules/myalbum/photo.php?lid=16766&cid=3

本当にどうもありがとうございました...
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