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zizi さんの日記

 
2016
6月 23
(木)
22:13
風に尋ねて 第22話
本文
風に尋ねて  第二十二話

 その後、連日カンちゃんと練習を重ねる。先日の「Stand by me」含めて古い洋楽のカバーを四曲。このセレクトにはちゃんと訳がある。何でもMIYABEの曲が採用されたアニメの内容ってのが、苦労しながらもやがて人気者となったロックスターが、天狗になった挙句傍若無人に振る舞うようになり、TOKEIOドームでの初ライブ準備中に恨みを買ったスタッフに突き落とされ設営中の舞台から落下、そのショックでなぜか1970年代にタイムスリップ、目が覚めると...ただ音楽が好きな高校生になっていて、ギターは初心者なのに文化祭ライブに向けてガンバらなきゃいけない状況になってて...って内容で、劇中に出てくるナンバーからのチョイスって事だった。結局ボクはエレピを弾く事にした。

しかし相変わらずボクは下手で。ヒヨコが練習見に来てた時カンちゃんが弾いてみてよと誘い、ちょっと練習に参加した事もあり、ボクはそれを聴いて参考にさせてもらったりしていた。そして八月も二週目となったその日には自分なりに案外上手く行ってボクは上機嫌だった。練習を終え、フロアに降りるとそこに見覚えのある顔があった。三好さんだ。ステージを片付け終わった頃、カウンターでカンタローさんと話してたので挨拶する。

「こんにちは、三好さん...でしたよね」
「え〜と、いつかの高校生だったかな。元気にしてる?」
「時次です、まあまあ元気です」
「そうだったね、ゴメンゴメン。今日は練習?」
「今度カンちゃんと一緒にライブに出るので...」
「だってね、カンタ君は知ってるけど、あの娘ナカナカやるじゃない」
「あ、ヒヨコのピアノですか?」
「この前言ってた娘?その気になったんなら私に声かけてって言っといて」
「ええ、結局あの時の奨学生の話は無くなっちゃったんですが...」
「でも今のピアノ凄く生きてたと思うよ。いいんじゃないかな。そういえばさ、アンタたちのライブってMIYABEのイベントの日にやるんだって?今カンタローさんから聞いた」
「一応...そうです」
「その日私も見に来るつもりだから。がんばれよ、少年。あ、彼女にもよろしく」
「は、ハイ..」

戸惑いつつも今日の練習がいい感じだったボクは上機嫌だった。そしてその日の帰り際。今日はアマチュアのライブがあり、ヒヨコも最後まで付き合い一緒に「kanders」を出た。ライブの余韻が心地よく、しばらく夜風に吹かれながら駅まで歩く。そして同じ方向の電車に乗る。

「あのさ」
「あのね」

同時に話し出そうとする。ボクは先に話を続けた。
「ね、高校卒業したらさ、一緒にバンドやらない?」
「え?」
「カンちゃんに歌ってもらってさ、いや、カンちゃんはソロでやるタイプかな。メンバー探して…ヒヨコがキーボードでしょ、ボクは…それまでにはギターかベースの練習やろうかな。皆で曲持ち寄ってさ…kandersでライブやって…」
「…楽しそうね」
「だろ?それまでに足引っ張らないように練習しとくからさ」
「うん…」
「あ、さっき話かけてた事って何?」
「あ、実はさ...明日からお父さんの所...いま母さんも行ってるんだけど、そこに私も行く事になって...」
「え?そうなの?」
「一人で居るとやっぱ心配だってうるさくて。どうせ夏休みなんだからいいでしょって」
「そっか...仕方ないよね。いつまで?」
「お盆明ける頃には帰って来ようかなって思う」
「そっか...じゃ、少なくともライブには間に合うんだ」
「もちろんそのつもり。じゃ、またね」



それからすぐに成瀬とMIYABEの密会現場とやらの写真は週刊誌に載った。しかし内容はどう見ても盛ってる...と感じられる。写真はボクも見た。しかし二人ともティーンエイジャーだし、ただレストランの前で二人立ち止まって話ししてるだけ、そんな風に見えた。しかしそのおかげで二人の名前をマスコミで見聞きする機会が増えた。すると、予想外にMIYABEの若さとルックスは注目を集めていた。ハルは新たな情報知らないかと直接ボクに電話して来て様子を伺ったが、特に知り合いというワケでも無いし、ライブまで直接会う事も無いので知るハズも無く彼を落胆させるだけだった。

カンちゃんによると、MIYABEのライブイベントは、CD購入者から抽選で招待した客のみで、以前聞いてたように歌を数曲とトークのみで時間が短いため、それを埋め合わせる必要あってのオープニングアクトだから自分たちの演奏はオマケみたいなモンだから気楽に考えておけって事だった。そしてお盆が明けてヒヨコ帰って来る。事前に聞いてたボクは駅に迎えに行った。

「どうだった?」
「別に...同じ日本だしあんまり変わんないよ...言葉以外は」
「ハハッ...そうか。それとさ...その、最近成瀬さんってさ...」
「ちょっと記事になったりしてるね...」
「そう。今さ、あのイケメンアーティストMIYABEって誰だ?みたいに面白がられてんだよね...変な所で人気出ちゃってて」
「みたいね...妙な注目のされ方しちゃってさ...美月どうしてるんだろ...」
「明日もkandersで練習するんだけど、来る?」
「あ、明日ちょっと学校に用事があって」
「そっか、じゃまた連絡する」

ヒヨコはちょっと浮かない表情で帰って来たばっかでちょっと疲れてんのかな、と思った。翌日以降もカンちゃんと練習を重ね、準備は整って行った。ファンイベントだから当然アウエイだろうけど、楽しんでやろうと思う。気になるのはMIYABEと成瀬美月を巡るヘンな盛り上がりだった。ネット上では成瀬の過去のテレビ出演時の画像なんかが出回り、以前にも増してカワイイと評判になっており、MIYABEは音楽よりも先にそのビジュアルが注目を集めつつあった。更にワイドショー関係者がネタが無いせいか、まだビッグネームでもないMIYABEをわざわざ取り上げ、騒ぎを拡大させようとしている最中、いよいよライブ前日となる。

「明日終わってからさ、打ち上げみたいな事やろうかっつってるけどさ、どうする?」
カンちゃんは至ってフツーに話しかけて来る。
「そ、じゃ、参加って事で」
ボクは自分の事とか成瀬美月の事とが頭の中で混沌となって来て妙に騒ついた気分になっていた。
「だったらさ、そのままオレん家泊まってく?もうすぐ夏休みも終わりだし」
「お?じゃ、お言葉に甘えまして。そうしよ」



そしていよいよ当日。ヒヨコはカンタローさんに頼んで、ボクとカンちゃんのサポートスタッフって事でパスを貰いリハから入らせてもらった。
「スタッフでーす」
パスケースを手に持ちおどけて言うヒヨコ。でも内心緊張してるのが伝わる。成瀬美月と顔を合わせた時の事を考えているんだろう。
「大丈夫?」
「うん...まあ後は成り行き次第...かな。そっちはどう?」
「あれだけ練習してるから大丈夫。...ありがと」

そう答えた後、大きく息を吸い、ゆっくりと吐く。ステージではMIYBEのセッティングが進んでいる。ボクなんかはそのプロ的な雰囲気にちょっと飲まれてたけれど、ヒヨコやカンちゃんなんかはサスガに平然と見守ってる。そしてMIYABEがいよいよ来店、スタッフから拍手を送られリハの準備がが始まる。久しぶりにその姿を見たボクは心臓が高鳴る。「マスコミもちょっと来てるみたいやね」そうカンちゃんから耳打ちされ、外の様子をヒヨコと見に行くと、カメラを抱えたマスコミらしき人も居るが中には当然抽選に当選した招待客しか入れない。チャンスがあれば撮ろうと待ち構えていた。そうこうしてる間にワゴン車か到着、ドアが開く。

「あっ」

ヒヨコは小さく声を上げ、ボクの背中に隠れた。ボクたちが遠巻きに眺める中、成瀬美月がスタッフに囲まれワゴン車から降りてきて周囲はちょっと騒々しくなる。しかしそれを無視するようにスタッフに囲まれた彼女は俯いたままkandersに入って行く。ボクとヒヨコは店内に戻り、カンちゃんとはフロアの隅っこの方で見てる。

カンタローさんはこんな騒がしい雰囲気を全く気に留めていない様子どころか逆に外の様子を覗いてはニヤニヤしながら戻って来て、「今日は祭りでもあんの?」なんてトボけてる。そしていよいよMIYABEのセッティングが始まった。本人がステージに立ち、PAから曲の音源を流し、マイクのチェックをする。カンタローさんとのやり取りでセッティングを修正し...って見てると案外短時間で終わり、拍子抜けって感じだった。そして曲の音源が流れ出し、MIYABEはマイクに近づき、歌う...


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