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zizi さんの日記

カテゴリー [連載小説3] 
 
2016
5月 2
(月)
16:48
風に尋ねて 第20話
本文
風に尋ねて  第二十話
 
 夏休みに入って最初の日曜日。吹奏楽部はボクの居ないまま地区大会で金賞を受賞し、県大会へとコマを進めた。きっと皆大喜びで今も張り切ってるに違いない。参加出来なかったのは残念だったかな...正直言うとそう思った。しかし八月末まで休部のボクはと言えば、補習授業もあったりしてるけどロクに行かず「kanders」にせっせと足を運び、自分なりにその部活の無い夏休みを楽しんでいた。ある時は営業が無い時間帯も許可を貰って入り、楽器の練習をさせて貰った。やはり家と違って大きな音を出せると全く印象が違う。何だか少しウマくなったような気がするんだ。ピアノやギター、時々ドラムも練習したりした。最初はカンちゃんが居る時に一緒にやる事が多かったけど、段々一人だけでもやるようになっていった。ある日、思い立って店にあった古いCDを聴かせてもらおうと思い早めにに店に行ってみる。その日はカンタローさんと凪子さんがすでに店に来てた。

「今日は練習?」
「いえ...ちょっとCD聴いてみようと思って...昔のロックとか」
「勉強熱心やね、少年。あそこで聴いてみたら?」
「今日のリハは15時からでしたっけ」
「そ。それまで使って良いから」
「あっ...ありがとうございます」

二人に交互に声をかけてもらい、数枚のCDを手にする。ライブ中はカンタローさんが陣取るPA席に座らせてもらい、転がってるヘッドフォンを耳に当てる。この赤いラインが入ったソニーのヤツは何だかスッピンの音がする。数枚引き抜いて来たCDを背面にあるデッキにセット、父さんの世代では誰でも知ってるらしい「ホテル・カルフォルニア」のイーグルスやそれまで名前しか知らずに聴いた事が無かったもジミ・ヘンドリックスやオールマンブラザーズバンドなんかがその日のチョイスだった。その後午後三時にはその日のライブのバンドメンバーが到着し、カンちゃんも来た頃にボクはカンタローさんと交代しホールの準備に入り、リハが終わり開店の準備を手伝い、開店時間を迎えるとお客さんが入って来る。そしてフロアの照明がスッと暗転し、ライブ開始。最初の音が出る瞬間は何度経験しても胸が高鳴る。その日のライブはアマチュアの三組み、ロック系の勢いのある音だった。ライブが終わり、ステージの片付けを手伝い終わった頃には残ってるお客さんも少なくなって来ると、帰っていいよと声をかけられる。

「お疲れさんでしたー」
「おう、じゃまた」

カンちゃんと別れ夜10時ごろにライブハウスを出る。まだ店は開いてるんだけど、カンタローさんと凪子さんはボクが深夜まで店に居る事を許さなかった。

「お疲れ。今終わり?」

駅に向かって歩いてると突然背後から声をかけられて思わず振り返る。そこにはヒヨコが居た。

「あっ。お疲れ、そっちもバイト今終わり?」
「うん...まあね。ジジそろそろ終わってんのかな〜と思って...」
「近くまで来てみたらちょうど出くわしたって感じ?」
「まあそんなとこ」
「メッセージ入れてくれたら良かったのに」
「そうだね、今度そうする」
「そっちは何曜日に入ってんの?こっちはライブある日と無い日で終わる時間違うし」
「うん...今ちょっと不定期で...ね、kandersはどんな感じ?」
「ああ、楽しいよ、もちろん慣れない仕事もあるから疲れるっちゃ疲れるけど...」

それからボクは駅まで歩きながら、kandersでの様子を自分でもビックリするくらい一生懸命喋った。ヒヨコはボクの話の腰を折る事もなく興味深げに相槌をうち、所々質問を挟みながら聞いていて、ハッと気づくとヒヨコの家の最寄り駅で降りてヒヨコの家に向かって歩いてた。ボクはkandersでの様子や出来事をひとしきり話し終えたんだけどただ何となく一緒に歩いて、例の公園までたどり着いた。ボクはあの時の遊具を見つけて駆け登り、あの冬の夜には出せなかった手を伸ばして、ヒヨコが登って来る手助けした。

「ここ、あの時星を見た場所だね」
「そうだったわね」
「あのさ」
「あのね」

二人が同時に声を出す。ボクは思わずお先にどうぞと言ったんだけど、ヒヨコは譲らずボクが先に話しを続ける事になった。

「今度kandersに来てみない?店やってない時に楽器の練習させてもらったりしてるんだ」
「そうなの?でも関係者じゃない私が行っても大丈夫なのかな」
「うん...事前に言っておけばたぶん大丈夫だと思う...今度聞いておくよ。それでさ...」

それからボクはカンちゃんも時間あったら来て一緒に練習したりしてる事や、ヒヨコも一緒に演奏に加わったら楽しいだろうなあなんて事を熱く語り、かなりしばらくしてから一方的になっている事に気づき、ようやくヒヨコに話しを向けた。

「ごめん、そっちの話しは?」
「あ、いや別に...もういいよ。ジジ楽しんでるみたいで良かったよ」

そう言いながら遊具を降りたヒヨコとその公園でと別れ、ボクはあくる日もkandersに足を向けた。

*

 その頃宮部先輩...アーティスト「MIYABE」の広告をkandersでも見るようになった。CDのポスターやチラシみたいなの。今年に入ってここで会った三好さんも言ってたけど、遂にメジャーデビューし、まあデビュー曲はお世辞にも売れたとは言い難かったけれど二枚目のシングルは深夜アニメのエンディングテーマ曲だった。そしてもう一つボクにとっては驚きのニュースがあった。最近テレビでの露出が増えた成瀬美月なんだけど、このアニメに出てくるサブキャラクターがピアノを弾き、その演奏音源を彼女が担当するって事だった。あまり大きな話題では無かったけれど、この二人に接点が出来た事にボクは不思議な感覚を覚えた。

*
 で。週の中頃はライブが無い日が多いんだけど、その週の水曜日はkandersでは営業が無く店休日だった。ボクはカンタローさんに了解を貰って鍵を借り、昼間にカンちゃんと楽器の練習の為入らせて貰った。でも今日はいつもと違っていて...時間になるとボクは外へ出て階段を上がる。すると...ちょうど上から覗きこむようにこちらを見てる顔が見えた。

「お、今来たところ?」
「うん。入ってもいいの?」
「ちゃんと許可貰ってるから。ボクの友達だったら大丈夫だって」
「じゃ、おじゃまします」

中に入る。カンちゃんも大げさに声を出した。

「ようこそーっス」
「こんにちは、おじゃましてます」
「ヒヨコちゃん、こんな所に来ちゃっていいの」
「素敵な所じゃない」
「そっかそっか。じゃ、ま、とりあえず音合わせやってみっか」

シールドをアンプに突っ込みながらそう言うが早いかギターを抱え、コードを鳴らす。

「ジジ、この前やったろ、あれ」

「Stand by me」の事だ。ボクは慌ててキーボードでコードを弾く。が、カンちゃんはワンコーラス終わった後にギターを弾く手を止めてマイクに向かって言った。

「な、ちょっと試しにさ、ヒヨコちゃんにピアノ弾いてもらおっか」
「え?だってまだ...」
「ああ、ジジはアコギでも弾いてさ」

カンちゃんはボクの心配を全く気にも留めてない様子だった。何も準備していないのにいきなり...と思ってヒヨコの反応を見ると意外にも。

「あんまりやった事無いけど...じゃあちょっとだけ」
「知ってる曲...ってか弾いた事ある曲なの?」
「ううん。だから最初はちょっと変かも知れないけど...何だか楽しそうだから」

ヒヨコはそういいながらポロポロ指慣らしをする。ボクはまだ巧く弾けないアコギを抱えながらヒヨコに言った。

「キーはAで...F♯m...」

ボクがそう言ってる途中で構わずカンちゃんがイントロを弾き始める。ボクは慌てて後を追いコードを刻む。ヒヨコはと見ると、コードをなぞるように伴奏してる...ように見える。でもカンちゃんがワンコーラス歌い終わる頃には何だか音数が多くなって来て、カンちゃの歌が再び入る。そして歌が終わってコードを回す。二巡目に入る直前カンちゃんはヒヨコの方を見て頷く。その瞬間空気が変わった。ヒヨコのアドリブと言うのだろか、最初はオーソドックスなスケールとフレーズだったのが四巡目のコードから激しく変貌する。カンちゃんはボクとの時はこれくらいで「終わり」の合図をくれるんだけど、ボクは「どうする?」ってカンちゃんの方を見ても「まだまだ」って首を横に降る。正直コードが何巡したのか覚えてないんだけど、ヒヨコは呆気に取られるボク達の方にコンタクトを向け、そのセッションは終わりを告げた。

「すごいや!」
「いいね、ヤルじゃん」
「やっぱ楽しいね、何人かで演ると」

ヒヨコはクスクス笑いながらも指をまだ動かしてる。その音が鳴ってるまま、カンちゃんが口を開いた。

「今度ライブ出てみる?実は月末にオレ出る日があるんだけど」
「え?カンちゃんとボクヒヨコで?」
「そ。まあまた前座扱いだけど」
「うん、ボクは演ってみたいけど、ヒヨコはどう?」

ヒヨコはちょっと心配そうに下を向いてる。

「うん...ほら、私って部活やってなかったら、謹慎後八月まで演奏活動の禁止って事だったでしょ...それがどうかなって思って」
「ボクと同じ期間だから八月末だと日程的に微妙だね」
「先生に確認してみる。ちょっと用事あって学校行く日あるから」

そして翌週、ヒヨコからゴリ先生との相談の結果を知らされた。案の定...まあ予想はしていたんだけど、日程的に微妙なんだけど、止めといた方が良いだろうという事だった。

「残念だったなー、楽しみにしてたのに」
「仕方ないね、自分のせいだし。カンタ君と頑張ってね」
「見に来てくれるよね?」
「うん、行く」
「でさ、また次の機会にさ、今度は一緒に演ろうよ」
「....うん...そうだね」

ヒヨコはちょっと心残りそうだったけど、ボクはまた次の機会に出来れば良いんだ、と思い直し八月を迎えた時、カンちゃんはボクにさりげなく言った。

「そういえばさ、ジジ。今度のライブって、MIYABEのイベントの時だから」

驚いてるボクに「出校日忘れんなよ〜」ととぼけた調子で言った。



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投稿者 スレッド
zizi
投稿日時: 2016-5-10 21:30  更新日時: 2016-5-10 21:30
登録日: 2008-4-25
居住地:
投稿数: 3257
 あとがき
またも今更ですが後書きです。

GWが終わってしまいましたね(子供か)
今年は都合により連続した休みがとれました。
なので行ってまいりました2度目の上陸、今や全国区のスポット軍艦島。
以前行った時は海が結構荒れてたのですが今回は見事に穏やかな状態で、
下手ば写真をバシバシ撮って来ました。

どうでも良さげな話すみません...
物語はいよいよ終盤戦に入ります。あまり間延びしないように...
したいな〜と思っております...


登場人物

成瀬 美月:ヒヨコ以前の学校時代の友人。現在絶交状態。
MIYABE:「Blue mirage」の宮部先輩。
三好絵理香:MIYABE元マネージャー兼元カノ。
時次 航佑 :ジジ。高校1年生。吹奏楽部所属。
桜井 陽代子 :ヒヨコ。中途半端な時期にやって来た転校生。
喜屋武 寛太 :カンちゃん。クラスメイト。ライブハウス「kanders」に出入り。
幸田 春雄 :ハル。クラスメイト。女子の情報収集に余念が無い。
紺野 眞子 :マコ。ジジ中学時代の同級生。(ようやく登場)
ゴリ先生;ホントの名前は城園 梁。クラスの担任。
貫太郎:ライブハウス「Kanders」マスター。結構年配です。
凪子:ライブハウス「Kanders」スタッフ。アラサー位?の美人です。
南 一郎:複数の女子に声かけて回ってる先輩。
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