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zizi さんの日記

 
2015
11月 23
(月)
20:13
風に尋ねて 第17話
本文
風に尋ねて  第十七話

 待て待て、落ち着いて考えろ...あの時ボクはケータイを構えてた。そして、マコが南先輩を蹴り上げて、カンちゃんとボクは飛び出して...その時も確かにまだ手にしてた。その感触まで覚えてる。で、カンちゃんが転んでボクとヒヨコは無我夢中で南先輩を突き飛ばして...そこまで思いだしてハッとなった。その時だ!ボクは手に持ってたケータイを放り投げ、池に水没させてしまったに違い無い。

「思いだした?」
「うん...きっとあの時池の中に落としたんだ...」
「やっぱそうだよね...どうする?」
「うん...探しに行こう」

結局二人で現場まで戻ってみようって事になり、屋上を後にした。戻りながらハルのヤツはゴリ先生に何て言ったんだろ、とか南先輩どうなっただろ、明日謝ろうか、とかいろんな考えが頭を過る。茶室の裏の現場まで戻って来た。先ほどの騒ぎは何も無かったかの様に静まり帰っ
てた。ボクはズボンを膝まで捲り上げ、池に入った。

「ふわ〜っ...ちょっと冷たい」

池の水はそれほど濁ってなかったけど、底にはやはり泥がつもってる。改めてあの時の事を思い出す。ボクは動画を撮りながら、カンちゃんの声に慌てて飛び出し、その時まではケータイを握りしめてて、それから南先輩を突き落とした時...持ってたケータイを手放したならその時しかない。だったらそんなに遠くには行ってないんじゃないか。そう思い直して池に手を入れ、底を探ってるとチャポンと音が聞こえた。音がした方に顔を向ける。

「何してんの?」
「私も探す」

ヒヨコは腰のあたりで巻き上げ、スカートを膝上までの丈にして、靴と靴下を脱いで池に入って来た。

「え?いいよ。服汚れちゃうよ」
「何見てんの」
「いやその...」

ボクは目のやり場に困り明らかに挙動不審になりながらも手探りで探す。とても長く感じたけど、後で考えるとせいぜい10分程度の事だった。その時指先に感触があったんだ。

「あった!」
「ホント!?」

あったあったと二人で喜んだ。池から上がり水場で足洗ってタオルで拭いてから電源onしてみる。しかし電源が入らない。どうやら壊れてしまったらしい。動画は本体にしか保存してないからもうダメだ...って思った時、何だか逆に安心した。そんな事話ながら帰ろっか、って雰囲気になった時、ヒヨコは言った。

「ね、ちょっと音楽室寄ってかない?」
「え...あ。そういえば今日個人練習で使ったまま鍵返してないや」

二人で薄暗くなった音楽室に入る。ヒヨコがピアノの蓋を開ける。確かめるように鍵盤を触る


「うん...」

何かを確かめるように呟いた彼女は鍵盤に指を走らせた。これは...確かショパンのエチュードだ。最初は調子良い感じだったんだけど速いパッセージに入るとちょっと顔をしかめ、指を引っ込めた。

「どうしたの?」
「うん、実は少し前からさ、腱鞘炎がひどくなって。しばらく弾くの控えてたんだ」
「あ...そうだったんだ」
「何?もしかしてピアノ弾くの嫌になったんだなんて思ってた?」
「え...え〜と...ううん、全然」
「アハハッ...正直ね。そっちは?吹奏楽部は順調なんでしょ?」
「うん、今年は絶対に地区大会から県大会までは進めると思う。みんなその上の支部大会まで進むつもりでいる」
「ふ〜ん...合奏の音なんか聴こえて来るけどいい感じだもんね」
「うん...今年はイケそうな気がする。頑張ればなんとかなるって気がして来た」

そこまで言って、ボクは自分ばかり盛り上がって進路を絶たれたヒヨコの気持ちを考えられてない事に気づいたんだけど...

「そっか、頑張ってね」
彼女は明るくこう言った。
「うん、ありがと...あのさ、音楽なんてどんな形でも出来るよ...」
ボクはちょっと罪悪感を感じつつそう返した。
「あはは、そんな無理に心配しないでよ、私はもう大丈夫だから」
「うん...」

彼女が最近ピアノを弾いてなかった事が、ボクが勝手に想像してた「ピアノが嫌になった」という事態では無かった事に少しホッとしていた。それからボクたちはこっそり鍵を返し、明日怒られるだろうなーなんて話をしながら、ちょっと余韻に浸りつつ家に帰った。明日皆に言って南先輩には謝っとこうか...そう思いながら1日を終えた。

*

翌日の朝、ハルがボク達の登校を待ち構えていた。

「生活指導室へ全員集合だと」

案外早いな...って思った。先生に呼び出されるなら昼休みか放課後かって思ってたから。行きすがら聞いた話だとあの後ハルと南先輩はゴリ先生から散々説教されたそうだ。

「オレはあそこに居ただけで何も知らないって言ったんだけどさ...」

ハルが黙ってたら南先輩が先生に聞かれるがまま喋ったらしい。そして、自分に都合悪い部分は隠そうとしたので、ハルは結局その全貌を先生に説明する必要性が出てきてその行動に至った理由から全て説明し、南先輩も最後は自分の非も認めつつ正直に話したそうで、ゴリ先生は一応皆の行動は理解はしてもらえただろうって言ってるけど...

「いつも温和なゴリ先生もサスガにおかんむりだったな...」

という事らしい。やはりそうか...ちょっと覚悟はしていたけど、始業前にハルを先頭にボク、ヒヨコ、カンちゃん、マコと全員連なって生活指導室へ向かった。そこには南先輩とゴリ先生がいた。

「話は二人から聞いた」

と入ったとたん。全員順番にゲンコツを喰らった。

「南は自分も悪かったって言ってるが動画に撮られた事が不安だと言ってる。動画のデータは今ここに出せ」

ボクは壊れたケータイを机の上に置いた。

「南先輩、申し訳ありません...動画は...これで撮ったんですが、池に落として壊れてしまいました。動画のデータも取り出せません」
「本当か?」

ゴリ先生はケータイをいじくりまわし、南先輩にも確認するよう手渡した。南先輩は電源ボタン押したりバッテリーの蓋空けたりしてたけど、納得したように頷いてゴリ先生に返した。

「これ以上は何も言わん。何か言う事はあるか?」
「いいえ...」
「この話をこれ以上大きくしたくないと南も言ってる。みんな、それで良いな」

ゴリ先生は話をここで終わらせようとしてて、それが決して面倒だからでなく、生徒たちの立場を慮っての事である事はその場にいた全員が理解した。そして「外に居るから終わったら声かけろ」と言って廊下に出て行ったんだ。残されたボクたちはしばらく沈黙してたんだけど...

「悪かったよ...ちょっと俺も今後色々改めるから...」

予想外だったけど、南先輩が一番に口を開いた。それをきっかけにボク達も次々と謝った。マコもヒヨコもバツ悪そうだったけど、素直に頭を下げた。

「先輩、すみません...動画なんてもし撮れてても何かするつもりなんて無かったんです」

ボクがそう言うと、南先輩はもうわかったから、という感じで頷き廊下に顔を出し先生に声をかけた。ゴリ先生はわざと明るく「それじゃ...解散!さ、教室に戻れ」と声をかけ、一件落着...かと思われた。

*
それからは放課後、ボクはコンクールに向けて部活を一生懸命頑張ろうと心に決め、練習終わってもしばらく個人練習を続けた。

『一生懸命頑張れば何とかなる』

ヒヨコにそんな事口に出して言うのはあまりにも気恥ずかしい。黙って態度で示すんだ、誰から頼まれたワケでも無いのにそんな一方的な決心を心に秘めた数日後、いつものように練習を終えちょっと薄暗くなって来て一人で帰ろうと学校の玄関前を歩いてたら、そこに見慣れない真っ赤なベンツが停まってた。みかけない車だな...って思って見てたら玄関口から派手な服装のオバさんがツカツカと出て来て、その車に乗り込んだかと思うと急発進して、ボクのすぐ傍を走り抜けて行ったんだ。

「あぶねぇじゃん」

ボクはちょっとビックリして独り言みたいな文句を言って...それが誰なのか全く気にしてなかったんだけど...

因果応報...この言葉の意味を嫌という程思い知さられる羽目になろうとは思いもしていなかった。

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