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zizi さんの日記

カテゴリー [連載小説2] 
 
2013
12月 15
(日)
09:31
Blue mirage 第14話
本文
Blue mirage 


第14話


2013年 12月


今年も残り少なくなって来た。もうすぐ冬休みだとクラス中がソワソワし出した頃。

今日のアサミちゃんのピアノの音は…どこか翳りがある。いつものようにおしゃべりに移った時も、表情に曇りがあった。両親がとても厳しく、思うように外出も出来ないって事をまた言ってる。あまり目の届かない所へ行かせたくないらしく、どこで、誰と、何をするのか。その内容がお気に召さないと、外出自体を許してもらえない。その事で悩んでいる様子だ。

「ジジ君家ってさ、どこか遊びに行ったりなんて自由にさせてくれる?」
「う〜ん...例えばユーイチなんかはさ、頭いいから親なんか信頼しちゃってるんだよね。だからアイツと遊ぶ時なんて何も言わないね、他は帰りがあんまり遅くならなければ特に言われない...かな?」

アサミちゃんに明るくなって欲しくて、ボクはまた両親の話を面白おかしくして聞かせた。父さんのシャツのポケットからピンク色の女性の下の名前だけが書いてある名刺が出て来て、母さんに咎められて、「いや、これは仕事の取引先で世話になった方なんだ」なんて言い訳して、母さんから「じゃあ私今から主人が御世話になりました」って電話するからね、と言われて、父さんが慌てて引き止めて、その結果父さんはまたもやしばらく早起きして自分で自分の弁当を作って、今度は前より上手く出来たぞ、なんて言ってた話を。また以前のように明るく笑ってくれるんじゃないか...と思ってたら、今回は少し口元を緩めただけだった。

「そうなんだ...私だってね、やってみたい事もあるんだけど…とても許してもらえないわ…」
「え?やりたい事って...例えばどんな事なの?」
「うん...ちょっとね...」

言い淀むアサミちゃんに、これ以上聞いちゃいけないような気がしてそれ以上聞くのをヤメた。てっきりピアノが全てだ、と思ってたので少し意外だった。話題を変えようと思ったボクは、最近、宮部先輩ってアサミちゃんにとってどんな人なんだろ?って事がとても気になっていたので、あのピアノが上手い宮部先輩その後どうしたの?と尋ねてみた。

「あっ、宮部先輩ね、この前も会ったんだけど、もう高校ヤメちゃってるんだよ。凄いよね、将来の夢に向かって突っ走ってるって感じだよ。」

彼女の表情は突然明るくなって、ピアノのレッスンの時に会った時の事を話してくれた。実は少し前に宮部先輩は高校を辞めていて、今では髪を伸ばしてライブハウスで活動してるって話だった。ボクは気になって観に行ったなんてとても言えなかった。で、バンド活動に専念する為にピアノのレッスンも直に辞めるつもりらしい。

「でもホントに...宮部先輩ね、私は小学生の頃から良くレッスンで同じ時間になってたから、先生のレッスン終わった後、時々一緒に練習室で連弾したりしてね。私が上手く行かない所あるとね、親切に教えてくれて...」

それからアサミちゃんは、以前聞いた時よりも長い時間をかけて宮部先輩の事を色々と話してくれたんだ。子供の頃無邪気に「ピアニストになりたい」と言った時真剣に励ましてくれた事、練習方法や曲の表現の仕方なんかを一緒になって考えてくれた事、学校や家での悩み事なんかも気さくに相談に乗ってくれた事なんかを...ボクは自分から話題を振った事を半ば後悔しながら、途中から明らかに気乗りしてなかったんだけど、アサミちゃんに気を悪くされたくない一心で自分の心にウソをついて、エピソードの一つ一つに少しだけ質問を挿み、その後相づちを打ち、出来るだけ真剣な表情を取り繕った。

「とてもカッコ良かったんだよね...それなのに、寂しくなっちゃうな...」

何気なく言ったアサミちゃんの最後のその言葉にボクは…そう、冷たい水をかぶったような感覚を覚えて…言いようのないくすんだ感情に包まれたような気がした。ボクの冗談では曇ったままの表情だったのに、宮部先輩の事はとても楽しそうに明るい表情で話して...で、ボクは言ったんだ。

「アサミちゃんさっきさ、思うようにやりたい事出来ないって言ってたよね。色々考えてさ、何とかやれるように考えてみようよ、ボクに出来る事があったら何でも協力するからさ。」
「ジジ君、ありがとう...そうだね、何か方法考えてみようかな...ね、また相談してもいい?」
「勿論さ!何でも言っちゃってよ」

やりたい事が何なのかも聞けず、宮部先輩の話を聞きたく無くて、自分に都合の良いような事をまたしても言ってしまった。

「じゃあね、そういえばさ...ジジ君、最近ロック聴いてんだよね?クラシックの人がロックの演奏って出来るたりするのかな?」

ボクは内心「来たー!」って思った。アサミちゃんが何故そんな事を聞いたのかなんてどうでも良かった。宮部先輩から話題が逸れ、しかも目下自分のアサミちゃんに続いて二番目の関心事項に直球で来るなんて!ボクは夏休み以降父さんのCDを聴きまくり、アサミちゃんといつか一緒に演奏するための参考にならないかな?なんて気持ちもちょっぴりあって、ロックのキーボード奏者に興味が湧いて来てて、本やネットで散々調べてた所だった。ボクはまくしたてるように言った。

「勿論出来るさ!ロックバンドのキーボード奏者も元々はクラシックを学んでた人が多いんだよ。ジョン・ロードやキース・エマーソン...あ、古すぎるかな?意外なビッグネームだとヴァン・ヘイレンとか。ギタリストなんだけど昔はクラシックピアノもやってたんだって。分かり易い所だとX-Japanの人なんかもそうだよね、ディープ・パープルなんかExpositionって曲があってさ、いきなりベト7のモチーフを使ったりなんかしてるんだよ。40年以上も前にだよ、凄いよね。それから...」

ハッと気付くとアサミちゃんはクスクス笑ってる...

「さすがジジ君ね...さっぱりわかんない。なんつって」
「あっ...ごめん...一人で盛り上がっちゃって...」
「ううん。ありがと。今度ネットで音源捜してみるね」

ボクはアサミちゃんのおどけた表情を久しぶりに見た事で、先程の憂鬱な感情を一時的に忘れていた。そして迎えた冬休み。ボクは父の実家に里帰りし、正月前後数日間を過ごした。しかし学校から離れて見ると、どうしても二学期の事を思い出してしまう...どちらかというと厭な事ばかりをだ。結局冬休みは、ずっと自分の中にある種の感情が成長してしまっている、との自覚をせざるを得なかった。あのくすんだ感情は…少し色が濃くなって行くような気がする…コタツに入ってミカンを食べてテレビを見ながらもボクの心は世間の御目出度さからは、とてつもなくかけ離れていた。

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投稿者 スレッド
zizi
投稿日時: 2013-12-21 20:52  更新日時: 2013-12-21 20:52
登録日: 2008-4-25
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 武者修行日記 BLUE MIRAGE外伝
皆様こんにちは。ブログ内ブログです(何のこっちゃ)

実はとある方にご紹介頂いて「超短編小説会」なるサイトに短文を投稿致しました。ただし、こちらには既に「ZIZI」というHNの方がいらっしゃいましたので登録名は難波弘之氏の小説の登場人物より借用した「モルト」名義です。連載中のBLUE MIRAGEとは全く関係の無い設定ですが、一応外伝扱いにしておこうと思います。

http://ssstory.net/ssstory/story_day/index.php?search_data=20131109100155355&page_num=1&anthorogy_name=

現在の所こじんまりした感じで優しい方ばかりのようで、時々投稿してみようかと思います。我こそはと思われる方いらっしゃいましたら是非!

ご紹介頂きましたJUNKO様、大変お世話になりました。どうもありがとうございました!
zizi
投稿日時: 2013-12-15 9:35  更新日時: 2013-12-15 9:35
登録日: 2008-4-25
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投稿数: 3257
 付録写真について
付録写真はまたまた築城基地航空祭2013より「Blue impulse」です。
今回も連続写真で。ローリングコンバットピッチです。口で説明するよりもこちらの動画をどうぞ。

http://www.youtube.com/watch?v=bmQGMTermW0
zizi
投稿日時: 2013-12-15 9:32  更新日時: 2013-12-15 9:35
登録日: 2008-4-25
居住地:
投稿数: 3257
 あとがき
物語は冬休みに入ってしまいました。今年の物語はここまでです。ここまでお読み頂き誠にありがとうございます。前半は淡々とした進行で申し訳ありません。現在後半部を執筆中で、1月より一気に進めて行きたく思います。また来年も宜しくお願い申し上げます。

ちなみに今年は...自分にとっては大きな巨星が二人...山崎豊子さんとトム・クランシー氏。相次いで亡くなられました。山崎豊子さんが執筆中であった「約束と海」、完成してから読みたかった...また、トム・クランシー氏の「日米開戦」なんて衝撃的な作品でした。(ただしラストの描き方は...後の展開上必要だったとはいえ私には少し意見がある)ご冥福をお祈り申し上げます...

関連楽曲はこちらです。(勝手にスンマセン)

She Was Briting/kankanさん【第一期OP曲】
http://gbuc.net/modules/myalbum/photo.php?lid=15661&cid=8

春風 feat kayumai/zizi feat.kayumai【第一期ED曲】
http://gbuc.net/modules/myalbum/photo.php?lid=15775&cid=58

Mr. DJ/kankanさん【【劇中挿入歌】
http://gbuc.net/modules/myalbum/photo.php?lid=15560&cid=1

瞳の向こう- for Blue Mirage -/kankanさん【劇中挿入歌】
http://gbuc.net/modules/myalbum/photo.php?lid=15770&cid=1

BLUE MIRAGE/Asakoさん曲ziziアレンジver 【イメージテーマ曲】
http://gbuc.net/modules/myalbum/photo.php?lid=15470&cid=1


バックナンバーはこちらです。
http://gbuc.net/modules/d3diary/index.php?req_uid=2049&mode=category&cid=4

登場人物

ジジ:無気力な中学二年生。音楽室で隣のクラスの女の娘に一目ボレします。
アサミ:ジジの隣のクラスの女の娘。音楽室でピアノを弾いている。ジジと少しづつ心を通わすように..なるのか?
マコ:ジジの隣の席の女子。ジジとはいつもケンカばかりしている女子。天敵なのか...?
貫太郎:ライブハウス「Kanders」マスター。結構年配です。
凪子:ライブハウス「Kanders」スタッフ。アラサー位?の美人です。
ヤスオ先輩:ジジの先輩。バンド「Potmans」で活動中。現在大学生です。
ユーイチ:ジジの親友、学級委員の秀才。
須倉先生:ジジのクラスの担任の先生。あだ名はスクラップ先生。
なり子先生:教育実習の可愛らしい先生。(7話)
樋渡先生:教育実習のカッコいい先生。(7話)
宮部先輩:イケメンで音楽センス抜群。ジジ少年最大のライバル...なのか?
三好絵理香:宮部先輩のバンドのマネージャー役。二十歳そこそこ。

また、この物語はフィクションであり、登場する人物や団体の名称等は実在のものとは一切関係ありません。

それではまた次回。
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