Blue mirage　


第5話


2013年　5月 -２


最近はとてもいい天気が続く。学生服だと暑いくらいだ。

今日。いつもの自分の教室のゴミ捨てに行こうとしていたら、どういうワケかマコの奴が手伝うと言い出した。何かオカシイなあと思ってたんだけど...音楽室を通りかかるとアサミちゃんのピアノが聴こえて来て。そしたらいきなりマコのヤツが音楽室に入ろうとボクをけしかけて来たんだ。ボクは何だか不自然だから止めようと言ったんだけど、ヤツは完全に面白がっているみたいだった。

で、ボクの体を押しながら...ってこの時必死で抵抗したワケじゃないけど...マコはいきなり音楽室の扉をガラっと開けて、
「アサミちゃん、久しぶり！コイツがピアノ聴きたいってよ」
なんて言うんだ。ボクはドギマギして
「迷惑だからいいよ。早くゴミ捨ていこう」
と言って音楽室を出ようとしたんだけど、アサミちゃんは、そんなボクたちを見てクスクス笑って、
「マコちゃん、相変わらず元気だね。今ね、今度の発表会で弾く曲練習していたの。まだあんまり弾けないんだけど...もし良かったら予行演習に弾いてみようかな？」
と言って、一曲弾いてくれた。ショパンの「舟歌」だった。

とっても良かった...とても言葉にならない。アサミちゃんと指と腕の動きを、この前よりももっと近くで見てピアノを間近で聴いて...ボクは感動の余り全身鳥肌が立ち、天にも昇る気持ちだった。心が洗われると言うのかな。でも、アサミちゃんが弾き終わってもボクは上手く感想を伝える事が出来ずに
「凄く上手だね...とても良かった...」
としか言えなかったのが心残りだ。でも、アサミちゃんは
「まだあんまり弾けてないから...もっと練習しないと...」
って少し恥ずかしそうにに言うんだ。ピアノを弾いてる時の真剣な表情と、弾き終わった後のちょっと照れくさそうな仕草にとてもギャップがあって...ボクはより心がときめくのを感じた。

で、ふと気になって隣を見るとあのバカ女は事もあろうか居眠りしてるんだ。ボクは頭に来て奴のコメカミにグーを当ててグリグリしてやった。ハッと目を覚ました時の奴の間抜け面が忘れられない。ここまでは良かったんだけど、そしたらマコは寝ぼけマナコをこすりながら
「何すんねんっ」って言って。それからは...

「オマエが居眠りなんかしてるからだろ」
「目ぇつむって聴いてただけや」
「ウソつけ。口半分開いてたぞ」
「きゃ、女子の横顔覗いてから...ヘンタイや〜、ねぇアサミちゃん？」
「ちょ、な...何言ってんのオマエ！？」

そんな応酬をしてたらアサミちゃんはお腹かかえて笑ってて...

「漫才みたいだね」って言われてボクたちは二人とも我に帰って。ボクはもちろんそんなアサミちゃんを初めて見て、その姿があまりにも可愛いらしかったので、もうさっきまでのマコとのやりとりがどうでも良くなってた。そしたら急にマコが。
「ね、コイツもピアノ弾けるんよ。少し弾かせてみない？」
なんて言い出して。ボクは慌てて
「バカ、ヤメロよ、早くゴミ捨て行かないと」
と言って音楽室を出て行きた。後で聞いたらマコはアサミちゃんとそれ程仲良かったわけでも無いらしい。それなのに何で急にあんな事したのか…良かったのか悪かったのか…まあそんな事があった。 でもきっかけはとにかくアサミちゃんと気楽にお話出来たような気がする。

この時、ボクはただあの娘と話が出来た、その事を喜んでいた。