Blue mirage　


第4話


2013年　5月 -１



そんな事を考えていたら、ゴールデンウィークが開けた今日。突然その時が訪れた。

ボクはついにアサミちゃんとお話出来たんだ！例の美化委員のゴミ集めが今日は音楽室だった。運の良い事にアサミちゃんがピアノ弾いていた。それまで聴いた事がない曲だった。ボクは凄く緊張してた。心臓がドキドキしていた。で、音楽室の前で一度立ち止まって、深呼吸してから思い切って扉を開けて入って行ったんだ。そしたら...

「美化委員です…」

ボクが遠慮がちに入っても気づかないでピアノ弾いてる。ちょっとがっかりしちゃった。でも今日のアサミちゃんは何だか少し元気が無かったような気がする。で、そっとゴミを集めてから後ろを通りかかったら、ふっとピアノ弾く手を止めて…その時、あの娘はこう言ったんだ。

「青い蜃気楼を見た事ある？」

「え？」ボクは少し驚いてそれしか言葉が出なかった。

「あ、なんでもない…ジャマしてごめんね。」

彼女はそこで初めてボクの方を見て、そう言った。

その可愛らしい顔とキレイな髪とピアノを弾く指を...そして、この時始めて気付いたんだけど、彼女のくるっとした瞳は少し遠くを見ているような.,,不思議な印象を浮かべていた。ボクはその全てをガラス越しでなく、最も近い距離で見る事が出来て緊張度はピークに達した。

ボクはとにかく何か話さなきゃと思って言葉を探した。

「ピアノ、上手だね」

せっかくの機会なのに、我ながらガッカリした事にそんなありきたりの事しか言えないでいた。彼女は少し驚いたようだったけど、ちょっと俯いて

「そんな事ないよ…でもありがと」

って言った。ボクは何だか急に照れくさくなって、急いでゴミ箱のゴミを集めてそそくさと音楽室を出て来た。 ただそれだけだ。でも、でもボクはついにアサミちゃんとお話したんだ。たったこれだけの事なんだけど、ボクにとっては大いなる一歩だと思った。

この時、ボクはつまらなかった学校生活が楽しくなって来たような気がした。