zizi さんの日記
2016
5月
28
(土)
20:33
本文
風に尋ねて 第二十一話
八月一週目の出校日。久しぶりに全員顔揃えたって感じの真夏の暑い屋上でハルが叫んだ。
「おい!知ってっか、これ!」
「どうせまたネットのニュースだろ」
カンちゃんがからかうように言う。しかし次にハルの言った言葉にドキっとする。
「そうだけど。ほら、成瀬美月っているでしょ?あの子オレん中で一推しなんだけどさ」
ボクはヒヨコをチラと見たが明後日の方向に目を向けている。
「MIYABEっているじゃん、ロックの。アイツと密会してたって記事になってんぞ」
「えっ!」ボクは驚いて声が出てしまった。
「何だぁ。ジジも好きなんか、写真も撮られてるみたいだから今度の週刊誌に載るらしいって事。どう?ショックだった?」
ハルは勘違いしたままにさせておこうと思った。マコが口を挟む。
「MIYABEってあの宮部先輩の事やろ?今度アニメのエンディング曲になってんな」
ボクは渡りに船と言葉を言いつくろった。
「そうそ、ハル、実はアマチュア時代の宮部先輩...そのMIYABEの事だけどさ、kandersで見た事あるんだ」
「え?そーなの?」ハルは早く言えよと口をとんがらす。
「そうやで、そん時ジジはやな」マコが含みを持たせて口を挟む。
「ちょっと待てよ」ボクは慌ててマコの話を遮った。
「え、何?何がどうなったの?」ヒヨコが急に話に加わった。
「後でな」と口パクでマコがヒヨコに合図したのを見逃すワケも無く、絶対に後でクギを刺しとこうと思った。
「実はさ、ジジ...あとみんなにも話とくけどさ。その成瀬ってコさ...」
それまで笑いながら聞き流してた...かに見えたカンちゃんがマジな顔で話出す。その内容には再びドキっとさせられた。カンちゃんが言ってた八月末のイベントってのはMIYABEのミニライブというか新曲のプロモーションイベントみたいな物で、新譜紹介のトークがメインで曲は二曲しか歌わず、ただそれを地元でお披露目って内容らしい。まだ黙ってても客が多く集まるって状況でもないため、地元のライブハウスでって選択だという事だった。で、ドキっとしたのは次の話で、その後にシークレットゲストってのがいて、それが何と「成瀬美月」だと言うんだ。MIYABEがエンディングテーマに採用されたアニメのサブキャラクターが弾くピアノは成瀬美月が演奏を担当している。でその劇中で使われている「Amazing Grace」を弾いてMIYABEが歌うって事になってるらしい。
「そっか...じゃ、あの密会ってステマってか仕込みじゃねぇのかな?」
ぶっきらぼうにハルが言った。
「どういう事」すっかり関心が絶好調に高まっているボクは思わず尋ねた。
「だからさ、MIYABEって既に一曲出してるけどパっとしなかったよね。だからさ、ちょっと目立つ事して知名度上げようって魂胆じゃね?」
「でも成瀬ってまだ高校生だろ?」
「ああ、あの記事の内容じゃ、ただ一緒に食事してたって事しか書いてなかったけど何だか怪しいみたいなさ、想像ふくらませて煽るような文章だったな」
「そんな事までやるんかな」マコが疑問を口にする。
「そうそ、気になって調べたら二人は同じ事務所なのな。で、あんまゲスなスキャンダルまで行かない程度にやっといてさ、二人共名前売ろうってしてんじゃね?」
「う〜ん...そんなもんかな」
ボク達がここであれこれ語った所で結論は出なかった。しかしMIYABEが新曲発売イベント終了後、話題のJKピアニスト、成瀬美月とジョイントする。しかもその二人には何やら噂があって...って事になると。このタイミングでは注目を集めるだろうという事は想像出来た。そしてその日の帰り道。またボクは自然とヒヨコの最寄り駅まで行き、一緒に電車を降りて歩き出し、いつもの公園に着いた。
「美月...かわいそう...」
ヒヨコは表情を曇らせながら言う。
「そんなに心配?」
「うん...だって...」
ヒヨコはやはり成瀬美月と以前のように仲良くなりたいと思ってて、でも住んでる場所も離れてそのきっかけも無かったので、もしもこのライブの時に会う機会があれば、そしてもしも自分への気持ちが和らいでいれば...もしかしたら仲直りの機会があるかも知れない...と考えてるって事を教えてくれた。しかし真夏の公園はとにかく暑い。
「ノドかわいちゃったね...何か冷たい物でも買おっか。さっきコンビニ寄ってくればよかったね」
「うん...じゃあさ....ちょっと家寄ってく?」
「え...?あ、ああ、そうだね、もしも良ければ...だけど」
ボクは出来るだけ平静を装うとしたけど口がうまく回らなかったと思う。何だか夏の太陽のせいではなく顔が暑くなるのを感じる。ヒヨコは家の前に着くとカギを取り出し自分で開け、「ただいま」と小さな声で言いながら入った。ヒヨコは「どうぞ」と言って先に入って行った。
「おじゃまします」
「ん?早く上がってよ」
「え?家の人は...」
「あ、お母さんしばらく父さんの所行ってるからいないよ」
「あ、そう....だったっけ...おじゃましまーす」
何となく緊張したようなホッとしたような不思議な感覚だった。エアコンのスイッチを入れ、「暑いねー」と言いながら冷蔵庫を開けるヒヨコ。飲み物をコップに注ぎ食卓に座ったボクに差し出しながら言った。
「美月の話だけどさ...」
「うん、ボクも思ってたんだけど、ライブの時会えるんじゃないかな?」
「そう思ったたんだけど....」
「反応が心配?」
「そう...仲直り出来たらって...私の独りよがりかも...だしね」
「うん...あんま勝手な事は言えないけどさ、思い切って声かけてみたら...いいんじゃない?」
「やっぱそうだよね...」
しばらく沈黙が続く。外で雨が降る音が聞こえた。
「あれ?急に雨降ってきちゃった?」
ボクはここに居る口実が出来たみたいで内心嬉しかったけど、それを悟られないように話しを続けた。
「そうみたいだね。お父さんって,...単身で仕事に行ってんだっけ、え〜と...」
「そ、福岡。福岡って行った事ある?」
「いや…無い。あそこ出身の芸能人結構いるよね」
「そうみたいね」
「福岡?博多?どう違うんだろ」
「そうね…知らない…」
そう言いながらこっちをちょっと見た後目を伏せた。彼女は何も言わずに電子ピアノの前に座り鍵盤に指を走らせる。ボクはただ黙ってその音を聴いていた。たぶんショパンの曲だったと思う。目を瞑っていると唐突にピアノの音が途絶え、ヒヨコの声がする。
「雨やんだみたいね」
そういえば雨音はいつの間にか聞こえなくなっている。気の利かない天気...そう思わせる夏の夕方だった。
八月一週目の出校日。久しぶりに全員顔揃えたって感じの真夏の暑い屋上でハルが叫んだ。
「おい!知ってっか、これ!」
「どうせまたネットのニュースだろ」
カンちゃんがからかうように言う。しかし次にハルの言った言葉にドキっとする。
「そうだけど。ほら、成瀬美月っているでしょ?あの子オレん中で一推しなんだけどさ」
ボクはヒヨコをチラと見たが明後日の方向に目を向けている。
「MIYABEっているじゃん、ロックの。アイツと密会してたって記事になってんぞ」
「えっ!」ボクは驚いて声が出てしまった。
「何だぁ。ジジも好きなんか、写真も撮られてるみたいだから今度の週刊誌に載るらしいって事。どう?ショックだった?」
ハルは勘違いしたままにさせておこうと思った。マコが口を挟む。
「MIYABEってあの宮部先輩の事やろ?今度アニメのエンディング曲になってんな」
ボクは渡りに船と言葉を言いつくろった。
「そうそ、ハル、実はアマチュア時代の宮部先輩...そのMIYABEの事だけどさ、kandersで見た事あるんだ」
「え?そーなの?」ハルは早く言えよと口をとんがらす。
「そうやで、そん時ジジはやな」マコが含みを持たせて口を挟む。
「ちょっと待てよ」ボクは慌ててマコの話を遮った。
「え、何?何がどうなったの?」ヒヨコが急に話に加わった。
「後でな」と口パクでマコがヒヨコに合図したのを見逃すワケも無く、絶対に後でクギを刺しとこうと思った。
「実はさ、ジジ...あとみんなにも話とくけどさ。その成瀬ってコさ...」
それまで笑いながら聞き流してた...かに見えたカンちゃんがマジな顔で話出す。その内容には再びドキっとさせられた。カンちゃんが言ってた八月末のイベントってのはMIYABEのミニライブというか新曲のプロモーションイベントみたいな物で、新譜紹介のトークがメインで曲は二曲しか歌わず、ただそれを地元でお披露目って内容らしい。まだ黙ってても客が多く集まるって状況でもないため、地元のライブハウスでって選択だという事だった。で、ドキっとしたのは次の話で、その後にシークレットゲストってのがいて、それが何と「成瀬美月」だと言うんだ。MIYABEがエンディングテーマに採用されたアニメのサブキャラクターが弾くピアノは成瀬美月が演奏を担当している。でその劇中で使われている「Amazing Grace」を弾いてMIYABEが歌うって事になってるらしい。
「そっか...じゃ、あの密会ってステマってか仕込みじゃねぇのかな?」
ぶっきらぼうにハルが言った。
「どういう事」すっかり関心が絶好調に高まっているボクは思わず尋ねた。
「だからさ、MIYABEって既に一曲出してるけどパっとしなかったよね。だからさ、ちょっと目立つ事して知名度上げようって魂胆じゃね?」
「でも成瀬ってまだ高校生だろ?」
「ああ、あの記事の内容じゃ、ただ一緒に食事してたって事しか書いてなかったけど何だか怪しいみたいなさ、想像ふくらませて煽るような文章だったな」
「そんな事までやるんかな」マコが疑問を口にする。
「そうそ、気になって調べたら二人は同じ事務所なのな。で、あんまゲスなスキャンダルまで行かない程度にやっといてさ、二人共名前売ろうってしてんじゃね?」
「う〜ん...そんなもんかな」
ボク達がここであれこれ語った所で結論は出なかった。しかしMIYABEが新曲発売イベント終了後、話題のJKピアニスト、成瀬美月とジョイントする。しかもその二人には何やら噂があって...って事になると。このタイミングでは注目を集めるだろうという事は想像出来た。そしてその日の帰り道。またボクは自然とヒヨコの最寄り駅まで行き、一緒に電車を降りて歩き出し、いつもの公園に着いた。
「美月...かわいそう...」
ヒヨコは表情を曇らせながら言う。
「そんなに心配?」
「うん...だって...」
ヒヨコはやはり成瀬美月と以前のように仲良くなりたいと思ってて、でも住んでる場所も離れてそのきっかけも無かったので、もしもこのライブの時に会う機会があれば、そしてもしも自分への気持ちが和らいでいれば...もしかしたら仲直りの機会があるかも知れない...と考えてるって事を教えてくれた。しかし真夏の公園はとにかく暑い。
「ノドかわいちゃったね...何か冷たい物でも買おっか。さっきコンビニ寄ってくればよかったね」
「うん...じゃあさ....ちょっと家寄ってく?」
「え...?あ、ああ、そうだね、もしも良ければ...だけど」
ボクは出来るだけ平静を装うとしたけど口がうまく回らなかったと思う。何だか夏の太陽のせいではなく顔が暑くなるのを感じる。ヒヨコは家の前に着くとカギを取り出し自分で開け、「ただいま」と小さな声で言いながら入った。ヒヨコは「どうぞ」と言って先に入って行った。
「おじゃまします」
「ん?早く上がってよ」
「え?家の人は...」
「あ、お母さんしばらく父さんの所行ってるからいないよ」
「あ、そう....だったっけ...おじゃましまーす」
何となく緊張したようなホッとしたような不思議な感覚だった。エアコンのスイッチを入れ、「暑いねー」と言いながら冷蔵庫を開けるヒヨコ。飲み物をコップに注ぎ食卓に座ったボクに差し出しながら言った。
「美月の話だけどさ...」
「うん、ボクも思ってたんだけど、ライブの時会えるんじゃないかな?」
「そう思ったたんだけど....」
「反応が心配?」
「そう...仲直り出来たらって...私の独りよがりかも...だしね」
「うん...あんま勝手な事は言えないけどさ、思い切って声かけてみたら...いいんじゃない?」
「やっぱそうだよね...」
しばらく沈黙が続く。外で雨が降る音が聞こえた。
「あれ?急に雨降ってきちゃった?」
ボクはここに居る口実が出来たみたいで内心嬉しかったけど、それを悟られないように話しを続けた。
「そうみたいだね。お父さんって,...単身で仕事に行ってんだっけ、え〜と...」
「そ、福岡。福岡って行った事ある?」
「いや…無い。あそこ出身の芸能人結構いるよね」
「そうみたいね」
「福岡?博多?どう違うんだろ」
「そうね…知らない…」
そう言いながらこっちをちょっと見た後目を伏せた。彼女は何も言わずに電子ピアノの前に座り鍵盤に指を走らせる。ボクはただ黙ってその音を聴いていた。たぶんショパンの曲だったと思う。目を瞑っていると唐突にピアノの音が途絶え、ヒヨコの声がする。
「雨やんだみたいね」
そういえば雨音はいつの間にか聞こえなくなっている。気の利かない天気...そう思わせる夏の夕方だった。
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投稿者 | スレッド |
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zizi | 投稿日時: 2016-6-3 23:06 更新日時: 2016-6-3 23:06 |
登録日: 2008-4-25 居住地: 投稿数: 3247 |
Re[2]: kimuxさんへ kimuxさんどもです、お読み頂きありがとうございます〜!
そうですゲスです。しかしさすがにまだ二人ともティーンですからね、 ちょっと食事してそれを事務所の都合でステマされてるのか... 大人の事情が見え隠れ、三好さんはかつて業界でこういうので 嫌な思いをした事があり、何だかほっとけない...みたいな状況に なりつつあり...というのを解説しないといけないというのを何とか 本文の中でさりげなく伝えないといけないというのが今後の課題です(笑) もう結構後半に来てると思います(思いますって...) また宜しくお願いいたします〜 |
zizi | 投稿日時: 2016-6-3 23:00 更新日時: 2016-6-3 23:01 |
登録日: 2008-4-25 居住地: 投稿数: 3247 |
Re[2]: SCRAPSさんへ お読み頂いたうえにコメントまで頂いちゃって
どうもありがとうございます〜! そうですね、ちょっとイイ感じ...なのか...思春期の頃って ちょっとした偶然で男女二人っきりになると何でもないクラスメートと 何でもない係の仕事とかで本当に何でもないのにドギマギしてたもんです (たぶんしてたんじゃないかと...何せ相当昔の話なもんで:笑) しかしこういう時こそ何か大事な事を見落としてないかと... お前なにやってんだ今こうするんだ(もしくはしちゃダメだ)と若かりし頃の 自分に言って聞かせたい思い出のシチュエーションがいくつか頭に 浮かんだりします(そういうのは何故か覚えていたりする:苦笑) そう、この場面の曲は「雨だれ」を想定しています。しかしジジ少年は 私は先日コメントした通りの理由でこの頃器楽曲をあまり知りません。 なのでショパンだったと思ってるのですが、知らないと何だか恥ずかしいので (この頃はおそらくそんな何でもない事が気になったりするんじゃないかと) 言えずにいる...みたいな(説明しないとわからないなんて) そういえば「君嘘」が実写映画化されるとか。しかしまた映画って 2時間でまとめないといけないからどうでしょう...と思ってたら 広瀬さんはまあ今旬ですからアレとして、え?山崎君?年が... あ。映画は高校生になっとる...しかしそれでも山崎君は...と思ったり... もういいです(何がだ)。あとはおそらく誰も注目してませんが 実写版「斉木楠雄のサイ難」の腹にイチモツ持っているヒロイン照橋さんの 配役が誰になるのかが注目... |
kimux | 投稿日時: 2016-6-2 19:30 更新日時: 2016-6-2 19:30 |
登録日: 2004-2-11 居住地: 地球 投稿数: 6943 |
Re: 風に尋ねて 第21話 遅れ馳せながら、今読みました。
出ました、ゲス!いまどきの物語なんですねぇ |
SCRAPS | 投稿日時: 2016-5-28 22:05 更新日時: 2016-5-28 22:08 |
ターミネーター 登録日: 2007-1-27 居住地: 宮崎市 投稿数: 1424 |
Re: 風に尋ねて 第21話 ヒヨコちゃんとジジ少年、なんかいい感じになってきてますね
相変わらずの青春っぷりにおじさんとしてもなんかムズムズするような あ、別に水虫だとかインキンタムシ的な病気は持っていないのですけどもね 別にこの時期蒸れてムズムズしてくるとかそういうことでは断じて無いのですけどもね まぁ、そんなことはどうでもいいんですが、物語中演奏されていたのがショパンの通称「雨だれ」と呼ばれる曲なのかどうか分かりませんが、あの曲、ショパンが恋人のジョルジュと恋の逃避行中のマジョルカ島にいた時に作られた曲だとか 恋人とふたりきり、マジョルカ島の雨季に降りしきる雨にショパンはどんなことを思っていたのか…… なんてことより、えーい、ショパンっつってもChopin(チョピン)のくせにぃっ!(スペル的に) と、みっともなく嫉妬する矮小な私でありました |
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