zizi さんの日記
2015
2月
7
(土)
21:08
本文
「風に尋ねて」 第八話
そして年末を迎え、12月29日。クラスメイトで忘年会をする事になった。と言っても大した事じゃない。昼間の時間にkandersに集まって、お菓子なんかを持ち込んでワイワイ言うだけ。カンちゃんが話付けてくれて、ワンドリンクだけはオーダー取って、場所を貸してもらった感じ。ハルや深松君や吉山さん含め来れる人だけ15人くらい。陽代子ちゃんにも声かけたんだけど、あの音楽室の出来事以来態度は変わらず。つまりそっけなく忙しいからって断られた。忘年会の最中ハルは女子とばっか喋っててボクとついに喋る機会は無かった。そんな中深松君と吉山さんはやはりボクに聞く。
「ジジ君、どう?桜井さん」
「う〜ん...ボクも良くわかんないんだけど...」
適当に言葉を濁してやり過ごし、この後ボクはこっそり音楽室での出来事をカンちゃんに話した。
「それでさ、何だか急に機嫌悪くなっちゃって」
「ふーん…そりゃ何か...何かの棘に触れたんだろね」
「そうかな...」
ボクはずっとその事が気になって、それ以降の皆との話は上の空だった。夕方になり、お開きになる。何人かはカラオケ行ったけどボクとカンちゃんは飯食いに行こうって話になり、ちょいと歩いた所にあるファミレスに行った。そこでまたくだらない話をして、もうそろそろ帰ろうとして、レジへ向かったその時、唐突にカンちゃんが言った。
「ジジ、あれ」
「カンちゃんどしたの?」
カンちゃんの視線の先を辿ると…
「あっ!」
ボクは思わず声を出した。陽代子ちゃんだった。テーブルを立ったボク達の食器を片付け、テーブルを拭いているのは彼女だった。ボクが呆然としていると、突然カンちゃんは歩み寄り、何か二言三言話してすぐボクの所に戻って来た。
「あと三十分で上がるって」
「え?」
「外もう暗いじゃん。待ってようぜ」
「う…うん…」
ボクたちはそれから店を出て、通用口らしき扉付近で立ち話してた。そしたらカンちゃんは誰かからメール入ったらしいそぶりを見えスマホを取り出し、しばらく眺めた後こう言った。
「ちょ、悪ぃジジ、kanders直ぐに手伝いに来いって言われてんの。オレ行くわ」
「ええっ?そ、そう…」
「しっかりやんな」
カンちゃんはボクの肩をポンポンと叩いて帰って行った。どうすんだよと思いつつしばらく待ってるとついに陽代子ちゃんが出て来た。冬休み前のぎこちなさは全く解消出来ていなかったけど、もう声を掛けるしかない。
「お疲れ...」
ボクの顔を見て彼女はため息をつくような表情を見せながら言った。
「…カンタ君は?」
「用事出来て先に帰った」
「そう...」
「送ってくよ…家どこ?」
「いいって言ったのに…」
「時間も遅いしさ...」
しかし寒い...そんな中、陽代子ちゃんは仕方なくって感じで黙って歩き出した。駅まで行く途中。電車を待ってる間。彼女とボクは気まずい雰囲気を払拭出来る言葉を見つけられずにいた。
そして電車は到着し、無言で乗り込む。
二人で電車に乗った時、小雨が降って来た。傘持ってないや...窓の外を眺めながらそんな事を考えてる間、線路の継ぎ目を通り過ぎるゴトン...という音がリズミカルに聞こえる。ボクは父さんに『ゴメン、遅くなる』とメールを打った。幸いボクの家の方向と同じだった。しばらく立ってたけど席が空いて、二人横並びに座った時探りを入れるように聞いてみる。
「バイト...してたんだね」
しばらく沈黙が流れた。でも、彼女は口を開いた。
「そう...転校して来てからずっとよ...」
「え...そうだったんだ...」
「遅い時間の方が時給いいし」
今度はボクの方が次の言葉に時間がかかった。
「この前さ、ヘンな事言っちゃったかな...ゴメンね」
彼女は俯いたまま言った。
「いいの...私のほうこそヘンだったよね...」
「ううん...」
実はこの時ボクの降りる駅を通過した。ボクは構わず二つ先の駅まで一緒に行き、彼女の最寄りらしき駅で一緒に降りた。改札を抜けると彼女がようやくボクの方を見て尋ねる。
「あれ?もしかして乗り過ごしちゃったんじゃない?」
「え?ああ、そうなんだけど気にしないで」
「もういいわよ、本当に..」
「こうしないとカンちゃんに怒られちゃうよ。最後まで送って行けって」
「何言ってるのよ...もう遅いし」
この時ボクは思ってた事を口にした。
「うそ言ってゴメン...もう少し話ししたいから」
「...」
少し下を向いて振り向き、歩き出した彼女を追って並び、黙って駅から出た時。
「雪...」
彼女の言葉に空を見上げる。先程の小雨が降り止んだかと思いきや、微かであるが雪に変わっている...彼女の家に送って行く間も静かに雪は舞う。彼女は少しづつ....話を続けた。
「小さい頃からピアノが大好きだった。両親にねだって教室に通わせてもらった。でもお父さんが経営してた小さな工場が倒産しちゃってね。借金だらけになっちゃって…普通に働いても長い間かかるし...そんな状況でレッスンも行けるわけ無いでしょ...」
「そうだったんだ...でもピアノは今でも好きなんだよね...今でも毎日練習してるでしょ?」
しばらく沈黙した後彼女は再び口を開いた。
「うん...練習だけはしておかないと...って思って...」
「今は...お父さんは?」
「以前の仕事の知り合いの方に紹介して頂いたりして、何とか働いてはいるけど...いい歳だからね...契約社員とかしか無くて...不安定なんだ」
「あれだけ弾けるのに...」
「家も一軒家から古い団地に移って...音大に行ってって思ったけど...母さんもお父さん助けようとして無理してさ、身体壊しちゃって色々ね...だから私も卒業したら働こうかなーなんて」
いつの間にか雪が止んでいた。交差点で立ち止まってる事に互いに気付いて、ボク達は再び黙って歩き出した。
「...ジジ君、この前言ってた...」
「え?」
「ピアノの吹き替えの...」
「成瀬美月?」
「私ね...あの娘と同じ音大附属高に行ってたの...」
「えええっ?凄いじゃん」
「中学の時から知ってるの...同じ先生に教わってて」
「へ〜、友達なの?」
「...とても仲良かった...お互い励ましあって、親友だって思ってた...」
「...」
しばらく歩いて、角をいくつか曲がり、団地が並ぶ敷地に入って彼女は逡巡し、児童用公園の入り口で「ちょっと待ってて」と言い残して一旦離れ、温かいミルクティーを買って来てくれた。
「ハイ。送ってくれた御礼って言うか....こんなんでゴメン」
「ありがと」
「父さんの会社がダメになっちゃって...結局転校する事になって。皆寂しがってくれて、美月もホントに残念がってくれてて、最後の日に花束交換したりして。最後の別れの挨拶を泣きながら交わしてね。でも私校舎を出てから、忘れ物に気付いて戻ったの。ちょっと恥ずかしいなぁ、なんて思いながら教室に入ろうとしたら笑い声が聞こえて。美月が他のコと笑い合ってるのが聞こえた」
「え...」
「陽代子もこれで終わりよね...って言ってた。もうこの世界じゃやってけないから仲良くする必要無くなったとか...」
「...」
「窓から中覗いたらゴミ箱に私があげた花束入ってて。私ビックリして鞄落として...その音で気付かれちゃって」
「それで...どうなっちゃたの?」
「もう開き直っちゃって。何でまだいるのよって。盗み聞きしてたのかって。あんたなんかもう友達じゃないからって...」
「...辛かったよね...」
「...だからね...もうあんな思いするの二度とごめんだって...友達なんかもう絶対作んないって思って。そしたらもう裏切られる事もないし...」
夜空から雲が流れ、星が見えた来た。ボクは見当違いな応えしか出来なかった。
「もう今年も終わりだね」
「うん...」
ボクは木製遊具の斜面をロープを伝って登り、一段高い所に上がって空を眺める。
「ね、ここに来てみなよ」
「は?」
陽代子ちゃんは口を「バカじゃないの」と動かしながら登って来た。ボクは思わず手を伸ばそうとしたけど...結局出せなかった。彼女はボクのそんな胸の内なんか気にもとめない様子で一人で登って来て隣に並んで空を見上げた。
「雲、晴れてたんだ...あれオリオン座?」
「あっ、ホントだ。じゃ、左下のメッチャ明るいのがシリウスかな」
少し静寂。
「ふふっ」
「え?今笑った?」
久しぶりに見た笑顔。
「まさか...壮大な大宇宙に比べたらそんなちっぽけな事、なんて言うつもり?」
「えっ?まさかそんなベタな事...」
「だよねー」
やっぱベタだよな。それじゃ。
「原子ってさ...」
「え?何?」
「あ、いやこの前さ、物理の授業の時思ったんだ...」
「何を?」
「いや...炭素っての?それの原子で、ホラ、質量が少し無くなるって話」
「ワケわかんない」
「ほら、炭素の原子核って12個の核子で出来ててさ...つまり12個のつぶつぶみたいなのがかたまっててさ...そのつぶつぶ一個分の重さも分かってて、その一個一個の重さを12個分合計したのと、炭素の原子核のひと固まりの重さ比べたらさ、炭素の原子核ひと固まりの方がほーーーんの少しだけ軽いの」
「そうだっけ」
「うん。その無くなった分の重さがさ、12個のつぶつぶを結ぶエネルギーに変換されてるって話」
「ああ...よく覚えてるわね...」
「だから...だからさ、失くしたものがあったんならさ、それはきっと他の何かに生まれ変わってるんだよ」
「さすがジジ君ね...ワケわかんない」
「え?」
「それって...もしかして...励まそうとかしてくれてる?」
「むっちゃそのつもりだけど」
「ふふふっ...」
「あれ?自分でもわけわかんなくなって来た...」
「ごめんね、冗談よ、何となくわかったかような気がする、今の私の家族って感じ...」
「え?そうなの?」
「うん...何となくだけどさ、以前より両親の事理解出来た気がするし、以前より会話も増えたような気がするんだ。ありがと」
こんな所で話し込んでると流石に寒くなって来た。もう帰ろうって遊具から降りた所で陽代子ちゃんはちょっと待ってて、と言って一度家に帰り、すぐに戻って来てハイ、って言ってボクの首にマフラーを巻いてくれた。
もうすぐ新しい年がやって来る...ボクたちにはどんな未来が待ってるんだろうか、ボクは帰りの電車の中でそのマフラーをそっと触ってそんな事をぼんやり考えていた。
そして年末を迎え、12月29日。クラスメイトで忘年会をする事になった。と言っても大した事じゃない。昼間の時間にkandersに集まって、お菓子なんかを持ち込んでワイワイ言うだけ。カンちゃんが話付けてくれて、ワンドリンクだけはオーダー取って、場所を貸してもらった感じ。ハルや深松君や吉山さん含め来れる人だけ15人くらい。陽代子ちゃんにも声かけたんだけど、あの音楽室の出来事以来態度は変わらず。つまりそっけなく忙しいからって断られた。忘年会の最中ハルは女子とばっか喋っててボクとついに喋る機会は無かった。そんな中深松君と吉山さんはやはりボクに聞く。
「ジジ君、どう?桜井さん」
「う〜ん...ボクも良くわかんないんだけど...」
適当に言葉を濁してやり過ごし、この後ボクはこっそり音楽室での出来事をカンちゃんに話した。
「それでさ、何だか急に機嫌悪くなっちゃって」
「ふーん…そりゃ何か...何かの棘に触れたんだろね」
「そうかな...」
ボクはずっとその事が気になって、それ以降の皆との話は上の空だった。夕方になり、お開きになる。何人かはカラオケ行ったけどボクとカンちゃんは飯食いに行こうって話になり、ちょいと歩いた所にあるファミレスに行った。そこでまたくだらない話をして、もうそろそろ帰ろうとして、レジへ向かったその時、唐突にカンちゃんが言った。
「ジジ、あれ」
「カンちゃんどしたの?」
カンちゃんの視線の先を辿ると…
「あっ!」
ボクは思わず声を出した。陽代子ちゃんだった。テーブルを立ったボク達の食器を片付け、テーブルを拭いているのは彼女だった。ボクが呆然としていると、突然カンちゃんは歩み寄り、何か二言三言話してすぐボクの所に戻って来た。
「あと三十分で上がるって」
「え?」
「外もう暗いじゃん。待ってようぜ」
「う…うん…」
ボクたちはそれから店を出て、通用口らしき扉付近で立ち話してた。そしたらカンちゃんは誰かからメール入ったらしいそぶりを見えスマホを取り出し、しばらく眺めた後こう言った。
「ちょ、悪ぃジジ、kanders直ぐに手伝いに来いって言われてんの。オレ行くわ」
「ええっ?そ、そう…」
「しっかりやんな」
カンちゃんはボクの肩をポンポンと叩いて帰って行った。どうすんだよと思いつつしばらく待ってるとついに陽代子ちゃんが出て来た。冬休み前のぎこちなさは全く解消出来ていなかったけど、もう声を掛けるしかない。
「お疲れ...」
ボクの顔を見て彼女はため息をつくような表情を見せながら言った。
「…カンタ君は?」
「用事出来て先に帰った」
「そう...」
「送ってくよ…家どこ?」
「いいって言ったのに…」
「時間も遅いしさ...」
しかし寒い...そんな中、陽代子ちゃんは仕方なくって感じで黙って歩き出した。駅まで行く途中。電車を待ってる間。彼女とボクは気まずい雰囲気を払拭出来る言葉を見つけられずにいた。
そして電車は到着し、無言で乗り込む。
二人で電車に乗った時、小雨が降って来た。傘持ってないや...窓の外を眺めながらそんな事を考えてる間、線路の継ぎ目を通り過ぎるゴトン...という音がリズミカルに聞こえる。ボクは父さんに『ゴメン、遅くなる』とメールを打った。幸いボクの家の方向と同じだった。しばらく立ってたけど席が空いて、二人横並びに座った時探りを入れるように聞いてみる。
「バイト...してたんだね」
しばらく沈黙が流れた。でも、彼女は口を開いた。
「そう...転校して来てからずっとよ...」
「え...そうだったんだ...」
「遅い時間の方が時給いいし」
今度はボクの方が次の言葉に時間がかかった。
「この前さ、ヘンな事言っちゃったかな...ゴメンね」
彼女は俯いたまま言った。
「いいの...私のほうこそヘンだったよね...」
「ううん...」
実はこの時ボクの降りる駅を通過した。ボクは構わず二つ先の駅まで一緒に行き、彼女の最寄りらしき駅で一緒に降りた。改札を抜けると彼女がようやくボクの方を見て尋ねる。
「あれ?もしかして乗り過ごしちゃったんじゃない?」
「え?ああ、そうなんだけど気にしないで」
「もういいわよ、本当に..」
「こうしないとカンちゃんに怒られちゃうよ。最後まで送って行けって」
「何言ってるのよ...もう遅いし」
この時ボクは思ってた事を口にした。
「うそ言ってゴメン...もう少し話ししたいから」
「...」
少し下を向いて振り向き、歩き出した彼女を追って並び、黙って駅から出た時。
「雪...」
彼女の言葉に空を見上げる。先程の小雨が降り止んだかと思いきや、微かであるが雪に変わっている...彼女の家に送って行く間も静かに雪は舞う。彼女は少しづつ....話を続けた。
「小さい頃からピアノが大好きだった。両親にねだって教室に通わせてもらった。でもお父さんが経営してた小さな工場が倒産しちゃってね。借金だらけになっちゃって…普通に働いても長い間かかるし...そんな状況でレッスンも行けるわけ無いでしょ...」
「そうだったんだ...でもピアノは今でも好きなんだよね...今でも毎日練習してるでしょ?」
しばらく沈黙した後彼女は再び口を開いた。
「うん...練習だけはしておかないと...って思って...」
「今は...お父さんは?」
「以前の仕事の知り合いの方に紹介して頂いたりして、何とか働いてはいるけど...いい歳だからね...契約社員とかしか無くて...不安定なんだ」
「あれだけ弾けるのに...」
「家も一軒家から古い団地に移って...音大に行ってって思ったけど...母さんもお父さん助けようとして無理してさ、身体壊しちゃって色々ね...だから私も卒業したら働こうかなーなんて」
いつの間にか雪が止んでいた。交差点で立ち止まってる事に互いに気付いて、ボク達は再び黙って歩き出した。
「...ジジ君、この前言ってた...」
「え?」
「ピアノの吹き替えの...」
「成瀬美月?」
「私ね...あの娘と同じ音大附属高に行ってたの...」
「えええっ?凄いじゃん」
「中学の時から知ってるの...同じ先生に教わってて」
「へ〜、友達なの?」
「...とても仲良かった...お互い励ましあって、親友だって思ってた...」
「...」
しばらく歩いて、角をいくつか曲がり、団地が並ぶ敷地に入って彼女は逡巡し、児童用公園の入り口で「ちょっと待ってて」と言い残して一旦離れ、温かいミルクティーを買って来てくれた。
「ハイ。送ってくれた御礼って言うか....こんなんでゴメン」
「ありがと」
「父さんの会社がダメになっちゃって...結局転校する事になって。皆寂しがってくれて、美月もホントに残念がってくれてて、最後の日に花束交換したりして。最後の別れの挨拶を泣きながら交わしてね。でも私校舎を出てから、忘れ物に気付いて戻ったの。ちょっと恥ずかしいなぁ、なんて思いながら教室に入ろうとしたら笑い声が聞こえて。美月が他のコと笑い合ってるのが聞こえた」
「え...」
「陽代子もこれで終わりよね...って言ってた。もうこの世界じゃやってけないから仲良くする必要無くなったとか...」
「...」
「窓から中覗いたらゴミ箱に私があげた花束入ってて。私ビックリして鞄落として...その音で気付かれちゃって」
「それで...どうなっちゃたの?」
「もう開き直っちゃって。何でまだいるのよって。盗み聞きしてたのかって。あんたなんかもう友達じゃないからって...」
「...辛かったよね...」
「...だからね...もうあんな思いするの二度とごめんだって...友達なんかもう絶対作んないって思って。そしたらもう裏切られる事もないし...」
夜空から雲が流れ、星が見えた来た。ボクは見当違いな応えしか出来なかった。
「もう今年も終わりだね」
「うん...」
ボクは木製遊具の斜面をロープを伝って登り、一段高い所に上がって空を眺める。
「ね、ここに来てみなよ」
「は?」
陽代子ちゃんは口を「バカじゃないの」と動かしながら登って来た。ボクは思わず手を伸ばそうとしたけど...結局出せなかった。彼女はボクのそんな胸の内なんか気にもとめない様子で一人で登って来て隣に並んで空を見上げた。
「雲、晴れてたんだ...あれオリオン座?」
「あっ、ホントだ。じゃ、左下のメッチャ明るいのがシリウスかな」
少し静寂。
「ふふっ」
「え?今笑った?」
久しぶりに見た笑顔。
「まさか...壮大な大宇宙に比べたらそんなちっぽけな事、なんて言うつもり?」
「えっ?まさかそんなベタな事...」
「だよねー」
やっぱベタだよな。それじゃ。
「原子ってさ...」
「え?何?」
「あ、いやこの前さ、物理の授業の時思ったんだ...」
「何を?」
「いや...炭素っての?それの原子で、ホラ、質量が少し無くなるって話」
「ワケわかんない」
「ほら、炭素の原子核って12個の核子で出来ててさ...つまり12個のつぶつぶみたいなのがかたまっててさ...そのつぶつぶ一個分の重さも分かってて、その一個一個の重さを12個分合計したのと、炭素の原子核のひと固まりの重さ比べたらさ、炭素の原子核ひと固まりの方がほーーーんの少しだけ軽いの」
「そうだっけ」
「うん。その無くなった分の重さがさ、12個のつぶつぶを結ぶエネルギーに変換されてるって話」
「ああ...よく覚えてるわね...」
「だから...だからさ、失くしたものがあったんならさ、それはきっと他の何かに生まれ変わってるんだよ」
「さすがジジ君ね...ワケわかんない」
「え?」
「それって...もしかして...励まそうとかしてくれてる?」
「むっちゃそのつもりだけど」
「ふふふっ...」
「あれ?自分でもわけわかんなくなって来た...」
「ごめんね、冗談よ、何となくわかったかような気がする、今の私の家族って感じ...」
「え?そうなの?」
「うん...何となくだけどさ、以前より両親の事理解出来た気がするし、以前より会話も増えたような気がするんだ。ありがと」
こんな所で話し込んでると流石に寒くなって来た。もう帰ろうって遊具から降りた所で陽代子ちゃんはちょっと待ってて、と言って一度家に帰り、すぐに戻って来てハイ、って言ってボクの首にマフラーを巻いてくれた。
もうすぐ新しい年がやって来る...ボクたちにはどんな未来が待ってるんだろうか、ボクは帰りの電車の中でそのマフラーをそっと触ってそんな事をぼんやり考えていた。
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投稿者 | スレッド |
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zizi | 投稿日時: 2015-2-12 20:31 更新日時: 2015-2-12 20:31 |
登録日: 2008-4-25 居住地: 投稿数: 3247 |
Re[2]: kankanさんへ kankanさんどもです。
ええ、今でも仕事終わって家帰ったら家人が何故か 口きいてくれないなんて時々あったりします。 すすきのか〜...北海道、一度も行った事無いんですよ、 いつか行ってみたいですね。 恋心、そうですね、何となく盛り上がって...よし... と思ってそのままにしといたらアレレ?てな感じで。 もしもタイムマシンがあったなら 若い頃のアノ時の自分に一言忠告してやりたいです(笑) 個人的な記憶では甘い体験の方がとても少ないので この辺り描写が甘いかも知れませぬが、そこはまあ 小説の中という事でご勘弁頂けるとありがたく思います〜 されさてこれからどう...盛り上がってドーンとなるのか それとも... どうもありがとうございました! |
zizi | 投稿日時: 2015-2-11 8:33 更新日時: 2015-2-12 20:24 |
登録日: 2008-4-25 居住地: 投稿数: 3247 |
Re[2]: kimux さんへ キム教授ども!
E=mc2はアインシュタインの質量の消失はエネルギーの発生を 意味するというあれですね、実は以前アップしてました予告動画の 1:05あたりに出てくる謎の公式がありまして、 http://gbuc.net/modules/xootube/xootube_view.php?cid=1&lid=123 これは原子核における質量欠損の式でありました。(付け焼き刃的 知識で勿論wiki参照しておりまして、全く詳しくないので決して 議論を吹っかけたり突っ込んだりしないで下さい:笑) また手前味噌ですが「風に尋ねて」の歌詞に 「だけど失うものがあれば必ず何か生まれて来ると」 http://gbuc.net/modules/myalbum/photo.php?lid=16159 という一節がありますが(知らんがな)、まあそんな感じだと... 「考えるんじゃない、感じるんだ!」的にお読み頂ければ(笑) どうもありがとうございました! |
kankan | 投稿日時: 2015-2-10 19:11 更新日時: 2015-2-10 19:11 |
TheKanders 登録日: 2008-1-14 居住地: 投稿数: 2002 |
Re: 風に尋ねて 第8話 前回、なんともスリリング。
(経験あるです。なんなんだよ、まったく) 何考えてんだよ。何か悪いこと言った? 今回、うーん。そうだったのね。 雨が雪に変わり、お膳立てばっちし。 ロマンっすね。 自分も、すすきのを歩いていて、 中島公園で、スノーダストが輝く中、 ふたりで「なんてきれい」って思い出あるです。 でも、恋心って、この今の瞬間、高まったといって、 嬉しいけど、明日の安定ではないんですよね。 儚くて、美しい瞬間だけが残って。それだけになることもある。 おぉ。残酷です。 今後が、楽しみでっす。 |
kimux | 投稿日時: 2015-2-8 1:14 更新日時: 2015-2-8 1:14 |
登録日: 2004-2-11 居住地: 地球 投稿数: 6943 |
Re: 風に尋ねて 第8話 E=MC^2
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zizi | 投稿日時: 2015-2-7 21:24 更新日時: 2015-2-7 21:24 |
登録日: 2008-4-25 居住地: 投稿数: 3247 |
あとがき 連載小説「風に尋ねて」の第八話、御覧頂き誠にありがとうございます。
こちらでお読み頂いてある方にはご理解頂いているかと思っておりますが 改めて申し上げておきます。この小説に登場する人物及び団体等は 実在の人物及び団体とは一切関係無いフィクションでございます。 という訳で次回、「Blue mirage」の登場人物、三好さんが少し 登場する予定です。ではまたよろしくお願い致します〜。 ちなみに今回の BGMはこちらをどうぞ! 「星とミルクティー」zizipiyo http://gbuc.net/modules/myalbum/photo.php?lid=16319&cid=17 登場人物 時次 航佑 :ジジ。高校1年生。吹奏楽部所属。 桜井 陽代子 :ヒヨコ。中途半端な時期にやって来た転校生。 喜屋武 寛太 :カンちゃん。クラスメイト。ライブハウス「kanders」に出入り。 幸田 春雄 :ハル。クラスメイト。女子の情報収集に余念が無い。 紺野 眞子 :マコ。ジジ中学時代の同級生。(いつ出てくるのか?) ゴリ先生;ホントの名前は城園 梁。クラスの担任。 貫太郎:ライブハウス「Kanders」マスター。結構年配です。 凪子:ライブハウス「Kanders」スタッフ。アラサー位?の美人です。 |
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