zizi さんの日記
2014
1月
3
(金)
10:24
本文
Blue mirage
第15話
2014年 1月
三学期が始まり、朝、登校中に吐く息も真っ白になった。
クラスの皆が冬休みに何をやったか報告し合い、まだ授業に気持ちが付いていっていない一昨日、ボクが帰ろうとしてたら珍しく靴箱の所でアサミちゃんと偶然会った。
「ジジ君、社会得意だったよね…?もし良かったら今度私の家に来て教えてくれないかな?」
ボクは自分の耳を疑った。ただもうビックリしたけど何とか返事は出来た。
「え?いいの?行ってもいいのかな?」
ボクのおっかなビックリの返事に彼女はごく普通に応えてくれた。
「いいに決まってるじゃない!私から頼んでるんだから...ジジ君、いつだったら都合いい?」
「いつでもいいよ!」
ボクはもちろんそう答えた。他の何が起きたって、この大事件に優先させるような事柄などこの世の中に存在するもんか。
そんな訳で土曜日の今日、行く事になったんだ。大きなお家だ。玄関で呼び鈴を押すとお母様が出て来られて、少しだけリビングで紅茶を頂いてお話した。ボクはとても緊張していたけれど、事前にアサミちゃんから、きっとお母さん挨拶に出てくるからロックやSFが好なんて言わない方がいいよ、と言われていたので「ジジ君、御趣味は?」と聞かれた時「クラシック音楽を聴く事と小説を読む事で、航空機に興味があります」と言った。嘘ではなかったのでスラスラ言えた。するとお母様は「あら、ジジ君は真面目なのね。じゃ、将来は音楽家か小説家か国際線パイロット?」と聞かれたので「ええ、まあ」と言ってしまった。本当は音楽は今じゃロックの方が好きだし本はSFしか読まないし航空機は軍用機にしか興味ないのに、ちょっと勘違いされてるような気がして、少し後ろめたい気持ちがしたけど、そのままにしておいた。
それから、お母様から「勉強、宜しくね」と言われて二階にある彼女の部屋に行った。ボクはアサミちゃんの部屋に初めて入ってドキドキした。でも…とりあえず勉強する事になったんだけど、「社会の整理と対策」を2ページくらいやった所で、アサミちゃんは「ちょっと休憩ね」と言ってipodでイヤホンして音楽聴きだしたんだ。ボクは...正直に言うと無視されてたような状態だった。で、その後も一人でず〜っと聴いてて。でも途中で...
「ちょっと待ってて」 って言って、一度下に降りて、お菓子と紅茶を持って来てくれたんだ。アサミちゃん、おやつにクッキーを自分で焼いたって。小さくて可愛い包みに入ったクッキーを持って来て「初めて自分で焼いたんだけど...出来には自信が無くて。ジジ君、もし良かったら味見してくれる?」なんて言われて。勿論、味見でも何でもアサミちゃんが作ったクッキーが食べられるなんて思ってもみなかったから、ボクはとても嬉しかった。ホントは少し固いかなって思ったんだけど...
「うん、とっても美味しい」
って言った。でもアサミちゃんにはすぐにバレちゃった。
「ホント?ジジ君、正直に言ってくれないかな?」
「ホントだよ、美味しいよ」
「ジジ君は何でもそう言うから...私ね、もっと上手に作れるようになりたいんだ...ね、お願い。ホントにホントの事教えてくれないかな..?」
アサミちゃんは少し首をかしげて真剣な眼差しでそう言うんだ。この世にアサミちゃんのこんな表情に逆らえるヤツがいるだろうか。いや、いるはずがない。ボクの負けだ。
「うん...少し...固かったかな...?」
ボクは思いっきり遠慮がちに言った。
「やっぱりそうか...ホントは私もそう思ったんだ...でもありがと。たぶん今度はもっと上手に出来ると思うよ」
「そうだね、初めてでこれだけ出来たんだもん。アサミちゃんならきっと出来るよ」
でも、まともに話したのはこの時だけで、この後またアサミちゃんはipodで音楽を集中して聴いてた。時々五線紙とにらめっこしてたっけ。だからそれ以降帰るまであんまり話出来なかった。仕方ないので自分の宿題だけして帰って来た。でもお母様はボクには安心したみたいで、またいらして下さいね、なんて言ってくれた。ちょっと部屋での彼女の態度には不可解な所があったけど、これはこれで大きな進歩なんだと自分に言い聞かせた。
それから、アサミちゃんの家に行って二週間が過ぎた頃。また同じ事がもう一度あって、またアサミちゃんの家に行って来た。この前と同じようにまたお母様と少しお話して、アサミちゃんの部屋へ行って...あ、お母様はすっかりボクの事を信用されたみたいだ。アサミと仲良くしてやってね、なんて言われて。部屋ではまたこの前と同じような感じだった。今度も途中でアサミちゃんが手作りクッキーを持って来てくれた。今度は正真正銘、文句無しの出来だった。その事を伝えると、とても満足そうだった。それで、その日もこの前と同じように、アサミちゃんはその後ずっとipodで音楽聴いてて。今度は五線紙には色々書き込みがしてあって、アサミちゃんも聴きながらピアノ弾くみたいに指動かしたりしてた。でも、途中でハっと気付いて。
「あ、ジジ君、ごめん...何か私...ヘンだよね?」
「ううん...気にしないでやっててよ、ボク宿題の範囲やって...あ、ボクの答え置いとくから後で見たらいいと思うよ」
「ごめ〜ん!ジジ君本当にありがとう!」
両手を顔の前で合わせて、その申し訳なさそうな瞳はボクの方を見てこんな事言うんだ。そんなアサミちゃんの姿は...おそらく世界中でボクしか見た事が無いに違いない。ボクはもう話しなんて出来なくてもいいやと思った。誰も知らない彼女と一緒にいる、そして帰って来た。という事だけで嬉しかったから。
でも。その後ちょっとあれ?と思った。ボクが社会が得意だって知ってた事だ。この話ってした事無かったように思ったから。少し疑問だったけど、すぐに謎が解けた。マコの奴がしゃべってたんだ。昼休みにマコがボクに話しかけて来て、「この前アサミちゃんと廊下で会った時に、ジジの事色々聞いてたから教えてあげたよ」と言った。ボクが社会が得意でその他は中の下、とか家はどの辺りとかって。あ、何でか知らないけど口が固い性格か、なんて事まで聞いてたそうだ。よくわからないけど、とにかく感心を持たれてるんだから良いのかなと思った。もうそれだけで、既にボクはアサミちゃんの家での不可解な態度を忘れて嬉しくなっていた。でもマコの奴は何かあったのか?なんてしつこく聞く。だからボクも思わず言ってやった。
「オマエには関係ないだろ」
って。奴は少し膨れっ面していたけれど、そんなの知らない。その後知らず知らずの内に顔がニヤけてたみたいで、ユーイチからも何だよオマエ気持ちワルいと言われた。
この時ボクは、有頂天になっていてアサミちゃんの少し不思議な態度をあまり深く考えてはいなかった。
第15話
2014年 1月
三学期が始まり、朝、登校中に吐く息も真っ白になった。
クラスの皆が冬休みに何をやったか報告し合い、まだ授業に気持ちが付いていっていない一昨日、ボクが帰ろうとしてたら珍しく靴箱の所でアサミちゃんと偶然会った。
「ジジ君、社会得意だったよね…?もし良かったら今度私の家に来て教えてくれないかな?」
ボクは自分の耳を疑った。ただもうビックリしたけど何とか返事は出来た。
「え?いいの?行ってもいいのかな?」
ボクのおっかなビックリの返事に彼女はごく普通に応えてくれた。
「いいに決まってるじゃない!私から頼んでるんだから...ジジ君、いつだったら都合いい?」
「いつでもいいよ!」
ボクはもちろんそう答えた。他の何が起きたって、この大事件に優先させるような事柄などこの世の中に存在するもんか。
そんな訳で土曜日の今日、行く事になったんだ。大きなお家だ。玄関で呼び鈴を押すとお母様が出て来られて、少しだけリビングで紅茶を頂いてお話した。ボクはとても緊張していたけれど、事前にアサミちゃんから、きっとお母さん挨拶に出てくるからロックやSFが好なんて言わない方がいいよ、と言われていたので「ジジ君、御趣味は?」と聞かれた時「クラシック音楽を聴く事と小説を読む事で、航空機に興味があります」と言った。嘘ではなかったのでスラスラ言えた。するとお母様は「あら、ジジ君は真面目なのね。じゃ、将来は音楽家か小説家か国際線パイロット?」と聞かれたので「ええ、まあ」と言ってしまった。本当は音楽は今じゃロックの方が好きだし本はSFしか読まないし航空機は軍用機にしか興味ないのに、ちょっと勘違いされてるような気がして、少し後ろめたい気持ちがしたけど、そのままにしておいた。
それから、お母様から「勉強、宜しくね」と言われて二階にある彼女の部屋に行った。ボクはアサミちゃんの部屋に初めて入ってドキドキした。でも…とりあえず勉強する事になったんだけど、「社会の整理と対策」を2ページくらいやった所で、アサミちゃんは「ちょっと休憩ね」と言ってipodでイヤホンして音楽聴きだしたんだ。ボクは...正直に言うと無視されてたような状態だった。で、その後も一人でず〜っと聴いてて。でも途中で...
「ちょっと待ってて」 って言って、一度下に降りて、お菓子と紅茶を持って来てくれたんだ。アサミちゃん、おやつにクッキーを自分で焼いたって。小さくて可愛い包みに入ったクッキーを持って来て「初めて自分で焼いたんだけど...出来には自信が無くて。ジジ君、もし良かったら味見してくれる?」なんて言われて。勿論、味見でも何でもアサミちゃんが作ったクッキーが食べられるなんて思ってもみなかったから、ボクはとても嬉しかった。ホントは少し固いかなって思ったんだけど...
「うん、とっても美味しい」
って言った。でもアサミちゃんにはすぐにバレちゃった。
「ホント?ジジ君、正直に言ってくれないかな?」
「ホントだよ、美味しいよ」
「ジジ君は何でもそう言うから...私ね、もっと上手に作れるようになりたいんだ...ね、お願い。ホントにホントの事教えてくれないかな..?」
アサミちゃんは少し首をかしげて真剣な眼差しでそう言うんだ。この世にアサミちゃんのこんな表情に逆らえるヤツがいるだろうか。いや、いるはずがない。ボクの負けだ。
「うん...少し...固かったかな...?」
ボクは思いっきり遠慮がちに言った。
「やっぱりそうか...ホントは私もそう思ったんだ...でもありがと。たぶん今度はもっと上手に出来ると思うよ」
「そうだね、初めてでこれだけ出来たんだもん。アサミちゃんならきっと出来るよ」
でも、まともに話したのはこの時だけで、この後またアサミちゃんはipodで音楽を集中して聴いてた。時々五線紙とにらめっこしてたっけ。だからそれ以降帰るまであんまり話出来なかった。仕方ないので自分の宿題だけして帰って来た。でもお母様はボクには安心したみたいで、またいらして下さいね、なんて言ってくれた。ちょっと部屋での彼女の態度には不可解な所があったけど、これはこれで大きな進歩なんだと自分に言い聞かせた。
それから、アサミちゃんの家に行って二週間が過ぎた頃。また同じ事がもう一度あって、またアサミちゃんの家に行って来た。この前と同じようにまたお母様と少しお話して、アサミちゃんの部屋へ行って...あ、お母様はすっかりボクの事を信用されたみたいだ。アサミと仲良くしてやってね、なんて言われて。部屋ではまたこの前と同じような感じだった。今度も途中でアサミちゃんが手作りクッキーを持って来てくれた。今度は正真正銘、文句無しの出来だった。その事を伝えると、とても満足そうだった。それで、その日もこの前と同じように、アサミちゃんはその後ずっとipodで音楽聴いてて。今度は五線紙には色々書き込みがしてあって、アサミちゃんも聴きながらピアノ弾くみたいに指動かしたりしてた。でも、途中でハっと気付いて。
「あ、ジジ君、ごめん...何か私...ヘンだよね?」
「ううん...気にしないでやっててよ、ボク宿題の範囲やって...あ、ボクの答え置いとくから後で見たらいいと思うよ」
「ごめ〜ん!ジジ君本当にありがとう!」
両手を顔の前で合わせて、その申し訳なさそうな瞳はボクの方を見てこんな事言うんだ。そんなアサミちゃんの姿は...おそらく世界中でボクしか見た事が無いに違いない。ボクはもう話しなんて出来なくてもいいやと思った。誰も知らない彼女と一緒にいる、そして帰って来た。という事だけで嬉しかったから。
でも。その後ちょっとあれ?と思った。ボクが社会が得意だって知ってた事だ。この話ってした事無かったように思ったから。少し疑問だったけど、すぐに謎が解けた。マコの奴がしゃべってたんだ。昼休みにマコがボクに話しかけて来て、「この前アサミちゃんと廊下で会った時に、ジジの事色々聞いてたから教えてあげたよ」と言った。ボクが社会が得意でその他は中の下、とか家はどの辺りとかって。あ、何でか知らないけど口が固い性格か、なんて事まで聞いてたそうだ。よくわからないけど、とにかく感心を持たれてるんだから良いのかなと思った。もうそれだけで、既にボクはアサミちゃんの家での不可解な態度を忘れて嬉しくなっていた。でもマコの奴は何かあったのか?なんてしつこく聞く。だからボクも思わず言ってやった。
「オマエには関係ないだろ」
って。奴は少し膨れっ面していたけれど、そんなの知らない。その後知らず知らずの内に顔がニヤけてたみたいで、ユーイチからも何だよオマエ気持ちワルいと言われた。
この時ボクは、有頂天になっていてアサミちゃんの少し不思議な態度をあまり深く考えてはいなかった。
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投稿者 | スレッド |
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zizi | 投稿日時: 2014-1-5 14:03 更新日時: 2014-1-5 14:03 |
登録日: 2008-4-25 居住地: 投稿数: 3247 |
kimuxさんへ どうも!あけましておめでとうございます。
物語では新学期が始まり、アサミちゃんの不思議な態度に困惑しつつも自分に良いように解釈して喜んでおりますジジ少年。さてさてこれから...はですね。 今までゆったりとした進行でしたが、これから一気に進んで参ります。14話までは自分で言うのもアレですが一話位飛ばしてもあまり影響無かったかも(いや外せない回はありますが)ですが、ここからは一話あたりの字数も少し増えて、一話当りの重要性が増してまいります(たぶんそんな感じになる予定です)。 ではでは、本年も宜しくお願い申し上げます〜! |
kimux | 投稿日時: 2014-1-5 1:07 更新日時: 2014-1-5 1:07 |
登録日: 2004-2-11 居住地: 地球 投稿数: 6943 |
Re: Blue mirage 第15話 う〜、新年早々、不思議な態度、気になる気になる〜
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zizi | 投稿日時: 2014-1-3 10:25 更新日時: 2014-1-3 10:25 |
登録日: 2008-4-25 居住地: 投稿数: 3247 |
あとがき 皆様明けましておめでとうございます。連載小説「Blue mirage」第二期、第15話より再開致します。年が明けたジジ少年、アサミちゃんから思わぬ話を持ちかけられますが果たして吉と出るのかそれとも...ではまた本年も(連載の方は3〜4月頃位までか?)宜しくお願い申し上げます!
関連楽曲はこちらです。(勝手にスンマセン) Miragegazer/zizi【第ニ期OP曲】 http://gbuc.net/modules/myalbum/photo.php?lid=15859&cid=58 Farewell/zizi【第ニ期ED曲】(予定) She Was Briting/kankanさん【第一期OP曲】 http://gbuc.net/modules/myalbum/photo.php?lid=15661&cid=8 春風 feat kayumai/zizi feat.kayumai【第一期ED曲】 http://gbuc.net/modules/myalbum/photo.php?lid=15775&cid=58 Mr. DJ/kankanさん【【劇中挿入歌】 http://gbuc.net/modules/myalbum/photo.php?lid=15560&cid=1 瞳の向こう- for Blue Mirage -/kankanさん【劇中挿入歌】 http://gbuc.net/modules/myalbum/photo.php?lid=15770&cid=1 BLUE MIRAGE/Asakoさん曲ziziアレンジver 【イメージテーマ曲】 http://gbuc.net/modules/myalbum/photo.php?lid=15470&cid=1 バックナンバーはこちらです。 http://gbuc.net/modules/d3diary/index.php?req_uid=2049&mode=category&cid=4 登場人物 ジジ:無気力な中学二年生。音楽室で隣のクラスの女の娘に一目ボレします。 アサミ:ジジの隣のクラスの女の娘。音楽室でピアノを弾いている。ジジと少しづつ心を通わすように..なるのか? マコ:ジジの隣の席の女子。ジジとはいつもケンカばかりしている女子。天敵なのか...? 貫太郎:ライブハウス「Kanders」マスター。結構年配です。 凪子:ライブハウス「Kanders」スタッフ。アラサー位?の美人です。 ヤスオ先輩:ジジの先輩。バンド「Potmans」で活動中。現在大学生です。 ユーイチ:ジジの親友、学級委員の秀才。 須倉先生:ジジのクラスの担任の先生。あだ名はスクラップ先生。 なり子先生:教育実習の可愛らしい先生。(7話) 樋渡先生:教育実習のカッコいい先生。(7話) 宮部先輩:イケメンで音楽センス抜群。ジジ少年最大のライバル...なのか? 三好絵理香:宮部先輩のバンドのマネージャー役。二十歳そこそこ。 また、この物語はフィクションであり、登場する人物や団体の名称等は実在のものとは一切関係ありません。 それではまた次回。 |
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