zizi さんの日記
2013
11月
13
(水)
20:30
本文
Blue mirage
第11話
2013年 9月
夏休みが終わり、少し涼しくなって来た。
二学期が始まり、ボクはまた音楽室を訪れるようになった。夏休みの出来事が少し気になってはいたけど、アサミちゃんのピアノを聴くことと、その後の他愛のないおしゃべりは続いた。マコは相変わらず時折一緒に来ては早めに帰る。
ある日、マコと一緒に音楽室にいた時だった。ボクはつい気になっていた事を口にした。
「アサミちゃん。この前の発表会の時..」
「あ、あの時、二人ともどうもありがとう。ちょっと慌ただしかったからあんまり話も出来なくてごめんね」
「いや、そんなのいいんだ。それより、あの時さ..」
ボクがそこまで言いかけた時。
「ね、アサミちゃん、コイツにピアノ弾かせてみようよ」
と、唐突にマコがと言い出した。今度はボクは音楽室を出て行かずに、ビートルズの「Let it be」を弾いた。ただしイントロの4小節だけだったけど。父さんが持ってた「誰でも弾けるビートルズ」という本があったのを発見し、少し練習していたのが思わぬ所で役に立った。
「ジジ君、ちゃんと弾けるじゃない!」
「だめやてアサミちゃん、正直に言うてやり、ど下手やって」
ボクはマコに向かって言った。
「オマエな。そんな事言ってるとまたグリグリしてやるからな」
「キャ〜、アサミちゃん助けけ〜、ジジがおそって来る〜っ」
マコはふざけてアサミちゃんの後ろに隠れるような仕草をする。
「ダメだよ〜ジジ君、か弱い女の子にそんな事しちゃ」
「そーだそーだ、ヤメろ〜」
か弱いだって?でもアサミちゃんが言うならそういう部類に入れてやるのも仕方無い。
「モチロン冗談だよ。本当にそんな事しないよ」
「あっ、私も冗談よ、ジジ君そんな人じゃないってわかってるよ」
「え〜そうやろか〜、アサミちゃんもいっぺんよ〜く考えてみた方がええんやない?」
アサミちゃんの言葉に有頂天になっていたボクにマコのおフザケは耳に入らなかった。そして、この後いつものようにアサミちゃんはピアノの練習をして、ボクは机にノートを開げて聴いていた。
こんな事を続けている間に、ボクはある事に気づいた。彼女のピアノは同じ曲を弾いていても日によって印象が違う。何がどう、と言われても言葉では上手く説明出来ない。今日は明るい雰囲気だ、と感じると、後で話してみると何か良い事があったり、憂いを感じると、ちょっと嫌な事があって、なんて事があった。彼女のピアノは感情を表現する事が出来るのだろうか。一度尋ねてみたけど自分でもよく分からないって言ってた。
でもボクは自分の心の中に染みのような物が出来ている事を自覚していた。そう、あのピアノの発表会の日に見た、アサミちゃんと楽しそうに話をしていた男の人がとても気になる…
2013年 10月
季節は秋に変わっていた。
文化祭のステージではユーイチが得意のギターと歌を披露して女子生徒からの喝采を浴びていた。
「良かったよユーイチ、上手いじゃん。さすが師匠」
「おお、サンキュ。でも出来はイマイチだったけどね。あ〜緊張した〜」
「お疲れさん。女子の黄色い声援が凄ぇじゃん」
「あ〜、そうだったの。ジジよ、オマエにもまた教えてやろか?」
「いや...最近オレもちょっと忙しくてさ、また今度な」
ボクは体育館の裏口でステージを終えてホッとしているユーイチを出迎えた。こいつは今おそらく人生最高のモテ期を迎えている事だろう。しかしユーイチには申し訳ないが、ボクは他の演目、隣のクラスの合唱が一番よかった。勿論伴奏者がアサミちゃんだったからだ。
文化祭の余韻も収まり、いつもの雰囲気に戻った頃、ボクはまた音楽室を訪れアサミちゃんのピアノを聴いて、その後おしゃべりをする、その事にある種の「慣れ」を感じていた。そうなるとどうしてもあの事が気になってしまう。そしてついに訊いてしまった。今日はマコがいなくて邪魔される恐れは無い。そう、あの夏休みの発表会の時にいた、あの男の人の話。ボクは出来るだけさりげなく、そして恐る恐る訊いた。
「ね、アサミちゃん。今更だけど、夏休みの発表会に出てる人ってみんな上手だったよね」
「え?うん、そうね、あの先生厳しいから...辞めてった人も結構いるのよね...」
「ふ〜ん、そうなんだね。そういえば、あの最後に弾いた男の人、あの人ってやっぱ特別なお弟子さんなの?」
「あ、宮部先輩ね、カッコいいでしょ?先生の門下生の中では一番上手でね、あっ、ジジ君知らないかな?うちの中学のOBなんだよ。それでね…」
予想に反して彼女は嬉しそうにおしゃべりを始め、色んな事を教えてくれた。宮部先輩はこの中学のOBで、今は高校2年生、アサミちゃんとは同じ先生からピアノを習っていて、小学校の時から知ってるらしい。今でもレッスンの時によく顔を合わせるそうだ。子供の頃から生徒の中では一番上手くて、他の楽器も色々出来て、今じゃギターも歌もメチャクチャ上手い。高校生になると同時にバンド活動を初め、今じゃ早くもプロ目指して活動してるって事なんかを。
「それでね、あの発表会の時、私のピアノをとても褒めてくれたんだよ」
「へえ、あんな上手い人に褒められるなんてさすがだね」
「うん...何て言うか...ほら、ただ技術的に巧い、ってそういう所じゃなくて、音の表情とかそういうの...」
「何となくわかるよ」
「わぁ、やっぱりね、思ってたとおりだ...ジジ君ならわかってくれると思ってたんだ」
「え...?どうして?」
「ジジ君この前言ってたもんね。私のピアノの音に感情を感じるって...宮部先輩も私のそんな所を認めてくれてるって感じなんだ...この前もね...」
アサミちゃんはその時の様子を明るく話してくれた。やはりタダのイケメンじゃなかったんだ…と思った。ボクはヘンな所に感心されたけど、初めて見る彼女のはしゃいだ様子に動揺した。
そして、その後彼女は1曲ピアノを弾いた。それは楽しさの中にも何かへの憧憬を感じさせる…普通なら清々しさを感じるはずなのに、ボクの気持ちは何故かこの時少し痛んだ。彼女のピアノを聴いて初めて覚える感覚だった。
ボクはこの時、心の中に広がって来た染みには色彩が無い事を感じていた。
第11話
2013年 9月
夏休みが終わり、少し涼しくなって来た。
二学期が始まり、ボクはまた音楽室を訪れるようになった。夏休みの出来事が少し気になってはいたけど、アサミちゃんのピアノを聴くことと、その後の他愛のないおしゃべりは続いた。マコは相変わらず時折一緒に来ては早めに帰る。
ある日、マコと一緒に音楽室にいた時だった。ボクはつい気になっていた事を口にした。
「アサミちゃん。この前の発表会の時..」
「あ、あの時、二人ともどうもありがとう。ちょっと慌ただしかったからあんまり話も出来なくてごめんね」
「いや、そんなのいいんだ。それより、あの時さ..」
ボクがそこまで言いかけた時。
「ね、アサミちゃん、コイツにピアノ弾かせてみようよ」
と、唐突にマコがと言い出した。今度はボクは音楽室を出て行かずに、ビートルズの「Let it be」を弾いた。ただしイントロの4小節だけだったけど。父さんが持ってた「誰でも弾けるビートルズ」という本があったのを発見し、少し練習していたのが思わぬ所で役に立った。
「ジジ君、ちゃんと弾けるじゃない!」
「だめやてアサミちゃん、正直に言うてやり、ど下手やって」
ボクはマコに向かって言った。
「オマエな。そんな事言ってるとまたグリグリしてやるからな」
「キャ〜、アサミちゃん助けけ〜、ジジがおそって来る〜っ」
マコはふざけてアサミちゃんの後ろに隠れるような仕草をする。
「ダメだよ〜ジジ君、か弱い女の子にそんな事しちゃ」
「そーだそーだ、ヤメろ〜」
か弱いだって?でもアサミちゃんが言うならそういう部類に入れてやるのも仕方無い。
「モチロン冗談だよ。本当にそんな事しないよ」
「あっ、私も冗談よ、ジジ君そんな人じゃないってわかってるよ」
「え〜そうやろか〜、アサミちゃんもいっぺんよ〜く考えてみた方がええんやない?」
アサミちゃんの言葉に有頂天になっていたボクにマコのおフザケは耳に入らなかった。そして、この後いつものようにアサミちゃんはピアノの練習をして、ボクは机にノートを開げて聴いていた。
こんな事を続けている間に、ボクはある事に気づいた。彼女のピアノは同じ曲を弾いていても日によって印象が違う。何がどう、と言われても言葉では上手く説明出来ない。今日は明るい雰囲気だ、と感じると、後で話してみると何か良い事があったり、憂いを感じると、ちょっと嫌な事があって、なんて事があった。彼女のピアノは感情を表現する事が出来るのだろうか。一度尋ねてみたけど自分でもよく分からないって言ってた。
でもボクは自分の心の中に染みのような物が出来ている事を自覚していた。そう、あのピアノの発表会の日に見た、アサミちゃんと楽しそうに話をしていた男の人がとても気になる…
2013年 10月
季節は秋に変わっていた。
文化祭のステージではユーイチが得意のギターと歌を披露して女子生徒からの喝采を浴びていた。
「良かったよユーイチ、上手いじゃん。さすが師匠」
「おお、サンキュ。でも出来はイマイチだったけどね。あ〜緊張した〜」
「お疲れさん。女子の黄色い声援が凄ぇじゃん」
「あ〜、そうだったの。ジジよ、オマエにもまた教えてやろか?」
「いや...最近オレもちょっと忙しくてさ、また今度な」
ボクは体育館の裏口でステージを終えてホッとしているユーイチを出迎えた。こいつは今おそらく人生最高のモテ期を迎えている事だろう。しかしユーイチには申し訳ないが、ボクは他の演目、隣のクラスの合唱が一番よかった。勿論伴奏者がアサミちゃんだったからだ。
文化祭の余韻も収まり、いつもの雰囲気に戻った頃、ボクはまた音楽室を訪れアサミちゃんのピアノを聴いて、その後おしゃべりをする、その事にある種の「慣れ」を感じていた。そうなるとどうしてもあの事が気になってしまう。そしてついに訊いてしまった。今日はマコがいなくて邪魔される恐れは無い。そう、あの夏休みの発表会の時にいた、あの男の人の話。ボクは出来るだけさりげなく、そして恐る恐る訊いた。
「ね、アサミちゃん。今更だけど、夏休みの発表会に出てる人ってみんな上手だったよね」
「え?うん、そうね、あの先生厳しいから...辞めてった人も結構いるのよね...」
「ふ〜ん、そうなんだね。そういえば、あの最後に弾いた男の人、あの人ってやっぱ特別なお弟子さんなの?」
「あ、宮部先輩ね、カッコいいでしょ?先生の門下生の中では一番上手でね、あっ、ジジ君知らないかな?うちの中学のOBなんだよ。それでね…」
予想に反して彼女は嬉しそうにおしゃべりを始め、色んな事を教えてくれた。宮部先輩はこの中学のOBで、今は高校2年生、アサミちゃんとは同じ先生からピアノを習っていて、小学校の時から知ってるらしい。今でもレッスンの時によく顔を合わせるそうだ。子供の頃から生徒の中では一番上手くて、他の楽器も色々出来て、今じゃギターも歌もメチャクチャ上手い。高校生になると同時にバンド活動を初め、今じゃ早くもプロ目指して活動してるって事なんかを。
「それでね、あの発表会の時、私のピアノをとても褒めてくれたんだよ」
「へえ、あんな上手い人に褒められるなんてさすがだね」
「うん...何て言うか...ほら、ただ技術的に巧い、ってそういう所じゃなくて、音の表情とかそういうの...」
「何となくわかるよ」
「わぁ、やっぱりね、思ってたとおりだ...ジジ君ならわかってくれると思ってたんだ」
「え...?どうして?」
「ジジ君この前言ってたもんね。私のピアノの音に感情を感じるって...宮部先輩も私のそんな所を認めてくれてるって感じなんだ...この前もね...」
アサミちゃんはその時の様子を明るく話してくれた。やはりタダのイケメンじゃなかったんだ…と思った。ボクはヘンな所に感心されたけど、初めて見る彼女のはしゃいだ様子に動揺した。
そして、その後彼女は1曲ピアノを弾いた。それは楽しさの中にも何かへの憧憬を感じさせる…普通なら清々しさを感じるはずなのに、ボクの気持ちは何故かこの時少し痛んだ。彼女のピアノを聴いて初めて覚える感覚だった。
ボクはこの時、心の中に広がって来た染みには色彩が無い事を感じていた。
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投稿者 | スレッド |
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zizi | 投稿日時: 2013-11-14 21:11 更新日時: 2013-11-14 21:11 |
登録日: 2008-4-25 居住地: 投稿数: 3247 |
付録写真について 付録写真は前回に引き続き築城基地航空祭2013よりBlue繋がりで「Blue impulse」です。
今回のはアクロバット時のあまりにも接近した様子を。題して「これぶつかってんじゃね?」シリーズ1〜3です。ちなみに全てトリミングしてありますので品質についてはご容赦下さい。特に3番目のは鬼のようなトリミングを(笑) 左から。 1.ファン・ブレイク。四機の密集編隊 、翼端の最短距離はなんと1m程度。 撮り方がヘタですみません...4番機が完全に3番機に被っとる... 2.四機での背面飛行、4・シップ・インバート。背面飛行時は操縦桿の操作が逆になるそうで... 3.ハーフスローロール。5・6番機二機での背面飛行から水平飛行に戻る瞬間。6番機の挙動は方向舵の舵角が大きく取れるようにしてあるブルー仕様のT-4にしか出来ないワザです。 |
zizi | 投稿日時: 2013-11-13 20:32 更新日時: 2013-11-13 20:32 |
登録日: 2008-4-25 居住地: 投稿数: 3247 |
あとがき 夏休みも終わり、ようやく二学期に進んで参ります。今回は初めての二日間の描写となり、実際の季節に追いついて来ました。あ、ライブハウスはまた数話後に登場予定、その時に三好絵梨香嬢も登場予定です。
関連楽曲はこちらです。(勝手にスンマセン) She Was Briting/kankanさん【第一期OP曲】 http://gbuc.net/modules/myalbum/photo.php?lid=15661&cid=8 春風 feat kayumai/zizi feat.kayumai【第一期ED曲】 http://gbuc.net/modules/myalbum/photo.php?lid=15775&cid=58 Mr. DJ/kankanさん【【劇中挿入歌】 http://gbuc.net/modules/myalbum/photo.php?lid=15560&cid=1 瞳の向こう- for Blue Mirage -/kankanさん【劇中挿入歌】 http://gbuc.net/modules/myalbum/photo.php?lid=15770&cid=1 BLUE MIRAGE/Asakoさん曲ziziアレンジver 【イメージテーマ曲】 http://gbuc.net/modules/myalbum/photo.php?lid=15470&cid=1 バックナンバーはこちらです。 http://gbuc.net/modules/d3diary/index.php?req_uid=2049&mode=category&cid=4 登場人物 ジジ:無気力な中学二年生。音楽室で隣のクラスの女の娘に一目ボレします。 アサミ:ジジの隣のクラスの女の娘。音楽室でピアノを弾いている。ジジと少しづつ心を通わすように..なるのか? マコ:ジジの隣の席の女子。ジジとはいつもケンカばかりしている女子。天敵なのか...? 貫太郎:ライブハウス「Kanders」マスター。結構年配です。 凪子:ライブハウス「Kanders」スタッフ。アラサー位?の美人です。 ヤスオ先輩:ジジの先輩。バンド「Potmans」で活動中。現在大学生です。 ユーイチ:ジジの親友、学級委員の秀才。 須倉先生:ジジのクラスの担任の先生。あだ名はスクラップ先生。 なり子先生:教育実習の可愛らしい先生。(7話) 樋渡先生:教育実習のカッコいい先生。(7話) 宮部先輩:イケメンで音楽センス抜群。ジジ少年最大のライバル...なのか? また、この物語はフィクションであり、登場する人物や団体の名称等は実在のものとは一切関係ありません。 それではまた次回。 |
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