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zizi さんの日記

 
2012
9月 7
(金)
04:04
zizi通信 07 「水の空に眠る」第四話
本文
連載小説「水の空に眠る」の第四話です。
初めての方若しくは過去の話をお忘れの方へ 説明がすると長くなりますので
経緯とバックナンバーは下記よりお読み頂ければと思います(毎度スミマセン...)。

第一話
第二話
第三話

主な登場人物(今回登場しない方含む)
簡寛太 海軍航空隊に所属する特攻隊員
なぎこ 航空隊のある町の花街にいた美しい娘「なぎこ」
由布 一 寛太の基地の司令官
ぽとまん「黒猫館」常連客で萬商店「土瓶屋」の主
いさこ なぎこと同じ店で働く娘。声の美しい、恥ずかしがり屋。
まこ なぎこと同じ店で働く娘。おきゃんで元気、だけど寂しがり屋。
じじ 彼女たちを束ねる怪しい料亭「黒猫館」のあるじ。
樋渡干記  大陸帰りの従軍記者。過去経歴に謎の部分有り。

第四話は寛太達の隊の出撃を見送った基地指令官の横顔のアップから始まります...
由布司令官とじじ、そして後年発見されるテープに書かれた「いさこ」の接点とは?
そして、寛太となぎこのその後は...(今回はちょっと長いです)

今回のオープニングテーマ及び外伝はこちらを。.
「君十七の月ほの暗く」/yuuichikさん&YsaeKさんのコラボ曲
挿入歌にこちらをどうぞ。
「キリエ」/YsaeKさん


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「水の空に眠る」

第四話 司令官の憂鬱、その過去

1945年 4月7日 
-朝- 寛太の隊出撃直後の航空隊基地


寛太が乗る機を見送った基地司令官、由布 一。
かつては米国に駐在武官として赴任した経験もあり、敵をよく知っていた。
性格は冷静かつ誠実で決して居丈高になる事無く、部下の信頼も厚かった。


0600、出撃機を見送った後、次回の出撃に備え基地に並ぶ零式艦上戦闘機を眺めながら
一抹の寂寥感をどうしても拭えなかった。

出撃した後に爆装した状態で敵機と遭遇したら…と思うとどうしても気分が落ち着かず、
今日の出撃前の儀式を終えた後、搭乗員を自分の側に集め、小声で訓示した事を思い出していた。

「健闘を祈る…だが、もしも目的地へ辿り着くことがどうしても困難な場合…
 爆弾を投棄しても構わんから全力で次の機会に備えるように。あと、これは命令だ。
 全員着用してから出撃せよ。」

そう言って、皆が不要だと捨てていた救命用具を手渡したのだった。目的地へ辿り着けそうに
無かったらどこへ逃げ延びて生き残れ…と言いたかったのだがそれをはっきりと口にする事が
出来ない事を申し訳なく思っていた。

自分がこんな作戦に命令を下さなくてはならない立場にある事に嫌悪感を抱く事もあったが、
かと言ってこの思いを他の人間に味合わせる事は出来ない…そう考えていた。

「そういえば...あのなぎこという娘には申し訳無い事をした...」

寛太が着任して間もない頃一緒に訪れた黒猫館。あそこは何度行っても居心地が良い。
どこで知り合ったのか、寛太は店の「なぎこ」という娘と既に仲良さそうであった。
何故か私はここで「校長先生」とあだ名を付けられているらしいが気付かないふりをしている。
なぎこは美しく器量の良い娘で、主も一目置いているようだった。座敷の流れから、
客への気配り、他の芸妓達への手配、料理や酒の時宜にかなった配膳等その場に居る
黒猫館の皆を自然と従わせる徳を備えている。
こんな御時世でなければあの二人は、きっとお似合いの夫婦となれただろう…

「全機無事出撃致しました!」

副官の声が大きく響き、我に返る。

隣にいた男が不思議そうに声をかけた。最近この基地に居座って取材を続けている
従軍記者の樋渡干記という男だ。

「一機だけ街の上空を旋回していたようですが、あれは寛太隊員の機でしたか...
 彼には取材で話を聞いた事あります。編隊長機も何だか判ってて待ってるみたいに見えましたね…」

以前は満州で陸軍の庇護を受け映画を撮っていた、との事だったが過去の経歴には謎の部分がある。
この男は硝煙の匂いがする...そう感じていた。

「うむ。世話になった街に最後の挨拶をしていたのだろう。陸軍ではやらんかね?
 ああ、今の事は記事にはしないでくれたまえよ。」

由布は、しばらく部屋に誰も来ないように、と言い残し一人長官室に戻り机に向かう。
そしていつものように、先程出撃した隊員の家族に宛てた手紙をしたためるのであった。

この作業を行う時にはいつも、どうしても過去の出来事を思い出してしまう。
そういえば...自分が昨年転任して来た時にもまず訪れたのが「黒猫館」だった...


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1944年 10月
「黒猫館」敷地奥の土蔵

私は着任後、まず「黒猫館」を訪れた。どうしても確認しておきたい事があったのだ。
その時、主は座敷の接待もそこそこに私を敷地奥の土蔵に案内した。

「主、これは…」中に入った私は絶句した。主が質問に答える。

「こちらに転任して来られると聞いて驚きました。ここには誰も来ませんから御安心下さい。
 以前お会いした時は...失礼な口の利き方で大変失礼致しましたな...この中の物は...
 ちょいと昔の話ですがね...実は大戦の間、米国や欧州をほっつき歩いてた時期がありましてね。
 そん時仕入れて来たモノもありますが...いやあ、ある所にはあるもんです。」

食料の向こうにドイツ製のアップライトピアノ、他にも楽団が一式出来るのではと思われる程の楽器類、
それに蓄音機に奥の棚には独語のスコアや楽譜、英語の音楽雑誌と共にクラシック音楽、南米音楽、
グレン・ミラーやベニーグッドマンのSwing-jazzのSP盤が所狭しと並んでいた。しげしげと眺めていると
その中に一つだけ、本来ここにあるはずの無い機械を見て驚愕した。

「主、こ、これはまさか...一体どこでこれを?」
「流石にお目が高い、これは..音声信号を磁気録音方式で記録する装置ですが...御存知で?」
「大戦間に..軍が研究用に輸入した原形を見た事がある...どこでこんな物を?」
「そいつは...ドイツにはちょっとした知り合いがおりましてね。ま、今じゃ連絡も取れませんがね...
 でもそんな事は司令官殿はお知りにならなくて結構です。そんな事よりも...
 あの方は...今も息災のようです。時々食料などを御送りしたりしていますがね。
 御礼の手紙を頂戴したりしております。それにあの娘...いさこも元気ですよ...
 あの後...汽車でここに着くまで、下を向いて一言もしゃべりませんでしたね。
 黒猫館に着いてから事情を説明したんですが...最初はかなり驚いてました。
 しかし先程座敷にいたなぎこなんかは流石です、彼女の素質を一目で見抜きましたね。
 鼓が得意なんですな、今ではすっかり馴染んでます。少し食いしん坊ですがね...

 いやこいつは余計な事でしたな...失礼致しました。それよりも...
 司令官殿、今日座敷で唄に合わせて体動かしてあったですよね…裏に強拍が付いてた
 ようににお見受けしましたんで、もしやと思いまして…いえいえ分かっております。
 お立場もおありでしょうから何も仰らなくて結構です。どうぞ、この土蔵では決して
 外に音は漏れませんし絶対に口外はしません。勿論もしもの時に類が及ぶと
 いけませんからね、店の者も誰一人ここの事を知っている人間はいません…
 だから、いつでも御好きな時にお好きなように過ごして下さいませ…」

図星だった。米国駐在武官時代に知ってしまった西洋音楽、とりわけSwing-jazzの素晴らしい躍動感、
どうしても体が求めてしまう。それにあの音声信号を磁気録音方式で記録する装置...
黒猫館裏の土蔵の中はまるで別世界であった。

しかし...

あの娘の事は...影から見守る事しか出来ない。その方が幸福な生活を過ごせるであろう。
帰り際にそっと座敷を覗いて元気でいる事を確認する。由布の脳裏にはありありと、
ここの主、「じじ」と初めて会った時の事を思い出していた。

あれは2年前...

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1942年7月

神戸市 ホテルの一室

太平洋戦争が開戦して半年を過ぎたこの頃。
まだ国民は南方で日本軍の進撃がつまづきつつある事を知らされずに、浮かれた状態にあった。
私は噂に聞いていた「じじ」なる男の宿泊先をようやく探し出し、ホテルの一室を尋ねたのだった。

「何ですかね?私に話って」

通称「じじ」なる人物はやや尊大な調子で応えた。

私は人目を憚って地味な平服姿だったが、彼はそんな自分を値踏みするように眺めた。
軍人相手には容赦はしない...そんな気持ちがありありと見える、聞いていた通りいけすかない態度だった。
話によるとこの男は軍人相手だと詐欺まがいの事も平気で、相手の弱みにとことんつけ込む事にいささかの
ためらいも感じない性質らしい。一筋縄では行かない...そう思ったが時間がない。早速話を切り出した。

「うむ。貴殿は歌舞に秀でた若い才能ある者を捜している、と聞いている」
「まあね。ただし軍人の親族や名家の…ってのは御免だね。自分で何とかしてくれってもんさ」
「実は...貴殿は今の戦況を知っているか。まだ国民には知らされていないが...このままじゃいずれ
 必ず日本本土も空襲される。そうなる前に一人庇護して頂きたい若い娘がおるんだが…」
「何を勝手な事言いやがる。頼みもしねぇのにあんたらが勝手に戦争始めたんじゃねぇか。
 俺は軍隊が嫌いだ。軍人様の御用聞きなんざ御免です」
「しかし貴殿は今私と会っている。何故だ? 」
「ああ。皆が嫌いだとは言わない。きちんとした...良識がある人も大勢いるのは分かってる。
 気脈が知れた人物とは今でも情報交換し協力し合ってる。持ちつ持たれつってもんだ。
 あんたもその中の一人からの紹介だったんで一応会っている。」
「貴殿も昔は軍楽隊にいたと聞いているが…?」

「あんたにゃ関係ないが…まあいいさ、教えてやる。」

少しだけ苦渋の表情を見せた様だったが彼は平静を装って言葉を続けた。

「俺が若い頃軍楽隊にいた時親友がいた。優秀な男だった。しかしその才能を妬んだ輩がいたんだ。
 俺達は危険な場所へ行かされて、奴は死んだ。俺もその時怪我をして今でも足が言う事聞かねえ。
 その口利きをした奴は上層部に親戚か何か居て...巧く立ち回って昇進した。同情してくれる人もいて
 事情を教えてもらったが全ては事が終わってから知ったんだ。後の祭りだったよ。
 将来きっと御国の役に立つ有能な若い者を殺しておいて...あんな馬鹿な奴を昇進させちまうなんざ...
 今の軍隊も同じさ。根性、根性ばかり言いやがって適材適所ってもんがなっちゃあいない。
 だからミッドウエイであんな無様な負け戦をするんだ。国民が汗水流して働いた稼ぎを吸い上げて
 大金費やして戦争なんかおっ始めて...世の中にはもっと大事なモンがあるんだ。大体...」

たまらず私は言葉を遮った。

「わかった、言いたい事はわかる。しかし、すまんが少し私の話しを聞いてくれ。
 これは私の個人的な事情による。軍隊とは関係無いんだ。
 実は...私には…兵学校時代に想い合っていた女性がいた。二人だけの間で将来を約束し、
 子供が出来た時の名前まで決めていた。しかしその後命令で極秘の、長期間内地に戻る事が叶わない…
 生還は望めない危険な任務に就く事になった。だから…黙って彼女の元を去った。
 彼女の将来を奪う訳にはいかない、そう考えた。しかし私は大怪我をしたが九死に一生を得て生還したんだ。
 任務の事は極秘で、帰還後私はしばらく軟禁状態だった。怪我が癒えても世間に出る事は許されなかったんだ。
 そしてようやく表立った軍務に復帰出来たのは数年後だった。無駄とは思いつつも彼女の消息を捜した…しかし…」

ここで一旦言葉を切った。「じじ」の目は少し関心を惹いているように見える。
もしかしたら似たような体験を過去にしているのかも知れない。と思った矢先、「じじ」の方から口を開いた。

「もう...一人じゃなかったんだな?」
「そうだ。彼女は私が還って来ないと思い、新しい生活をしていた。理科大出身の舟木という男と
 結婚して赤ん坊もいたんだ。可愛いらしい女の子だった。その姿を遠くから見た時...
 私はもう二度と姿を見せないと決心した。ただ...その娘の名前は、私達が二人で考えていた名前が
 付けられていた…」
「そうかい...せめて名前だけでも...ってやつかい、泣かせる話だね。しかし相手が軍人じゃなくて
 良かったじゃないか。もう悲しませずに済むってもんさ、しかしその娘を何で俺に?」
「実は最近久しぶりに...意外な所でその娘の名前を目にした。現在海軍特務機関の民間人徴用名簿に
 名前が載っている」
「何でそんな若い娘さんを海軍さんが?」

これにはさすがに「じじ」も驚いたようだ。

「資料を見ると、あの娘は優れた音感を持っていたらしい。周波数の差異を敏感に感じる事が出来るのだ。
 私達も音楽だ好きだったが…母親として何か教育していたのかもしれん。その音感を生かしての音響探知…
 潜水艦のソナー員か最前線の高射砲陣地の電探替わり…例えば…潜水艦から音を発し、
 反響音を聴いて敵艦の位置を探ったり、飛行機の音を聴きわけて機数や高度を探る…みたいな事だ。
 訓練した後、そこに配置出来ないかと考えているようだ」
「馬鹿な…そいつは危険だね。間違いなく死ぬ。海軍さんもひでぇ事しやがる…」
「そうだ。徴用される日は一週間後と決まっている。だから、貴殿に頼みたい、この通りだ」

私は深々と頭を下げた。雰囲気が変わった...どうやらこの男は話に喰いついてきたようだ。
海軍が若い娘をも戦争の道具に利用しようとしている。この部分が彼の心を大きく揺さぶったらしい。

「…どんな娘なんです?私の店の敷居は…お客さんには低いが芸妓にとっちゃあ
 その辺りの店よりは高うございますよ。それに…運転資金も必要ですからね。
 若い娘だって飯は食うんです。」

彼は身を乗り出して来て口調が少し丁寧になった。しかし金に執拗にこだわるのは噂通りらしい。

「資金は…これは内密にして欲しい。私の権限で可能な範囲の援助はする。約束する。それから
 その娘の素質だが…一度見て欲しい…悪いが私も貴殿の事はそれなりに調べさせて貰った。
 一度歌を聴いて貰えば貴殿なら解るはずだ。明日の日曜日、おそらく学校で子供達に歌を教えていると思う。」

「じじ」の態度は明らかに興味津々...という風に変化した。彼は機密情報にも接する事が出来る立場にいる
海軍の人間がここまでやる、という事に大変興味を惹かれ、またどうやら義賊的な一面があるらしい。
こういう輩との交渉は自分の保身を考えては上手く行かない。全てを曝け出すのだ。由布は言葉を続けた。

「名前は、「いさこ」と言う。」

一方「じじ」の方では、海軍のお偉いさんならとことん利用してやろうと考えていた。
大体自分の所に来る軍人にはロクなのがいない。女に入れあげて軍費を使い込んだとかそんな連中ばかりだ。
そんな奴らに遠慮する事は無い、いつものように挑発して冷静な判断能力を失わせ、弱みを徹底的に突いて
搾りとれるだけ搾り取るつもりだった。どうせ国民から搾り取った税金を湯水のように使ってんだ。
多少汚いマネしたって構うもんか。取り返せるだけ取り返してやる、そう決めていた。

が、話を聞いている内にこいつは何とかしてやりたい、いや自分が何とかする、と思うようになっていた。
じじの尺度ではうら若き女性を危険に晒して、その能力に海軍の片棒を担がせる、などという事は
損得勘定抜きにしても到底許される事ではなかった。

しかも...

由布が言ったその名前に驚いた。自分の軍楽隊時代の同期達は現在上級の士官となっている者が多い。
以前から密かにその中の信頼のおける者と常に情報交換をしており「不遇な環境にある若い才能」を
捜していたのだ。その一人から最近この近辺で「いさこ」という名の娘が不幸な状態に陥りつつある、
という情報を聞いて調べに来ていたのだった。


日曜日、教えられた学校の教室をこっそり覗いて見る。
10人程の子供達に囲まれ、オルガンを弾いている若い娘の姿があった。

「いさこ先生、何か歌ってー」
「こら、私は先生じゃないやろ…」
「えー。じゃあいさこおねぇちゃん、歌ってよー」
「仕方ないわね…」

フォーレの小ミサ曲、「キリエ」を歌った。

その歌声が窓越しに聞こえて来た時…

驚愕し、鳥肌が立った。聴く者の魂に響き、全てを受け容れる…そんな歌声だった。
無垢な子供のように純真であり、賢者のように諭し、且つ全てを洗い流してくれる…
まるで自分がとてつもなく薄汚れた存在に思え、自分にはこの歌を聴く資格が無いのでは
ないかと感じていた。いつの間にか涙を流している事に気付き慌てて袖で拭う。
今の日本に…こんな歌声を響かせる若い娘が居たとは…
外国の宗教曲が外に聴こえて大丈夫なのかと思ったのは聴き終えた後、しばらく
時間が経過し精神が落ち着いた後だった。

その足ですぐに由布の滞在先へ向かった。話は早かった。由布は

「徴用の迎えが行く日、海軍が行く前に私の権限で運転手付きの車を出す。貴殿はそれに乗り、あの娘の
 家には徴用の車だと行って連れ出して、一緒に駅から汽車に乗ってくれ。黒猫館…だったか。もしも...
 そこまでの道中何かあったら私の名前を出してくれ。」

と言った後、切符や旅費の用意と共に一指しの物を差し出した。恩賜の短刀だった。

「こ、こんな物を…大丈夫なんです?」
「ああ、軍の方は…ちょっとゴタゴタするかもしれんが、その尻拭いは自分がやる。
 実家の方への説明も私が何とかしておくからとにかく…戦争が終わるまで宜しく頼む。」

「承知しました。後は私にお任せ下さい。責任を持ってお預かり致します。」

この人物は信頼に足る…損得勘定抜きで付き合えそうだ…
「じじ」はそう思いながら海軍から奪った娘を連れて黒猫館へ向かったのだった。




============================


1945年 4月7日 寛太の隊出撃の日
-夜- 黒猫館

まこといさこは夜中にお腹が空き、いつものように台所に忍び込みヒソヒソ話をしていた。

「まこちゃん、何かあるかな〜?」
「あるやろ。確かいつもこの棚の中に大福饅頭が...」
「あれ?じじさんの部屋まだ灯りがついてるよ...止めとこうか...」
「いさこちゃんがお腹空いた言うから来たんやん。大丈夫やろ。」
「だって今日早起きしたんやもん...あれ?なぎこさんの声だ...」
「え?ホント? まさか...あのオヤジ...」
 
そう言って底の浅い西洋鍋を手に取るまこ。
隣の帳場を二人してこっそり聞き耳を立てると...
 
じじは躊躇したが、由布司令官から聞き出した情報をなぎこに伝える事にした。

「...なぎこネェさん、実はさ...」
「ええ、寛太さんの事ですね...御願いです。どうか本当の事を教えて下さい...」
「ああ...実は..目的地に辿り着く前に敵機と遭遇、交戦中との無電を最後に連絡が途絶えたらしい...」
「え..? あの... 受け容れる覚悟は出来ています。事実を教えて下さい。それって...やはり...」
「そうだ。目標の機動部隊に辿り着く前に敵機と交戦状態となって、海へ墜落したって事だ...」
「...そう...ですか...」
「ただ、他の友軍機の信号からすると...どうやら最後に隊長機を撃墜した
 仇の敵機を一機屠ってから海に激突し炎上した、という事らしい...」
「..........」 

上を向いて堪えようとしたなぎこの目から思わず泪がこぼれる。

それを見た主は、これまでに憶えた事の無い打ち拉がれた感情を抑える事が出来なかった。
なぎこ達の力になりたかった。軍を相手に商売して...少しでも失われたモノを取り返し、
その才能を保護し、戦後に...次の世代へ...それが必ず必要となり、謳歌する時代がやって来る。
しかし...この大きな時代のうねりの前には、何と自分は無力である事か...



--------------------------------------------------------


1945年 4月8日 寛太出撃の翌日
-朝- 奄美大島の海岸

奄美大島の海辺の村。娘は早朝、海岸を歩くのが日課だった。
気ままな散歩ではなく、近海での海戦で損傷したり沈没したりした艦艇や墜落した飛行機
に積んである荷物が漂着する事があったからだ。

漁業と痩せた畑しか無いこの辺りではただでさえ物資も乏しく、時折漂着物の中に紛れ込
んでいる食料や医療品はありがたい贈り物であった。

人…死体?

浜辺に打ち上げられた影を見て思わず後ずさった。そういえば昨日村の人が沖で空中戦が
見え、日米双方の飛行機が落ちたと言ってた事を思い出した。

服装から判断すると日本人の航空兵らしい。恐る恐る近寄ってみると、微かに息がある
ようだった。

「お父さーん!兵隊さんが!」
娘は慌てて叫びながら村へ駆け戻って行った。


- 続く-


-----------------------------------------

この物語はフィクションであり、登場する人物や団体の名称等は実在のもの
とは一切関係ありません...
今回のエンディングテーマはこちら。「光の波」/yuuichikさん。



あとがき

今回大変長くなり解りにくかったかと思います。大変申し訳ありません。
諸般の事情により途中で大幅に加筆致しました。寛太はどうやら一命を取り留めたようです...
さて寛太はその後...島の娘は...なぎこは、黒猫館は...
次回はお待たせしました。黒猫館のある一日を描いた「まこちゃん危機一髪(仮題)」です。
最後までお読み頂き誠にありがとうございました。

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投稿された内容の著作権はコメントの投稿者に帰属します。

投稿者 スレッド
SCRAPS
投稿日時: 2012-9-12 23:35  更新日時: 2012-9-12 23:37
エージェント=スミス Part2
登録日: 2007-1-27
居住地: 宮崎市
投稿数: 973
 Re: 「水の空に眠る」舞台裏「校長の提案に、監督凍り付く」
ブフーーッ
ほうほう、校長とziziさんのコラボか、めちゃプログレになりそう。と思いつつ読み進めていくといきなり「すくらぷ」なる怪しい人物が出てきて、口に入れた飲み物を勢いよく吹いてしまいましたよw
あのリミックス(多分あれはリコンストラクト、いや壊しただけで構築していないという話も……)だと、廃棄金属加工業というよりも解体屋かもしれませんね(苦笑)。
ハンドルネームもSCRAPSですしw ちなみにこのハンドルネームは本当はチャップリンの「A dog's life」(邦題:犬の生活)という映画に登場する犬の名前に由来するんですけども。

でも校長とziziさんのコラボ、まとまったようで何よりです。もしどこか参加できる余地があるなら、シンバル一発とか何でもいいので参加させていただけたらペーペーの私としては勉強になりますし、大変光栄です。大御所のお二人のお邪魔でなければ。私もLogicですし。

返信 投稿者 投稿日時
 Re[2]: SCRAPSさんへ zizi 2012-9-13 19:11
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