zizi さんの日記
2015
3月
6
(金)
22:11
本文
「風に尋ねて」 第九話
そして新しい年を迎える。気持ちも新たに...って気分になったのも束の間、冬休みの間陽代子ちゃんの事をずっと考えていた。だけどボクにはどうしようもない...そんな無力感を感じながら過ごしてた最後の日曜日、カンちゃんから連絡があった。
「kandersでライブに出る事になったから見にこない?急にキャンセルになった出演者の替わりなんだけどさ」
そう言われ、急いで出かけた。その日はアンプラグドのライブでのオープニングアクト、アマチュアのライブで満員とは行かなかったけどオリジナルと古い洋楽のカバーを全部で5曲歌った。最初から予定されてたワケじゃなかったからカンちゃん目当ての客は少なかったかもしれない。でもとても堂々としてて、その後の出演者目当てのお客さんもついつい引き込まれて聴いてるのがわかって凄いやと思った。ボクのお気に入りの曲、最後に「今日は雨、後に晴れ」も歌ってくれて良いライブだった。最後は結構やんやの拍手を受けて、ステージを降り、その後は一緒にステージを楽しんで、ボクにとってはとても良い気分転換になった。
最後の出演者が終わるまで待って、ボクがカウンターで年末の陽代子ちゃんとの一件をカンちゃん打ち明けてると凪子さんが片付けしながら「どうだった?」と聞いてきた。
「カンちゃん凄いですよね、とてもよかったです」
「ホント?正直に言ってやってよ」
「凪子姐さん余計な事いわないの。コイツそれどころじゃないのよ、ダチの事で頭一杯だから」
「へぇ〜青春だねぇ。女の子?」
「いや...あの...」
ボクは少し狼狽えながらも頭の中で考えてた事をとっさに尋ねてしまってた。
「あの、凪子さん 音楽に限らないですけど、大学とかで勉強するのって、奨学金制度とかあるじゃないですか」
カンちゃんが何言い出すのと言いたげにボクを見る。
「う〜んそっち方面ね...だったらあの人に聞いてみたら?何か知ってるかも」
凪子さんが目で合図した方向を見た。隅のテーブルで若い女の人が一人でビール飲んでる。ボクは思わずハッとした。その顔に見覚えがあったんだ。向こうは知らないけどボクは知ってる。同じ中学のOBでミュージシャン目指して高校を中退した宮部先輩のマネージャー役兼恋人だった三好さんだ。ボクがドギマギしてると凪子さんが声をかけた。
「絵里香さん、いいかな?このコがちょっと聞きたい事があるって」
三好さんはああ、凪子さんに言われちゃ仕方ないわね、とでも云いたげに頷いて前のイスをちょいちょいと指さした。ボクはカウンターを離れて吸い込まれるようにそこに座った。ちょっと値踏みするような眼でボクを眺めながら口を開いた。
「聞きたいってなによ?大体さ、君誰?」
「あの...三好さん...ですよね?」
「何で知ってんの」
「ここで...あの、宮部さんのライブの時...」
三好さんは少しキッとした眼でボクを見た。
「あのライブの時ピアノ弾いてたの、中学生の頃の同級生で」
「ああ、それで見に来てたの。どうも」
それからちょっと沈黙があっだんだけど、僕は宮部先輩のことを尋ねた。あれからどうなったのか興味があったし共通の話題だと思ったから。どうやら「MIYABE」ってアーティスト名でもうすぐメジャーなレーベルからデビューする予定らしい。でも今は一緒に活動してないって聞いて少し驚いた。三好さんの話によるとこうだ。
あのボクも見たライブの後。宮部先輩には複数の音楽事務所から声がかかったらしい。三好さんはじっくり条件を検討し、宮部先輩にとって最も好ましい条件になるよう交渉し、一番良いと思った相手と契約させるつもりだったらしい。でも宮部さんは一番大手の会社と自分で契約を決めてしまい、三好さんとケンカになったそうだ。挙げ句、もうアンタなんか居なくてもオレはやれる、口出ししないでくれなんて言われたんだそうで。で、三好さんいわく、まだ売れてもないのにテングになってる...業界に入ってモデルさんなんかと遊んだりしてるそうだからそのウチ変なスキャンダルでつぶれるんじゃない?との事だった。三好さん自身は宮部先輩売り込み中に知り合ったある作曲家の事務所でマネージメントやってくれないかって誘われて検討中って事だった。中学生の頃はなんだか少し...憎たらしい所もあった三好さんだったけど、話を聞いてる何だか気の毒な気もする。
「そうだったんですか...でも三好さん、宮部先輩のアマチュア時代は結構苦労が多かったんじゃないですか...あの時のここでのライブ、とても良かったです。あれ三好さんのおかげですよね?一番良い状態でライブ出来るようメンバー集めて、事務所の人呼んで最高のパフォーマンス見せて...三好さんのお膳立てとかそんな事は気に留めてくれてないんですかね...何だか宮部先輩少し見損なっちゃいました...」
「何それ?アンタまさか慰めてるつもり?10年早いって感じ」
「いえ、そんなつもりじゃ...三好さんにそんなの必要ないですよね」
「そんなワケないでしょ。でもあのピアノの子には嫌われてるだろな...」
「え...」
「何だか都合良く利用したみたいに思われただろうなぁと思って。あのピアノ宮部と相性良いと思ったし、好きだったから弾いてもらったんだけどなぁ...ね、アンタ今でも連絡取ってるなら謝っといて」
「いえ...もう県外にいっちゃったから...今は全然...」
「フ...アンタそんなんじゃモテないよ」
「やっぱそうですかね...」
その時ボクはちょっと痛ましそうな表情だったんだろう。三好さんが少し慌てた感じで聞いて来た。苛めてるような気持ちになったのかも。
「で、聞きたい事って何よ。それじゃないんでしょ」
「ええ...あの...音楽の勉強するのってやっぱ大変ですよね?」
「そりゃそうだけど...でも何するにしても大変なんじゃないの」
「ええ、それはそう思うんですけど...奨学金の事なんて...知ってます?」
「ああ、調べた事あるわよ。宮部もクラシック畑の出身だったからね」
「そうか、ボク発表会で見た事あるんです...凄かったですよね」
「そうね、まあ今となってなどうでも良いけど。それで?」
「あれってやっぱ返さないといけないじゃないですか」
「大体そうだけど。でも返還不要ってとこもあるにはあるよ。競争率ハンパじゃないけどね」
「そうなんですか?」
「ええと...ちょっと待って...ココ。これ見て」
三好さんはしばらくスマホを弄って、あるサイトを見せてくれた。
「え...募集要項...二年間の奨学金給付...」
「そうらしいわね、しかも返還は不要って事らしいわ」
「どうしたら良いんですかね」
「私も詳しくは知らない。宮部に何か使えるかもって思って調べてたんだけど、さっさと学校辞めちゃったからね」
それから三好さんはしばらくこれからの仕事について語り、ボクは聞き役に廻り、そろそろ話も尽きてきた頃御礼を言った。
「勉強になりました。ありがとうございます。三好さんも頑張って下さいね」
「フン...アンタも今度はウマくやんなよ」
「え?何を?」
呆れたとでも云いたげに三好さんは笑ってた。家に帰って教えてもらった所を自分なりに調べてみた。
『クアドラ•ミュージック•ファウンデーション』
そんな名前だった。三好さんが教えてくれたのは、クアドラって大きな医療品会社が創設したクアドラ•ミュージック•ファウンデーションって所で、そこが様々な音楽事業を支援する制度があるらしい。この中の学生への援助制度。これは二年間の教育資金を援助、返済は不要。そうか...こんな所もあるにはあるんだ...そんな事を考えながらその日は眠った。そしてもうすぐ三学期が始まる。
そして新しい年を迎える。気持ちも新たに...って気分になったのも束の間、冬休みの間陽代子ちゃんの事をずっと考えていた。だけどボクにはどうしようもない...そんな無力感を感じながら過ごしてた最後の日曜日、カンちゃんから連絡があった。
「kandersでライブに出る事になったから見にこない?急にキャンセルになった出演者の替わりなんだけどさ」
そう言われ、急いで出かけた。その日はアンプラグドのライブでのオープニングアクト、アマチュアのライブで満員とは行かなかったけどオリジナルと古い洋楽のカバーを全部で5曲歌った。最初から予定されてたワケじゃなかったからカンちゃん目当ての客は少なかったかもしれない。でもとても堂々としてて、その後の出演者目当てのお客さんもついつい引き込まれて聴いてるのがわかって凄いやと思った。ボクのお気に入りの曲、最後に「今日は雨、後に晴れ」も歌ってくれて良いライブだった。最後は結構やんやの拍手を受けて、ステージを降り、その後は一緒にステージを楽しんで、ボクにとってはとても良い気分転換になった。
最後の出演者が終わるまで待って、ボクがカウンターで年末の陽代子ちゃんとの一件をカンちゃん打ち明けてると凪子さんが片付けしながら「どうだった?」と聞いてきた。
「カンちゃん凄いですよね、とてもよかったです」
「ホント?正直に言ってやってよ」
「凪子姐さん余計な事いわないの。コイツそれどころじゃないのよ、ダチの事で頭一杯だから」
「へぇ〜青春だねぇ。女の子?」
「いや...あの...」
ボクは少し狼狽えながらも頭の中で考えてた事をとっさに尋ねてしまってた。
「あの、凪子さん 音楽に限らないですけど、大学とかで勉強するのって、奨学金制度とかあるじゃないですか」
カンちゃんが何言い出すのと言いたげにボクを見る。
「う〜んそっち方面ね...だったらあの人に聞いてみたら?何か知ってるかも」
凪子さんが目で合図した方向を見た。隅のテーブルで若い女の人が一人でビール飲んでる。ボクは思わずハッとした。その顔に見覚えがあったんだ。向こうは知らないけどボクは知ってる。同じ中学のOBでミュージシャン目指して高校を中退した宮部先輩のマネージャー役兼恋人だった三好さんだ。ボクがドギマギしてると凪子さんが声をかけた。
「絵里香さん、いいかな?このコがちょっと聞きたい事があるって」
三好さんはああ、凪子さんに言われちゃ仕方ないわね、とでも云いたげに頷いて前のイスをちょいちょいと指さした。ボクはカウンターを離れて吸い込まれるようにそこに座った。ちょっと値踏みするような眼でボクを眺めながら口を開いた。
「聞きたいってなによ?大体さ、君誰?」
「あの...三好さん...ですよね?」
「何で知ってんの」
「ここで...あの、宮部さんのライブの時...」
三好さんは少しキッとした眼でボクを見た。
「あのライブの時ピアノ弾いてたの、中学生の頃の同級生で」
「ああ、それで見に来てたの。どうも」
それからちょっと沈黙があっだんだけど、僕は宮部先輩のことを尋ねた。あれからどうなったのか興味があったし共通の話題だと思ったから。どうやら「MIYABE」ってアーティスト名でもうすぐメジャーなレーベルからデビューする予定らしい。でも今は一緒に活動してないって聞いて少し驚いた。三好さんの話によるとこうだ。
あのボクも見たライブの後。宮部先輩には複数の音楽事務所から声がかかったらしい。三好さんはじっくり条件を検討し、宮部先輩にとって最も好ましい条件になるよう交渉し、一番良いと思った相手と契約させるつもりだったらしい。でも宮部さんは一番大手の会社と自分で契約を決めてしまい、三好さんとケンカになったそうだ。挙げ句、もうアンタなんか居なくてもオレはやれる、口出ししないでくれなんて言われたんだそうで。で、三好さんいわく、まだ売れてもないのにテングになってる...業界に入ってモデルさんなんかと遊んだりしてるそうだからそのウチ変なスキャンダルでつぶれるんじゃない?との事だった。三好さん自身は宮部先輩売り込み中に知り合ったある作曲家の事務所でマネージメントやってくれないかって誘われて検討中って事だった。中学生の頃はなんだか少し...憎たらしい所もあった三好さんだったけど、話を聞いてる何だか気の毒な気もする。
「そうだったんですか...でも三好さん、宮部先輩のアマチュア時代は結構苦労が多かったんじゃないですか...あの時のここでのライブ、とても良かったです。あれ三好さんのおかげですよね?一番良い状態でライブ出来るようメンバー集めて、事務所の人呼んで最高のパフォーマンス見せて...三好さんのお膳立てとかそんな事は気に留めてくれてないんですかね...何だか宮部先輩少し見損なっちゃいました...」
「何それ?アンタまさか慰めてるつもり?10年早いって感じ」
「いえ、そんなつもりじゃ...三好さんにそんなの必要ないですよね」
「そんなワケないでしょ。でもあのピアノの子には嫌われてるだろな...」
「え...」
「何だか都合良く利用したみたいに思われただろうなぁと思って。あのピアノ宮部と相性良いと思ったし、好きだったから弾いてもらったんだけどなぁ...ね、アンタ今でも連絡取ってるなら謝っといて」
「いえ...もう県外にいっちゃったから...今は全然...」
「フ...アンタそんなんじゃモテないよ」
「やっぱそうですかね...」
その時ボクはちょっと痛ましそうな表情だったんだろう。三好さんが少し慌てた感じで聞いて来た。苛めてるような気持ちになったのかも。
「で、聞きたい事って何よ。それじゃないんでしょ」
「ええ...あの...音楽の勉強するのってやっぱ大変ですよね?」
「そりゃそうだけど...でも何するにしても大変なんじゃないの」
「ええ、それはそう思うんですけど...奨学金の事なんて...知ってます?」
「ああ、調べた事あるわよ。宮部もクラシック畑の出身だったからね」
「そうか、ボク発表会で見た事あるんです...凄かったですよね」
「そうね、まあ今となってなどうでも良いけど。それで?」
「あれってやっぱ返さないといけないじゃないですか」
「大体そうだけど。でも返還不要ってとこもあるにはあるよ。競争率ハンパじゃないけどね」
「そうなんですか?」
「ええと...ちょっと待って...ココ。これ見て」
三好さんはしばらくスマホを弄って、あるサイトを見せてくれた。
「え...募集要項...二年間の奨学金給付...」
「そうらしいわね、しかも返還は不要って事らしいわ」
「どうしたら良いんですかね」
「私も詳しくは知らない。宮部に何か使えるかもって思って調べてたんだけど、さっさと学校辞めちゃったからね」
それから三好さんはしばらくこれからの仕事について語り、ボクは聞き役に廻り、そろそろ話も尽きてきた頃御礼を言った。
「勉強になりました。ありがとうございます。三好さんも頑張って下さいね」
「フン...アンタも今度はウマくやんなよ」
「え?何を?」
呆れたとでも云いたげに三好さんは笑ってた。家に帰って教えてもらった所を自分なりに調べてみた。
『クアドラ•ミュージック•ファウンデーション』
そんな名前だった。三好さんが教えてくれたのは、クアドラって大きな医療品会社が創設したクアドラ•ミュージック•ファウンデーションって所で、そこが様々な音楽事業を支援する制度があるらしい。この中の学生への援助制度。これは二年間の教育資金を援助、返済は不要。そうか...こんな所もあるにはあるんだ...そんな事を考えながらその日は眠った。そしてもうすぐ三学期が始まる。
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投稿者 | スレッド |
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zizi | 投稿日時: 2015-3-29 19:27 更新日時: 2015-3-29 19:35 |
登録日: 2008-4-25 居住地: 投稿数: 3247 |
>PIYOさんへ: 風に尋ねて 第9話 PIYOさんどもども!
ストーリーですね、そうですね〜、過去のヤツと比べると... それぞれ違うんですよ。最初の「水の空に眠る」はもう勢いで 衝動的に初めてしまったので、最後とか全く考えていませんでした。 書きながら考えた感じです。で、次の「Bluemirage」は大体のプロットを 考えてました。細かい部分は出来てませんが、全体のストーリーと ラストの雰囲気はもう決まってました。で、今回はどうかと言うと... 大体の方向性は決まってて、このエピソードとこういうエピソードがあって、 誰と誰がこう絡んで...って前半まで書いて、後半戦のおおまかな方向性は あるけど細かい部分は出来ていない...みたいな感じなんです。 ペースを月1回にしようと決めてますので、期間としては最も 長くなるかも知れません(ハタ迷惑な:笑) 音楽は今までよりもなんというか、関連曲というかBGMというか 創っていこうと思ってます(と言うかつくりかけてるのがあったりする)。 もしかしたら...PIYOさんに協力を要請する事があるかも(結局それか:笑) 今後も宜しくお願い致します。どうもありがとうございました! |
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