zizi さんの日記
2014
7月
24
(木)
22:52
本文
「風に尋ねて」 第一話
「風に尋ねて…みたくなったから」
ボクがそう言いうと彼女はとても冷めた眼差しを向け、冷ややかに言った。
「…バカじゃないの」
…第二次攻撃ノ要ヲ認ム…作戦は失敗だ。まず…転校生の彼女、名前は桜井陽代子。彼女になぜここに来るのか質問をする。彼女はおそらく『アナタだっているじゃないの』と質問を返す。そこでボクはカッコつけてポーズを決めてそう呟く。すると彼女は思わず笑う。彼女の気分をほぐしておいて、そこですかさず核心に迫るという我ながら素晴らしい作戦だったのだが、ボクの心に吹いたのはちょっぴり淋しい秋風だった。
「いや…それでさ、何でこの学校に来たの?親の転勤とか?」
「あなたに関係無いでしょ」
ボクは少しうろたえ気味に想定外の質問を発したけど、彼女はただそう言い残した後くるりと振り返り、屋上から校内へ通じる扉を開け階段を降りて行った。
「はははっ。玉砕してんの?ジジ」
ハーモニカを手に持ったまま成り行きを見てたカンちゃんは笑いながら言った。それを聞きながらボクはその場に座り込んでしまった。
「どしたの?」
「カンちゃんさ、あの娘のピアノ聴いた事ある?」
「いや…ねぇけど」
「巧い。とにかく巧いんだ、ボクはさ」
「ああ。中学ん時の同級生?にさ、うまいコいたんだっけ」
「うん…そん時と同じようにさ、あの娘のピアノもとても惹きつけられる。でもちょっと...巧いんだけど何かささくれてるって言うか…」
「ふーん」
カンちゃんはその少し青みがかった瞳を遠くへ向けた。
「ま。色々あるんじゃね」
「そう…だよね。さっきのは…ボクの想定の範囲内だよ」
ボクは強がりを言って、コンクリートの床に大の字になって寝ころびながら空を見上げた。今日はくもり空。昨日見た水たまりに映った空と同じだ…
*
ボクの名前は時次航佑。あだ名はジジ、高校一年生。一緒に居たのは最近良くつるんでるカンちゃんこと喜屋武寛太。
これは二学期になりたての学校の屋上での出来事で、ここはボクのお気に入りの場所だ。四月になって高校の入学式を迎え、一か月が過ぎ高校生活にも慣れて来た頃。未来は明るい扉を開けて待っている…なんて思ってたのも束の間。いずれちっぽけな「自由」と引き換えに「義務と責任」という名の重い荷物を背負わなきゃいけないらしい事に気付いてやや閉塞感を感じていた。
そんな時に見つけたのがこの場所だった。この高校の屋上は「立入禁止」と扉に書いてあって、錠がかかってる。でも少しノブを強く手前に引きながらサムターンを回すと鍵は開くし、先生達も特に問題が起こらない限り見て見ぬふりをしている。そういう校風なんだろう。で、ボクはどちらかと言うとまだ中学卒業の余韻に浸っていたかったから(理由は教えられないね)、何となくココの「風に吹かれてる感」が好きで良く来ていた。
でも一年生でそんな黄昏ているヤツはあまりいない。何らかの問題を抱えてそうなヤツが他の生徒と交ろうとせず、相互に不可侵条約を結んでいるかのようにぽつんぽつんといたりして。一年生が居れば上履きの色が違うからすぐにわかるんだけど、屋上にタムロしてる中ですぐに目についたのが同じクラスにいるカンちゃんだった。彼は瞳が少し青っぽくて、髪も少し茶色がかって天然のウェーブがかかってて少し目立つんだけど、クラスの他の連中とはあまりしゃべらずにやはり一人で良くココに来ていた。
高校に入学して、ボクは散々迷ったけど(優柔不断だからね)結局吹奏楽部に入部した。サックスがカッコ良さそうで希望したけど経験者が多く、先輩達に説得されて希望者が少ないホルンっていうかたつむりみたいな楽器を担当する事になった。そんなワケでボクも音楽が好きなんだけど、カンちゃんはこの屋上でハーモニカを吹いたりしてたんだ。で、彼の特徴ある風貌はボクの興味を限りなく惹いた。バンドでステージに立ったりしたら映えるんじゃないか…ワケあって中学生の頃ライブハウスに行ったりしてたから、そんな事を考えたりしてたんだ。でも何となく近寄り難い雰囲気があって、ボクも最初は皆と同じく遠巻きに様子を伺ってる…って感じだった。でも彼のハーモニカを最初に聴いた時、ボクは堪らず声を掛けた。
「ね。君ってさ…いったい何者?」
何て声かけて良いか分からないまま出た言葉がそれだった。連休明けのある日、屋上にはボクと彼しかいなかった。その時ボクの視界の片隅に入ってた彼はおもむろにハーモニカを取り出し吹き始めたんだ。それはボクの予想だにしていない音だった。ブルース?って言うのかな。薄っぺらな単なる空気の振動でなく、魂の、ココロの琴線に触れる音だった。何でボクと同じ年なのにそんな音が出せるのか?その音は彼の少し目立った風貌と共にボクを捉え、心の整理のつかないまま衝動的に発した言葉がそれだった。彼は一瞬唖然とした表情を見せ、ボクはしまったと思った。彼を傷付けてしまった…そんな想いが頭の中を駆け巡り、次の言葉を捜していたら。
「フツ―そんな聞き方するヤツいねぇよ…」
彼はボクの方に瞳を向け、呆れたように言った。
「あ…ゴメン、そんなつもりじゃ」
「いいよ、慣れっこだから」
「今の…ブルース?アドリブだよね」
「あ?まあね」
「凄い!」
「別に…全然凄かねぇよこんなもん」
「いや凄いよ…」
それからボクはしばらく一方的に語ってしまった。中学の途中から音楽に興味を持ち出して色んな音楽を聴いた事。同級生にピアノが上手い娘がいていつも音楽室で聴かせてもらってた事。先輩にバンドやってる人がいてライブハウスに観に行った事など。途中で呆れてんじゃないかと様子を伺うが彼は思いのほか耳を傾けてくれ、やがてボクの話が終わると言ったんだ。
「なんか…背中ぞみぞみする話だね」
「へ?そう?」
意味はよく分からなかったけど伝わったんだと思うと嬉しかった。
「何か…ジジの事何となく分かったかな。でも俺っていったい何者なんだろね」
「あの…カンちゃんさ、生まれ…日本なんだよね?」
自然とアダ名が出て来てストレートに聞く。
「沖縄」
そう言って彼は瞳を遠くに向けた。ボクはそれに応える事は出来ず、ただ黙ってた。でもそれ以来何となく仲良くなり、よく屋上へ来ては無駄話をしたりしてた。
そんなこんなで夏休みが終わる頃。ボクの心にさざ波を立たせるある出来事が起こったんだ。それは部活の個人練習中の出来事だった。
「風に尋ねて…みたくなったから」
ボクがそう言いうと彼女はとても冷めた眼差しを向け、冷ややかに言った。
「…バカじゃないの」
…第二次攻撃ノ要ヲ認ム…作戦は失敗だ。まず…転校生の彼女、名前は桜井陽代子。彼女になぜここに来るのか質問をする。彼女はおそらく『アナタだっているじゃないの』と質問を返す。そこでボクはカッコつけてポーズを決めてそう呟く。すると彼女は思わず笑う。彼女の気分をほぐしておいて、そこですかさず核心に迫るという我ながら素晴らしい作戦だったのだが、ボクの心に吹いたのはちょっぴり淋しい秋風だった。
「いや…それでさ、何でこの学校に来たの?親の転勤とか?」
「あなたに関係無いでしょ」
ボクは少しうろたえ気味に想定外の質問を発したけど、彼女はただそう言い残した後くるりと振り返り、屋上から校内へ通じる扉を開け階段を降りて行った。
「はははっ。玉砕してんの?ジジ」
ハーモニカを手に持ったまま成り行きを見てたカンちゃんは笑いながら言った。それを聞きながらボクはその場に座り込んでしまった。
「どしたの?」
「カンちゃんさ、あの娘のピアノ聴いた事ある?」
「いや…ねぇけど」
「巧い。とにかく巧いんだ、ボクはさ」
「ああ。中学ん時の同級生?にさ、うまいコいたんだっけ」
「うん…そん時と同じようにさ、あの娘のピアノもとても惹きつけられる。でもちょっと...巧いんだけど何かささくれてるって言うか…」
「ふーん」
カンちゃんはその少し青みがかった瞳を遠くへ向けた。
「ま。色々あるんじゃね」
「そう…だよね。さっきのは…ボクの想定の範囲内だよ」
ボクは強がりを言って、コンクリートの床に大の字になって寝ころびながら空を見上げた。今日はくもり空。昨日見た水たまりに映った空と同じだ…
*
ボクの名前は時次航佑。あだ名はジジ、高校一年生。一緒に居たのは最近良くつるんでるカンちゃんこと喜屋武寛太。
これは二学期になりたての学校の屋上での出来事で、ここはボクのお気に入りの場所だ。四月になって高校の入学式を迎え、一か月が過ぎ高校生活にも慣れて来た頃。未来は明るい扉を開けて待っている…なんて思ってたのも束の間。いずれちっぽけな「自由」と引き換えに「義務と責任」という名の重い荷物を背負わなきゃいけないらしい事に気付いてやや閉塞感を感じていた。
そんな時に見つけたのがこの場所だった。この高校の屋上は「立入禁止」と扉に書いてあって、錠がかかってる。でも少しノブを強く手前に引きながらサムターンを回すと鍵は開くし、先生達も特に問題が起こらない限り見て見ぬふりをしている。そういう校風なんだろう。で、ボクはどちらかと言うとまだ中学卒業の余韻に浸っていたかったから(理由は教えられないね)、何となくココの「風に吹かれてる感」が好きで良く来ていた。
でも一年生でそんな黄昏ているヤツはあまりいない。何らかの問題を抱えてそうなヤツが他の生徒と交ろうとせず、相互に不可侵条約を結んでいるかのようにぽつんぽつんといたりして。一年生が居れば上履きの色が違うからすぐにわかるんだけど、屋上にタムロしてる中ですぐに目についたのが同じクラスにいるカンちゃんだった。彼は瞳が少し青っぽくて、髪も少し茶色がかって天然のウェーブがかかってて少し目立つんだけど、クラスの他の連中とはあまりしゃべらずにやはり一人で良くココに来ていた。
高校に入学して、ボクは散々迷ったけど(優柔不断だからね)結局吹奏楽部に入部した。サックスがカッコ良さそうで希望したけど経験者が多く、先輩達に説得されて希望者が少ないホルンっていうかたつむりみたいな楽器を担当する事になった。そんなワケでボクも音楽が好きなんだけど、カンちゃんはこの屋上でハーモニカを吹いたりしてたんだ。で、彼の特徴ある風貌はボクの興味を限りなく惹いた。バンドでステージに立ったりしたら映えるんじゃないか…ワケあって中学生の頃ライブハウスに行ったりしてたから、そんな事を考えたりしてたんだ。でも何となく近寄り難い雰囲気があって、ボクも最初は皆と同じく遠巻きに様子を伺ってる…って感じだった。でも彼のハーモニカを最初に聴いた時、ボクは堪らず声を掛けた。
「ね。君ってさ…いったい何者?」
何て声かけて良いか分からないまま出た言葉がそれだった。連休明けのある日、屋上にはボクと彼しかいなかった。その時ボクの視界の片隅に入ってた彼はおもむろにハーモニカを取り出し吹き始めたんだ。それはボクの予想だにしていない音だった。ブルース?って言うのかな。薄っぺらな単なる空気の振動でなく、魂の、ココロの琴線に触れる音だった。何でボクと同じ年なのにそんな音が出せるのか?その音は彼の少し目立った風貌と共にボクを捉え、心の整理のつかないまま衝動的に発した言葉がそれだった。彼は一瞬唖然とした表情を見せ、ボクはしまったと思った。彼を傷付けてしまった…そんな想いが頭の中を駆け巡り、次の言葉を捜していたら。
「フツ―そんな聞き方するヤツいねぇよ…」
彼はボクの方に瞳を向け、呆れたように言った。
「あ…ゴメン、そんなつもりじゃ」
「いいよ、慣れっこだから」
「今の…ブルース?アドリブだよね」
「あ?まあね」
「凄い!」
「別に…全然凄かねぇよこんなもん」
「いや凄いよ…」
それからボクはしばらく一方的に語ってしまった。中学の途中から音楽に興味を持ち出して色んな音楽を聴いた事。同級生にピアノが上手い娘がいていつも音楽室で聴かせてもらってた事。先輩にバンドやってる人がいてライブハウスに観に行った事など。途中で呆れてんじゃないかと様子を伺うが彼は思いのほか耳を傾けてくれ、やがてボクの話が終わると言ったんだ。
「なんか…背中ぞみぞみする話だね」
「へ?そう?」
意味はよく分からなかったけど伝わったんだと思うと嬉しかった。
「何か…ジジの事何となく分かったかな。でも俺っていったい何者なんだろね」
「あの…カンちゃんさ、生まれ…日本なんだよね?」
自然とアダ名が出て来てストレートに聞く。
「沖縄」
そう言って彼は瞳を遠くに向けた。ボクはそれに応える事は出来ず、ただ黙ってた。でもそれ以来何となく仲良くなり、よく屋上へ来ては無駄話をしたりしてた。
そんなこんなで夏休みが終わる頃。ボクの心にさざ波を立たせるある出来事が起こったんだ。それは部活の個人練習中の出来事だった。
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投稿者 | スレッド |
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zizi | 投稿日時: 2014-8-1 21:35 更新日時: 2014-8-1 21:35 |
登録日: 2008-4-25 居住地: 投稿数: 3247 |
Re[2]: kankanさんへ おお、これは撮影されていたがカットされたシーンですな。
では続き、参りましょう。 ------- 冗談言ってら...ボクはカンちゃんの冗談の意味を考えてた。 あんま関わらない方がイイんじゃね?ってつもりかな。 いや、別にそんなつもりは無いけどサ...そろそろ部活行こ。 カット。続いて編集室。 佐藤「監督、今のシーンどうします?」 zizi「う〜ん...尺、大丈夫?」 鈴木「そこまで入れると...24秒オーバーします」 監督は肩をすくめひょいと両手を広げながら言った。 zizi「仕方ない...ボツ。誰かカンちゃんに言っといて」 佐藤「大丈夫っすかね、今回エンディングも歌ってもらってて」 zizi「今度また飲ませとくから。スポンサーの奢りで」 ------- いやいや...kankanさんどうもありがとうございます! こんなのも久しぶりの感触、短めですがちょいと肩ならしに(笑) 毎回のご出演(しかも勝手なキャスティング、大変感謝っす! 今回ちょっとクールですね、沖縄、ちょいと出生にいわくありげな。 高校生はそうですね、既に子供では無くなってますが、かと言って 大人にもなっておらず、しかし中学生よりは明らかに大人の事情に 否応無しに関わりますし、自分の生活、進路、運命その他イロイロ 影響を具体的に受けてしまう年代になろうかと思います。 さ〜てこれからどうなる事やら... お。macの治療は順調ですか、サスガ名医キム教授! |
返信 | 投稿者 | 投稿日時 |
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Re[3]: kankanさんへ | kankan | 2014-8-2 21:09 |
Re[4]: kankanさんへ | zizi | 2014-8-2 22:14 |
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