zizi さんの日記
2013
3月
29
(金)
22:42
本文
連載小説「水の空に眠る」の第十三話です。
バックナンバーにタイトルを付けて並べてみました。下記より御参照頂ければと思います。
第一話 寛太の出撃
第二話 出逢い
第三話 DogFight!
第四話 司令官の憂鬱、その過去
第五話 まこの外出
第六話 笹子
第七話 いさこの鼓
第八話 ぽとまんの傷跡
第九話 なぎこの回想夢
第十話 黒猫館の暑い日
第十一話 終戦後
第十ニ話 Live and let live
クライマックス編に突入しております。豆知識としてちょっと気にして頂いておくと良さげな事項を下記リンクしております。もしも御時間ございましたら御参照下さいませ...
今更ですが「零戦」こんなのです
「P-40」こんなのです
「F-6F」こんなのです
「P-51」こんなのです
「一式陸攻」こんなのです
「左捻り込み」
「小銃」
「ミッドウェー海戦」
ついに記憶を取戻した寛太。そして基地の不穏な動きに相対する由布と風雲急を告げる黒猫館の面々の運命やいかに...それでは第十三話始めます〜。
今回のオープニングにこちら。断罪 (kiMix)
挿入歌にこちらをどうぞ。A.L.W macoさんwith zipo
------------------------------------------
「水の空に眠る」
第十三話 激闘黒猫館
1945年8月18日
海軍航空隊基地
長官室に一人残った由布は机の引き出しから拳銃を取り出し、こめかみに当て引き金を引いた。
「カチッ」
と音がしただけで弾は出なかった。続いて見張りが立っていた入り口で物音がしたかと思うと誰かが入って来た。樋渡だった。
「司令官殿。弾は抜いておきましたよ。表の見張りは今そこで伸びてます、動けないように縛り上げておきましたがね」
「樋渡君?…君は一体…」
「ええ、実は私は関東軍の特務機関に所属しております。いや、しておりました。しかしもうそんな事はもうどうでも良い。戦争は終わったんです。もうケツまくって関わるつもりは無かったんですがね…あの連中はほっとけねえ。司令官殿にはまだやってもらわなくちゃならない事があります。ちょっと昨夜こっそり連中のねぐらを覗いて来ました。連中は徹底抗戦なんて言ってますがやろうとしている事は火事場泥棒と同じです。上手くいかなかったら金品を奪って逃げるつもりなんです。一時間の猶予、連中はその間司令官殿の動きを封じておいてその間に事を起こすつもりです。
黒猫館…ご存知ですよね、あの土蔵。実はあの中には主が金銀の類や大金を隠し持ってるって噂が以前からありました。連中はあの土蔵を襲って奪い、その後証拠を消すためには民間人に犠牲になってもらうのも仕方ないって話を昨夜してましてね。まだなぎこさん達あそこに残ってました。ぽとまんサンにはもう伝えてます。今すぐ俺と一緒に来て下さい。」
そう促すと表に停めてあったトラックに由布を詰め込み急発進した。
「司令官、これを。連中はいきり立ってます。おそらく必要になるかと。」
抗戦派の連中がトラックの発進を見て騒がしくなっている様子をバックミラーで確認した樋渡はそう言いながら小銃を由布に渡した。
------------------------------------------
1945年8月18日
黒猫館
「樋渡さん、もうすぐいらっしゃるんですか?」
「ええ、もう直き来ます...なぎこ姐さん、御名残惜しいかとは思いますが...」
なぎこの問いにぽとまんは辺りに油断無く気を配りながら優しく応えた。
「ぽとまんさんはどうするんですか?」
「私はここに残ります...戦争が終わっても商売は出来まさぁね。この場所も守りたいと思ってますし...まこサンといさこサンもどうか御元気で...」
黒猫館では皆準備を終えていた。最後まで残っていたなぎこ、いさこ、まこ。三人は荷物を脇に抱え、名残惜しそうに黒猫館を眺めていたが、やがて樋渡と由布が乗ったトラックが慌ただしく到着した。
「ぽとまんさん、ちょっと気付かれて追われてるみたいです、急いで!」
樋渡が慌てた様子で駆け込んで来た。
「すまない。ここはどうやら狙われているらしいが援軍は望めそうに無い。せめてあの娘達だけでも避難させたい」
緊張気味の由布にぽとまんは落ち着いた調子で語りかけた。
「おお、校長先生までわざわざすみませんな。それじゃ皆さん、ここはもう危険だ。慌しくて申し訳ないが、ここでお別れですな、樋渡サン、後は宜しく頼んます。」
「君はどうするんだ?」
「校長先生、それはご心配無く。あたしはここに残りますさ。ちょいと旦那と約束した事もありますんでね。ほら急いで下さい、連中もうすぐ来ますぜ。彼女らの事宜しくお願いします」
「ぽとまんさん、お達者で...」なぎこは心配そうな顔をしている。
「ええ、土蔵の中身については旦那との約束してますから、私が守ります」
「それじゃ、ぽとまんさん、何だか慌ただしくてごめんなさい、御元気で...」
「御元気で...」いさことまこも寂しそうに言った。
樋渡は全員乗った事を確認し運転席に戻った。
「ぽとまんさん、後は宜しく頼んます。それでは!」
トラックを急発進させ、後方から抗戦派の連中が乗った二台のトラックが黒猫館のに近づくのをバックミラーに見て速度を上げた。
「これからどこへ?」なぎこが尋ねる。
「まあ、まかせておいて下さい。手配は済んでます。」
その頃、黒猫館に到着した二台のトラックから兵隊が降りて来てぽとまんを見つけると大声を出した。
「貴様!そこの土蔵を開けろ!」
「まあ落ち着いて下さい旦那方。ここの主はもうおりませんがね…中の物は私が預かっておりまして…」
「そんな事は知るか!只今より我々が皇軍復興の為ここを接収する。おとなしく鍵を開けろ。」
「まあ慌てないで下さいな…では御案内いたしましょうか」
何やら打ち合わせをした兵隊たちは二手に分かれ、一台に樋渡が運転するトラックを追わせた。ぽとまんは内心舌打ちをしながら呟いた。
「連中も馬鹿じゃねぇな…樋渡サン、後は頼んますよ…」
「貴様何をブツブツ言っておるか!早く開けろ!」
「おお、そうでしたな…しかしこの中には兵隊さん達の気に入るような物は何もないんですがね…」
ぽとまんはそう言いながらゆったりとした動作で鍵を開ける。先に土蔵に入ると電灯をつけ、中を検めてくれと案内した。
「何だこれは…金はどこにあるのか」
中に残っているのはアップライトのピアノに蓄音機、楽譜類が少々残っている程度だった。
「だから、そんな物ありませんって…」
ぽとまんは人数が5名である事とそれぞれの居場所を頭に入れ、扉を後ろ手に閉めた。兵隊達はしばらくあちこちを探していたが金目の物が何もない事にようやく気付く。
「何だこれは!くだらないガラクタばかりではないか!」
そう叫びながら一人がアップライトピアノに向けて拳銃を向けた。引き金に指がかかったその時。
「そいつにだけは..指一本触れさせる訳にはまいりませんな」
そう呟いたかと思うと素早くぽとまんは電灯を消した。中は真っ暗闇になる。それぞれの位置を事前に頭に叩き込んでいたぽとまんは一人ずつ鳩尾に拳を当てるとの背後に廻り喉に腕を廻し落として言った。「うっ!」という唸り声が低く響き、物音が静まった。やがて土蔵の扉が開き、ぽとまんが出てきた。
「やれやれ…昔取った杵柄も冷や汗モンだったねこりゃ…」
そう言いながら気絶した兵隊達をトラックの荷台積みこみ、河原に向かった。
------------------------------------------
海軍航空隊基地
一方樋渡はなぎこ達を乗せたトラックを全速力で走らせていた。やがて基地の正門を止まりもせずに滑走路へ向かって走り続けて行く。
「この後、まこさんといさこさんは伊丹で、その後なぎこさんを福生まで御送りします。」
「どうやって?」
「あれをご覧下さい」
一式陸攻が発動機を始動したまま駐機していた。抗戦派の連中も須倉には飛行機の整備をさせるため捕縛せずにいたのだが、樋渡はいつの間にか手なずけていた。、須倉が応える。
「ああ、樋渡さん、準備は出来てます。司令官殿、お話はお伺いしております。我々も今まで散々威張りちらしていたあの連中に無駄に使われるよりは、お世話になった皆様のお役に立てた方が嬉しく思います。私も…黒猫館、そして皆さんの事が大好きでありました。どうか、お元気で。」
樋渡は真っ先に操縦席に乗り込み離陸の準備を始めた。
「樋渡さん、操縦も出来るの?」
「見よう見真似ですがね。今は敵機もいないんで何とかしまーす」
なぎこの問いに樋渡は陽気に応えた。
その時追っ手のトラックが小銃をふりかざして走りこんで来るのが見えた。その時「うっ」と唸って須倉が倒れる。背中に銃弾を受けたようだったが、その時まだなぎこ達は機に乗り込む途中だった。続けてタラップの付近に銃弾が当たる音が聞こえる。危険を感じ、殿を務めていた由布が振り向いてトラックの荷台の影から銃を持ち出し応戦するが命中させる事を躊躇った。これまで共に戦って来た部下である連中を本気で撃つ事は出来ない。しかしそれには構わず追っ手のトラックは貴重な飛行機を奪われてなるものかと必死で距離を縮めて来る。
「危ない!校長先生!」
なぎこが叫んだその時。一発の銃弾が由布の肩を掠った。血が滲み、うずくまる由布。距離を縮めたトラックが迫り、もう一撃加えようとした時。「タァーンッ」と乗降口から乾いた銃声が響き、トラックのタイヤに命中し足を止めた。振り返ると樋渡が小銃を構えて第二射を浴びせる所だった。二回目の銃弾の軌道は燃料タンクに命中し、トラックは炎に包まれる。炎に包まれた追っ手はにトラックを捨て、兵隊達は背中に燃え移った炎と共に地面に転がった。
「大陸では…躊躇えば死にます。こんな所にもう関わらずとも良いでしょう。さあ、司令官も一緒に行きましょう。」
「樋渡君、すまん…いまそこで大火傷を負っているのが首謀者だ、もう連中も大人しくなるだろう...私には全てを終わらせる責任がある。ここで進駐軍の接収を受けねばならん。後始末は私がするから皆を送り届けてくれたまへ。」
その時。トラックが燃える寸前に荷台から逃れた兵が一人いた。しかし大怪我をしているようでよろよろと立ち上がりこちらを向く。それを見て応戦しようとする樋渡。しかし今度は引き金を引いても弾が出なかった。
「ありゃ?こりゃ不発だ…やっぱ最近のは質が悪いや…」
とつぶやいた時、立ち上がった兵士は何かを取り出しこちらへ投げた。
「やべえ、手榴弾だ」
兵士も傷ついており投げるのがやっとの状態で、その楕円形をした球状の物体は緩やかな放物線を描き二者の中間点に落ち爆発した。少し距離はあったが爆風で昏倒する樋渡と由布。兵士は辛うじて立ち意識朦朧、という状態だったが続けてその手は腰の拳銃に伸びようとしていた。
その時、樋渡と由布の様子が心配で一式陸攻からなぎこ達も降りて来た。と思う間もなくその中の一人の影が兵士の前に素早く走り出る。その姿を見たなぎこといさこは驚きのあまり声が出なかった。そこには長尺の荷物を解き、小銃の銃口を兵士に向けるまこがいた。
「みんな、下がってて!」
驚いて飛び出して来たなぎこといさこに向かってまこは叫んだ。
「どうして...まこちゃん、こんな事...」
なぎこはまこと兵士の間に立つ。
「なぎこさん、この前じじさんとどこへ行ってたのかって聞いたよね..最初は山に鳥撃ちに行くって言われて付いて行ったんだけど、途中からこれの使い方を教わったんよ...どいて。これは私がやらなくちゃならない事なの」
「あなたにそんな事させない...」と立ちはだかるなぎこ。
「じじさんはその時私に言った...もしも万が一これが必要になったら...あんたが皆を守ってくれって」
「だめよ。本当は、あなたに人を撃ったりなんてして欲しくないって思ってるはずよ!」
「そんな事解ってるわ!でも...誰かがそれをやらなくちゃならないとしたら...」
「二人ともやめて!」
いさこは思わず間に割って入り、これまで聞いた事が無いうような大声で叫んだ。なぎこはまこにそんな事させてはいけない、という思いと恐怖が交錯する心の中で叫んだ。
<寛太さん、助けて!>
-続く-
----------------------------------------------------------------------
この物語はフィクションであり、登場する人物や団体の名称等は実在のものとは一切関係ありません。
今回のエンディングテーマはこちら。Because You Were / 凪さん&friends
あとがき
ついにここまで来てしまいました。最大の危機を迎えたなぎこ達三人娘の運命やいかに!?寛太はどうしたのか!?須倉は...もはや何も言う事が無くなって来ましたがさていよいよ次回最終回です!
バックナンバーにタイトルを付けて並べてみました。下記より御参照頂ければと思います。
第一話 寛太の出撃
第二話 出逢い
第三話 DogFight!
第四話 司令官の憂鬱、その過去
第五話 まこの外出
第六話 笹子
第七話 いさこの鼓
第八話 ぽとまんの傷跡
第九話 なぎこの回想夢
第十話 黒猫館の暑い日
第十一話 終戦後
第十ニ話 Live and let live
クライマックス編に突入しております。豆知識としてちょっと気にして頂いておくと良さげな事項を下記リンクしております。もしも御時間ございましたら御参照下さいませ...
今更ですが「零戦」こんなのです
「P-40」こんなのです
「F-6F」こんなのです
「P-51」こんなのです
「一式陸攻」こんなのです
「左捻り込み」
「小銃」
「ミッドウェー海戦」
ついに記憶を取戻した寛太。そして基地の不穏な動きに相対する由布と風雲急を告げる黒猫館の面々の運命やいかに...それでは第十三話始めます〜。
今回のオープニングにこちら。断罪 (kiMix)
挿入歌にこちらをどうぞ。A.L.W macoさんwith zipo
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「水の空に眠る」
第十三話 激闘黒猫館
1945年8月18日
海軍航空隊基地
長官室に一人残った由布は机の引き出しから拳銃を取り出し、こめかみに当て引き金を引いた。
「カチッ」
と音がしただけで弾は出なかった。続いて見張りが立っていた入り口で物音がしたかと思うと誰かが入って来た。樋渡だった。
「司令官殿。弾は抜いておきましたよ。表の見張りは今そこで伸びてます、動けないように縛り上げておきましたがね」
「樋渡君?…君は一体…」
「ええ、実は私は関東軍の特務機関に所属しております。いや、しておりました。しかしもうそんな事はもうどうでも良い。戦争は終わったんです。もうケツまくって関わるつもりは無かったんですがね…あの連中はほっとけねえ。司令官殿にはまだやってもらわなくちゃならない事があります。ちょっと昨夜こっそり連中のねぐらを覗いて来ました。連中は徹底抗戦なんて言ってますがやろうとしている事は火事場泥棒と同じです。上手くいかなかったら金品を奪って逃げるつもりなんです。一時間の猶予、連中はその間司令官殿の動きを封じておいてその間に事を起こすつもりです。
黒猫館…ご存知ですよね、あの土蔵。実はあの中には主が金銀の類や大金を隠し持ってるって噂が以前からありました。連中はあの土蔵を襲って奪い、その後証拠を消すためには民間人に犠牲になってもらうのも仕方ないって話を昨夜してましてね。まだなぎこさん達あそこに残ってました。ぽとまんサンにはもう伝えてます。今すぐ俺と一緒に来て下さい。」
そう促すと表に停めてあったトラックに由布を詰め込み急発進した。
「司令官、これを。連中はいきり立ってます。おそらく必要になるかと。」
抗戦派の連中がトラックの発進を見て騒がしくなっている様子をバックミラーで確認した樋渡はそう言いながら小銃を由布に渡した。
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1945年8月18日
黒猫館
「樋渡さん、もうすぐいらっしゃるんですか?」
「ええ、もう直き来ます...なぎこ姐さん、御名残惜しいかとは思いますが...」
なぎこの問いにぽとまんは辺りに油断無く気を配りながら優しく応えた。
「ぽとまんさんはどうするんですか?」
「私はここに残ります...戦争が終わっても商売は出来まさぁね。この場所も守りたいと思ってますし...まこサンといさこサンもどうか御元気で...」
黒猫館では皆準備を終えていた。最後まで残っていたなぎこ、いさこ、まこ。三人は荷物を脇に抱え、名残惜しそうに黒猫館を眺めていたが、やがて樋渡と由布が乗ったトラックが慌ただしく到着した。
「ぽとまんさん、ちょっと気付かれて追われてるみたいです、急いで!」
樋渡が慌てた様子で駆け込んで来た。
「すまない。ここはどうやら狙われているらしいが援軍は望めそうに無い。せめてあの娘達だけでも避難させたい」
緊張気味の由布にぽとまんは落ち着いた調子で語りかけた。
「おお、校長先生までわざわざすみませんな。それじゃ皆さん、ここはもう危険だ。慌しくて申し訳ないが、ここでお別れですな、樋渡サン、後は宜しく頼んます。」
「君はどうするんだ?」
「校長先生、それはご心配無く。あたしはここに残りますさ。ちょいと旦那と約束した事もありますんでね。ほら急いで下さい、連中もうすぐ来ますぜ。彼女らの事宜しくお願いします」
「ぽとまんさん、お達者で...」なぎこは心配そうな顔をしている。
「ええ、土蔵の中身については旦那との約束してますから、私が守ります」
「それじゃ、ぽとまんさん、何だか慌ただしくてごめんなさい、御元気で...」
「御元気で...」いさことまこも寂しそうに言った。
樋渡は全員乗った事を確認し運転席に戻った。
「ぽとまんさん、後は宜しく頼んます。それでは!」
トラックを急発進させ、後方から抗戦派の連中が乗った二台のトラックが黒猫館のに近づくのをバックミラーに見て速度を上げた。
「これからどこへ?」なぎこが尋ねる。
「まあ、まかせておいて下さい。手配は済んでます。」
その頃、黒猫館に到着した二台のトラックから兵隊が降りて来てぽとまんを見つけると大声を出した。
「貴様!そこの土蔵を開けろ!」
「まあ落ち着いて下さい旦那方。ここの主はもうおりませんがね…中の物は私が預かっておりまして…」
「そんな事は知るか!只今より我々が皇軍復興の為ここを接収する。おとなしく鍵を開けろ。」
「まあ慌てないで下さいな…では御案内いたしましょうか」
何やら打ち合わせをした兵隊たちは二手に分かれ、一台に樋渡が運転するトラックを追わせた。ぽとまんは内心舌打ちをしながら呟いた。
「連中も馬鹿じゃねぇな…樋渡サン、後は頼んますよ…」
「貴様何をブツブツ言っておるか!早く開けろ!」
「おお、そうでしたな…しかしこの中には兵隊さん達の気に入るような物は何もないんですがね…」
ぽとまんはそう言いながらゆったりとした動作で鍵を開ける。先に土蔵に入ると電灯をつけ、中を検めてくれと案内した。
「何だこれは…金はどこにあるのか」
中に残っているのはアップライトのピアノに蓄音機、楽譜類が少々残っている程度だった。
「だから、そんな物ありませんって…」
ぽとまんは人数が5名である事とそれぞれの居場所を頭に入れ、扉を後ろ手に閉めた。兵隊達はしばらくあちこちを探していたが金目の物が何もない事にようやく気付く。
「何だこれは!くだらないガラクタばかりではないか!」
そう叫びながら一人がアップライトピアノに向けて拳銃を向けた。引き金に指がかかったその時。
「そいつにだけは..指一本触れさせる訳にはまいりませんな」
そう呟いたかと思うと素早くぽとまんは電灯を消した。中は真っ暗闇になる。それぞれの位置を事前に頭に叩き込んでいたぽとまんは一人ずつ鳩尾に拳を当てるとの背後に廻り喉に腕を廻し落として言った。「うっ!」という唸り声が低く響き、物音が静まった。やがて土蔵の扉が開き、ぽとまんが出てきた。
「やれやれ…昔取った杵柄も冷や汗モンだったねこりゃ…」
そう言いながら気絶した兵隊達をトラックの荷台積みこみ、河原に向かった。
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海軍航空隊基地
一方樋渡はなぎこ達を乗せたトラックを全速力で走らせていた。やがて基地の正門を止まりもせずに滑走路へ向かって走り続けて行く。
「この後、まこさんといさこさんは伊丹で、その後なぎこさんを福生まで御送りします。」
「どうやって?」
「あれをご覧下さい」
一式陸攻が発動機を始動したまま駐機していた。抗戦派の連中も須倉には飛行機の整備をさせるため捕縛せずにいたのだが、樋渡はいつの間にか手なずけていた。、須倉が応える。
「ああ、樋渡さん、準備は出来てます。司令官殿、お話はお伺いしております。我々も今まで散々威張りちらしていたあの連中に無駄に使われるよりは、お世話になった皆様のお役に立てた方が嬉しく思います。私も…黒猫館、そして皆さんの事が大好きでありました。どうか、お元気で。」
樋渡は真っ先に操縦席に乗り込み離陸の準備を始めた。
「樋渡さん、操縦も出来るの?」
「見よう見真似ですがね。今は敵機もいないんで何とかしまーす」
なぎこの問いに樋渡は陽気に応えた。
その時追っ手のトラックが小銃をふりかざして走りこんで来るのが見えた。その時「うっ」と唸って須倉が倒れる。背中に銃弾を受けたようだったが、その時まだなぎこ達は機に乗り込む途中だった。続けてタラップの付近に銃弾が当たる音が聞こえる。危険を感じ、殿を務めていた由布が振り向いてトラックの荷台の影から銃を持ち出し応戦するが命中させる事を躊躇った。これまで共に戦って来た部下である連中を本気で撃つ事は出来ない。しかしそれには構わず追っ手のトラックは貴重な飛行機を奪われてなるものかと必死で距離を縮めて来る。
「危ない!校長先生!」
なぎこが叫んだその時。一発の銃弾が由布の肩を掠った。血が滲み、うずくまる由布。距離を縮めたトラックが迫り、もう一撃加えようとした時。「タァーンッ」と乗降口から乾いた銃声が響き、トラックのタイヤに命中し足を止めた。振り返ると樋渡が小銃を構えて第二射を浴びせる所だった。二回目の銃弾の軌道は燃料タンクに命中し、トラックは炎に包まれる。炎に包まれた追っ手はにトラックを捨て、兵隊達は背中に燃え移った炎と共に地面に転がった。
「大陸では…躊躇えば死にます。こんな所にもう関わらずとも良いでしょう。さあ、司令官も一緒に行きましょう。」
「樋渡君、すまん…いまそこで大火傷を負っているのが首謀者だ、もう連中も大人しくなるだろう...私には全てを終わらせる責任がある。ここで進駐軍の接収を受けねばならん。後始末は私がするから皆を送り届けてくれたまへ。」
その時。トラックが燃える寸前に荷台から逃れた兵が一人いた。しかし大怪我をしているようでよろよろと立ち上がりこちらを向く。それを見て応戦しようとする樋渡。しかし今度は引き金を引いても弾が出なかった。
「ありゃ?こりゃ不発だ…やっぱ最近のは質が悪いや…」
とつぶやいた時、立ち上がった兵士は何かを取り出しこちらへ投げた。
「やべえ、手榴弾だ」
兵士も傷ついており投げるのがやっとの状態で、その楕円形をした球状の物体は緩やかな放物線を描き二者の中間点に落ち爆発した。少し距離はあったが爆風で昏倒する樋渡と由布。兵士は辛うじて立ち意識朦朧、という状態だったが続けてその手は腰の拳銃に伸びようとしていた。
その時、樋渡と由布の様子が心配で一式陸攻からなぎこ達も降りて来た。と思う間もなくその中の一人の影が兵士の前に素早く走り出る。その姿を見たなぎこといさこは驚きのあまり声が出なかった。そこには長尺の荷物を解き、小銃の銃口を兵士に向けるまこがいた。
「みんな、下がってて!」
驚いて飛び出して来たなぎこといさこに向かってまこは叫んだ。
「どうして...まこちゃん、こんな事...」
なぎこはまこと兵士の間に立つ。
「なぎこさん、この前じじさんとどこへ行ってたのかって聞いたよね..最初は山に鳥撃ちに行くって言われて付いて行ったんだけど、途中からこれの使い方を教わったんよ...どいて。これは私がやらなくちゃならない事なの」
「あなたにそんな事させない...」と立ちはだかるなぎこ。
「じじさんはその時私に言った...もしも万が一これが必要になったら...あんたが皆を守ってくれって」
「だめよ。本当は、あなたに人を撃ったりなんてして欲しくないって思ってるはずよ!」
「そんな事解ってるわ!でも...誰かがそれをやらなくちゃならないとしたら...」
「二人ともやめて!」
いさこは思わず間に割って入り、これまで聞いた事が無いうような大声で叫んだ。なぎこはまこにそんな事させてはいけない、という思いと恐怖が交錯する心の中で叫んだ。
<寛太さん、助けて!>
-続く-
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この物語はフィクションであり、登場する人物や団体の名称等は実在のものとは一切関係ありません。
今回のエンディングテーマはこちら。Because You Were / 凪さん&friends
あとがき
ついにここまで来てしまいました。最大の危機を迎えたなぎこ達三人娘の運命やいかに!?寛太はどうしたのか!?須倉は...もはや何も言う事が無くなって来ましたがさていよいよ次回最終回です!
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zizi | 投稿日時: 2013-3-31 12:27 更新日時: 2013-3-31 12:37 |
登録日: 2008-4-25 居住地: 投稿数: 3257 |
凪さんへ どうもありがとうございます〜!
まこちゃんの飛び道具、前半の頃の話題の時にはまだこの辺りの展開は 確定していなかったのですが、遂に登場致しました。自分の中では 劇中最も緊張感のあるシーン、映画を見に行った時劇場で流れる近日公開の 映画のプロモーションシーンにチラッと登場させたい場面です(説明長っ) しかし「長尺の荷物」では分かりやすすぎたかな?まこの意外な行動にみな 「エエーーーっ!!」となる予定だったのですが(笑) クライマックス編は実は各回のつなぎの場面をどこにするかに気を遣ってます。 連続ドラマだったらここで切って予告編でちらっとこの場面を見せて...みたいな。 そういえば今回は「なぎこ」の最後の心中の叫び以外に寛太が一言も 登場しませんでしたね(すんません)。さ〜て次回どうなってしまうのか... 今妄想の中で実写をどこまで撮ってどこからCGにしようか..とか勝手に頭の中で遊んでます(笑) 最近知ったのですが栃林秀氏というCG動画作家の方がいらっしゃるのですが、 この方の作品など見るとCGもホント進化したんだなあと思います。 (女性の方にこんなの紹介するのもどうかと思いますがすみません) http://www.youtube.com/watch?v=I3A8yOWW91U と思ってたら、あっ!見てないヤツ発見!ついでにコレです。 (すみませんとか言いながら再度すみません) http://www.youtube.com/watch?v=UrN9ECPJ6Gc http://www.youtube.com/watch?v=FJMLVM4LcEs 昭和20年3月19日愛媛県松山上空で最後に一矢報いた部隊のCG動画です。 ここに描かれている「三四三海軍航空隊」は第九話で寛太が話していた部隊なんですね。 太平洋戦争末期に優秀な機体と搭乗員を半ば無理矢理かき集め、偵察や無線による通信・情報を 重視し、四〜ニ機編隊による近代的な戦法で米軍機迎撃に挑み、劣勢であったこの時期に最後に 一矢報いた部隊です。(一時期大村基地にも移動して来ています) 長いので御面倒でしたらゼヒここだけでも...「空戦録2/2」の9:35頃から見てみて下さい。 この「水の空に眠る」の舞台となった時代背景とその空気がよくわかります。 すみませんまたもや一方的に... とにもかくにも次回、いよいよ最後です!宜しく御願い致します〜! |
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