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zizi さんの日記

 
2013
3月 15
(金)
05:45
zizi通信 15「水の空に眠る」第十ニ話
本文
連載小説「水の空に眠る」の第十ニ話です。

バックナンバーにタイトルを付けて並べてみました。下記より御参照頂ければと思います。

第一話 寛太の出撃
第二話 出逢い
第三話 DogFight!
第四話 司令官の憂鬱、その過去
第五話 まこの外出
第六話 笹子
第七話 いさこの鼓
第八話 ぽとまんの傷跡
第九話 なぎこの回想夢
第十話 黒猫館の暑い日
第十一話 終戦後



寛太の村を訪れたアメリカ兵。スティーヴと名乗る彼は寛太が撃墜したF-6Fのパイロットの弟だった。そしてシオンが差し出した「なぎこ」と名前が彫られた櫛、それを手にした寛太は?それでは第12話です!

今回のオープニングにこちら。 Jack Your Life/kankanさん&potman2さん
挿入歌にこちらをどうぞ。 No one/ひわたしさん

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「水の空に眠る」

第十ニ話 Live and let live


1945年8月17日
奄美大島海辺の村

「シオン...お前、それをまだ持っていたのか...」

村長が驚いて尋ねた。シオンは寛太が漂着した時の荷物を焼却していなかった。その櫛は村長から焼却するよう命令されていたものだった。意を決したようにそれを手にした寛太は見ていた者にはっきり判る程衝撃を覚えた。

凄まじい勢いで過去のフラッシュバックを見る...

「大丈夫?寛太さん...」
シオンは心配そうに、そして少し寂しそうに見守っていた。

「そうか...ミッドウエー...ラバウル...内地転属後、九州の基地へ..特攻隊、黒猫館..なぎこさん..」
脂汗を滲ませる寛太の表情だった。

「思い出したのか?」これまでの経緯をよく知らないスティーブは遠慮無く聞いた。
「以前の記憶を取戻したのだね..」村長は諦めたような口調で言った。
「ああ...俺は...特攻隊として出撃する前、なぎこという女性と出会った...」

シオンはそれを聞いて静かに話を初めた。

「お父さん、ごめんなさい、私どうしてもこれを捨てる事が出来なかったの..寛太さん、あなたが海岸に流れ着いて村に運ばれて来た時、あなたを村に留めたくて軍人である証拠を消そうとしたの。あなたの着てた服や所持品を燃やそうとして...飛行服の胸ポケットにそれが入ってるのに気付いて...私はどうしてもそれだけは捨てる事が出来なかった。私にはそのなぎこさんという方の気持ちが痛いほど良く解ったから...」

恋人を戦地で亡くしたシオンの言葉は皆の心に突き刺さり、村長も何も言えなかった。
黙って話を聞いていたスティーヴは寛太に一人言のような問いを続けた。

「ステディの事を思い出したのか...しかしカミカゼは..俺にはやはり理解出来ない...」
「スティーヴ...ミッドウェー海戦で俺は飛龍(航空母艦)の直掩機(護衛機)だった..あの時米軍の雷撃機や爆撃機はてんでバラバラにやって来て...小出しに数機づつ来るんだ、戦闘機の護衛無しで...だから途中までほとんど俺たちが撃墜して全滅して行った...何故だ?」
「カンタ、あの海戦では..あの時は我々も必死だったんだ。空母から発進した攻撃隊からとにかく日本の空母へ向かわせたようだ...」
「そうかいスティーヴ。あの時俺は思ったよ...こいつら何でこんなに...やられてしまうって解っていながら突っ込んで来るんだ...狂ってやがる...」
「しかし...あの時米海軍が空母を失えば太平洋の制海権は完全に日本の物になっていた...もしかしたらハワイは陥落していたかも知れない。そうなればその後の作戦行動はかなり不自由となり反撃は送れていただろう、我々も追いつめられていたのだ」
「あの時の搭乗員達は敵ながら皆勇敢だったと思う。しかしアメリカ人はいつもならもっと合理的な作戦を取るような気がするんだ...何がそうさせたんだ、スティーヴ?」
「それは..我々の民主主義と..故郷の家族や恋人や...皆、守りたい物があったのだ...」
「俺たちと同じじゃねぇか」

しばし沈黙が訪れる。しかしスティーヴは潔く言葉を繋げた。

「そうだな..sorry,カンタ..」
「しかし..特攻隊として出撃した俺は、まだ生きている...」
「そうさ、君は生きている。良かったじゃないか、ステディの待つ国へ帰れるんだ」
「良かったのか?...多くの仲間は南の海に眠っている...」
「What?何を言うんだカンタ、兄が戦死した事を知った時両親がどれだけ嘆いたか解るか?」
「いや、しかし...自分も死ぬべきなのではないだろうか...」

その時バシッと音がした。シオンが急に寛太を平手打ちしたのだった。
「Oh!シオン、やめないか、彼は怪我人だと言ったのは君じゃないか?」
今回は止めに入ったスティーヴを無視してシオンは叫ぶように言った。
「意気地なし!あなた達は戦争が終わって、死にたければ勝手に死ねば良いわ。でも残された人達は負けたこの国で生きていかあなきゃならない、これからが大変なのよ。貴方には待っている人がいる。その人達と一緒にこれから生きて、この国の未来の為に戦うべきだわ。それが亡くなって往かれた方々へ報いる事なんじゃないかしら」

村長も寛太も唖然として黙っていた。スティーヴが口を開く。

「Live and let live...シオンの言う通りだ。カンタ、君は今生きている...この事は受け容れるべきだ。これは君の役割なんだ、君にはこれからまだやる事があるんだ、神様がそう仰っているのさ」
「神様とかは俺には解らんが...隊長は自分を庇って死んだ...司令官は目的地に辿り着けなければ全力で次の機会に備えよと言った..須倉は傷んだ機体を絶好調にしてくれて...黒猫館では戦時でありながらいつも癒され勇気付けられて...」
「そうだろう、カンタ。君には守るべき物があり、その為に戦った。しかしシオンの言う通り民間人にとってはこれからが戦いなんだ、君が守るべき人達の戦いはまだ終わってはいない」
「そうなのか...そうかもしれん...しかし...どうやって...」

スティーヴはニヤリと笑ったように見えたがすぐにその表情を掻き消して言った。
「カンタ、俺の初陣はP-40で、ソロモン諸島でラバウルのゼロと戦った。しかしあっと言う間に後ろを取られて撃墜され、パラシュートで降下して助かった。」
「それは運が良かったな。ラバウルは猛者が揃っていたからP~40に乗った初陣じゃあ相手にならない」
「その通りだ。しかしマリアナ諸島を陥落させると、自分もP-51に乗れるようになった。」
「P-51か...会敵した事は無いが、噂には聞いている。速くて軽快で後続距離も長い」
「そうだ、この機に乗った俺ならもうあのゼロにも負ける事はない。そう思った。しかしその時は既にラバウルで戦ったようなパイロットはもう居なかった。」
「そうだな...熟練したパイロットは...最前線で亡くなったか、本土決戦に備えて温存されていたのだろう」
「そうか...カンタ、君はステディの居る場所にもう帰るべきだ...俺が手助けしようか?」
「どういう意味だ?」
「俺たちは明日九州の基地へ飛ぶ予定だ、九州本土まで輸送機に乗せて行っても良い。一緒に来ないか?」

スティーヴの部隊はこの先接収する基地の現状を確認する為の先遣部隊で、明日は九州南部、鹿児島辺りの基地に飛ぶ予定らしい。そこまで連れて行ってそこで解放しても良い、との提案だった。

とりあえず九州まで戻るには手っとり早いが...こんな妙な話に乗って良い物か...寛太は判断に迷っていた。村の人達に世話になっておきながら何も恩返しが出来ていない...

「寛太さん。これ、またとない機会よ、戻るべきだわ。ね、お父さん?」
「うむ...そうだな...ここで友軍基地へ戻ったとして..そこで接収を受けたら君も色々調査を受けるかも知れん。そうなれば戻るのに時間がかかるだろう...」
「ここはあまり戦火に見舞われてないけど、本土は空襲がひどかったんでしょう?皆困ってるはずよ」
そう言うシオンと村長に向かって寛太は申し訳なさそうに言った。
「しかし..いままで散々御世話になって...何も恩返しが出来ていない」
「何言ってるの。貴方にここの暮らしは無理だわ、足手まといよ。あんな下手な鍬使いじゃ私の方が上手だわ、ね、お父さん?」
村長はシオンの問いに一瞬考えるような仕草を見せたがはっきりと言った。
「そうだな...ま、そういう訳だ。もう我々は君を持て余している。もう帰ってくれ」
「そう...ですか...」

ここで成り行きを見守っていたスティーヴは口を挟んだ。
「決まりだ。カンタ、俺と一緒に来るんだ。」
それからは早かった。もともと身の廻りの物など持っていない。いくつかの日用品を村長とシオンから貰い、慌ただしく村を出て行く事になった。村長の家の庭先に停めてあるジープに乗り込む直前。

「村長、シオンさん。今まで本当に御世話になりました。落ち着いたら...必ず御挨拶に伺います。どうか御元気で...」
「ああ、気にしないでくれ。それよりも君もこれからが大変だぞ。」
そう言いながら村長はシオンの表情を心配そうに見る。精一杯寂しがるかと思いきや案外平静であった。

「寛太さん...御元気で...」

シオンはつっと寛太に近寄ると頬に接吻をした。

「ああ、シオン、君も...そして村長先生も...この御恩は一生忘れません...」

その後二人としっかりと握手を交わし、スティーヴのジープに乗り村を後にした。シオンはその姿が見えなくなるまで立ち尽くしていた。村長は先程まで明るく振る舞っていたシオンが寂しそう表情に変わり、そっと涙をこぼす横顔を優しく見守っていた。しばらくの間その場に佇んでいたがやがてくるりと振り返り、ようやく家に戻って来た。

「シオン、良いんだな、これで..」
「ええ、寛太さんには、あの人の生きる世界があるのよ...」

<寛太さん、さようなら..>

先程まで寂しそうな表情を見せていたが、そう心の中で呟いたシオンは既に前を見つめているかのように爽やかな表情を覗かせていた。

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1945年8月18日 朝
黒猫館

なぎこは身の廻りの物をすっかり整え帰宅の用意をし、最後まで残ったたまこ、いさこと共に黒猫館の屋内を一室ずつ戸締まりをして行った。最後に主の帳場を訪れた時、じじがいつも帳簿とにらめっこしていた机に座って手を触れてみた。懐かしさを感じ、瞼を閉じる。戦争が始まる直前ここに来てからの出来事が蘇る。後から来たいさこちゃん...最初は少し怯えていたように見えたっけ...でもあの音楽性には驚いたわね..そしてしばらくしてまこちゃんも来て...家の方は随分困ってたみたいで寂しい思いをしてたのに一生懸命明るく振る舞って...

「なぎこさん...」

急に声をかけられ、目を開けて見るとまこといさこの姿が見える。二人ともなぎこと同じような思いでこの部屋を訪れていた。

「この戸棚にいつも何か美味しいもの入ってたんよね...」
いさこがしんみりと言う。
「そうやね...いつもじじさんが用意してくれてたんよね...」
少しぎこちない感じは残っていたがまこは意を決したような言い方をした。
「そうね...でも二人とも、元気でね。また落ち着いたら連絡するから。それで土蔵の中の荷物はね、ぽとまんさんが土瓶屋の倉庫で管理してくれるって。また後で何か必要な物があればいつでも来て下さいって仰っていたわ...」

なぎこは二人を励ますように言ったが不安な気持ちであった。ぽとまんと樋渡は迎えに来て、ちょっと危険もあるので後は任せておいて下さいと言っていたけれど...


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8月18日 正午
海軍航空隊基地


この日の早朝、由布は銃声と自室の外に聞こえる軍靴の騒々しい物音で目が覚めた。と思うと激しく扉を叩く音が聞こえる。

「どうした?」
「司令官!反乱です!私はこれから鎮圧に向かいます。しばらくおそのまま待ち下さい!」

慌てたような副官の声に飛び起き、拳銃を探した。その直後に激しい物音がして収まったかと思うと今度は静かにノックする音が聞こえた。

「誰だ?」
「司令官殿。お話があります。」
「支度をするからしばらく待っておれ」

その声には聞き覚えがあった。隊の中でも最も部下へ厳しい態度を取っていた男だった。由布は散々ゆっくり支度をしてからその男を自室に入れた。傍に兵士を立たせている。司令官殿の護衛です、との説明に半ば恫喝の意味も含まれている事は明白だった。

話しを聞くとこの男と共に10名程の兵隊達は徹底抗戦を叫び、彼らは武器の焼却命令に従わずこっそり温存しており、本日早朝兵舎を急襲し丸腰の人員を営倉に隔離幽閉し、基地の一画を占拠して進駐して来る米軍に反撃を加えるつもりでいる。司令官のお許しがあれば厚木航空隊に飛んで合流する考えもある。との事だった。由布はとにかく落ち着いて話を聞くからしばらく待て、と促し時間を置いて司令官室で話合う事を約束した。

その約束の時間。徹底抗戦派の兵士達は銃器を持って長官室に押し入り、由布に決起を促していた。

「司令官!我々と一緒に最後まで戦いましょう!」
「もう一度、考え直すつもりはないのかね?」
「我々は…このまま引き下がるつもりはありません。絶対にです。」
「駄目だ、と言っても聞く耳は持ち合わせていないのか?」
「もしも聞き入れて下さらなければ、残念ですが司令官殿を拘束せねばなりません」
「少し待っていてくれたまえ...」
「それでは一時間後にまた伺います。」

そう言って一旦長官室を出て行った。由布は考えていた。絶対にそれは出来ない。このままではまずい…連合軍を刺激する様な事をしては…もう戦争は終わっているのだ。終戦後の故意による戦争行動は海軍刑法で禁止されてる。将校については、それを破った者は死刑となる。それに彼らもせっかく生き残っているのだ、交戦すれば周囲を巻き添えにしてまるで無駄に死ぬ事となるかもしれん...

昨夜の彼らの行動に気付かなかったのは痛恨の極みだった。少し早いが最早自決して連中を静めるしかないか…由布は覚悟を決めていた。米軍の接収を終えた後に自決するつもりでいたのだった。少し早いが…自分の命令で死んで行った隊員達の顔を思い起こしていた。あの世で会ったなら彼らは私を出迎えてくれるだろうか?いや、自分はそれを望める立場では無いだろう...そう自分に言い聞かせ、子を授かる事が出来ず、いつも申し訳なさそうな表情をしていた妻と黒猫館の面々にしばし思いを巡らせていた。

そして、静寂が訪れた長官室に一人残った由布は机の引き出しから拳銃を取り出し、こめかみに当てた...

-続く-

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この物語はフィクションであり、登場する人物や団体の名称等は実在のものとは一切関係ありません。

今回のエンディングテーマはこちら。明日へ -zizianya-

あとがき
参考までに厚木航空隊の事件についてはこちらをご参照下さい。
いよいよ残り二話となりました。次回、由布の運命は、そして記憶を取り戻した寛太はどうする?...黒猫館三人娘を最大の危機が襲う状況の中、ぽとまん、樋渡、由布、須倉の活躍は!?そして次回の予告編映像...は創れませんので皆様こんな衝撃的映像をimagineして下さい(何だよ他力本願な...)。
遂に銃を構えて立ち上がるまこ、しかしその銃口の先にはなぎこが!その時いさこは?一体全体何が!?それでは次回!

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投稿者 スレッド
zizi
投稿日時: 2013-3-17 18:48  更新日時: 2013-3-17 18:48
登録日: 2008-4-25
居住地:
投稿数: 3257
 由布司令官殿へ
どうもありがとうございます!

え、そうですか、八重の桜まだ面白いですけど(結局見てる:笑)
そうですね〜。最近3月ですし年度末時期で皆様お忙しいのでしょうかね。
実はかく言う私も3月は繁忙期で結構忙しい...
ですが執筆の方はこのペースで続けて行く予定です。
まあ視聴率は気にせず変わらずマイペースで参ろうかと思います。

ああ〜胸キュン...懐かしいといいますか、n.j.さんの曲聴いたりすると
今でも思い出したように感じる事ありますね〜。
まだまだ若いモンには負けられません(爆)

終戦直後は厚木航空隊事件や玉音放送の録音盤を奪おうとした事件や
宇佐航空隊の司令官による終戦後の部下を引き連れての特攻出撃
(ただし米軍には突っ込まず海や陸地に激突、死亡する)事件など
色んな事が起こってるんですよね...
さてさて由布司令官の運命は!?また宜しく御願い致します!
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