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zizi さんの日記

 
2016
2月 14
(日)
10:21
風に尋ねて 第19話
本文
風に尋ねて  第十九話

 屋上に上がれないうっとうしい梅雨空が続き、ボクとヒヨコが普通に授業を受けている光景もすっかり普通になりクラスの皆からも弄られなくなって来た頃、ようやく七月となり暑い夏がやって来た。放課後になってもまだ太陽は西の空高い位置にあり、屋上でボクとヒヨコは吹奏楽部が練習する音を空しくBGMとして耳にしていた。

「コンクール、夏休みに入ってすぐだっけ?」
ヒヨコがちょっと言いにくそうに尋ねる。
「そうだったね、最後の日曜日だっけ」
「応援にだけでも行く?」
「いや...何だかさ...やめとくよ」

がんばれば何とかなる...それを自分で証明しよう、なんて思ってた自分が今ではちょっとイタい。ボクは話題を変え、最近気になっている事を聞いた。

「そういえばちょっと聞きにくいんだけどさ...ほら、あの成瀬美月って...ヒヨコの昔の同級生の...」
「あ、いいのよそんなに気を使わなくても。最近テレビ出てるよね」
「そう、ネットでの人気にテレビ局が目を付けたんだろね、バラエティのひな壇にいたり」
「この前歌番組で誰だっけ、アイドルのバックでピアノ弾いてた」
「トークの切り返しも何だか頭切れる感じだよね、ソツが無いっていうか」
「うん...あの娘ルックスだけじゃなく頭も良かったし...もちろんピアノも」
「今でも昔の事気になる?」
「...私とは最後ああなって、もう友達なんて作んない!って思ってたけど...」
「今は?」
「カンタ君やマコちゃんやハル君たち...ついでにジジもさ、今じゃ私も仲良くなってるでしょ?」
「ハイハイ、どうせボクはついでだよ」

ヒヨコはボクのボヤキを全く意に介さない様子で続けた。

「テレビで美月見てるとね、あの時のあれって、何かの間違いだったんじゃないかって思う事があるんだ」
「ふ〜ん...でも連絡先くらい知ってるんでしょ?メールとかしてみれば...」
「うん...でもこんな事って...直接話す事が出来ればなぁって思って」
「そっか...そうだよね」

そんな事があってから、ヒヨコは何だか家の用事がちょくちょくあるらしく、バイトが無い日でも早く帰る事が多かった。で、ボクはと言えば特に何をするでもなく...やはり屋上に佇んでいたんだけれど、ある日の放課後、暑さに押し黙っていたカンちゃんが唐突に言って来た。

「もうすぐ夏休みじゃん」
「え?うん、まあね」
「部活行かないんだったら何かやる事あんの?」
「いや...別に」
「だったらさ...Kandersでバイトでもやる?」
「え?いいの?」
「ああ、ただしどうしても人が足りないってワケじゃないからバイト代安くてもいいなら」
「...。やる」

仕事の内容は掃除や片付け、ホールへの給仕...つまり雑用だって事らしい。ランチがある時は昼前から、ライブのみの日は午後から入り、合間や業務が終わってから、客が掃けたら誰も居なけりゃ楽器の練習してもいいって話だった。ボクにとっては渡りに船だった。部活には参加出来ず、今年のコンクールを棒に振った事は正直残念で、何か集中してやる事が無いと気が滅入ってしまいそうだった事もあり、二つ返事で了解した。

そして夏休み直前、懸念事項だった水没させてしまったケータイを機種変更し、ようやくスマホをゲットした。実はあの事件の時、自分がしでかした事よりもケータイを壊してしまった事が親を怒らせてしまった。「ボーナス出るまで我慢しろ」とこっぴどく叱られ、ようやくほとぼりも冷めて手にする事が出来、両親には申し訳なくも感謝している。そしてこの時期特有の解放感を感じつつ今日も屋上に上がった。するとそこには先客が居て...あの事件以来マトモに会ってなかったマコだった。マコとはつい最近スマホを手にしてからメッセージのやり取りをしただけで、直で会ってはなかったんだった。凄く申し訳ないって事を何度も書いてたから、気にすんなって返してたけれど、実際に会ってみるとやはりバツが悪そうな表情で黙ってた。だからボクは自然に...ってつもりで話かけた。

「お〜い、どしたん?何だかブルー入ってね?」
「...ジジ...ゴメン。何だか合わせる顔無くてな...本当にゴメンな...」
「アハハ、もう済んだ事だし...気にすんなよ」
「でも...部活も休部してんのやろ?あんな一生懸命やってたのに...」
「まあそうなんだけど。でもおかげで夏休みkandersでバイトする事になってさ、何だか面白そうじゃん。今から楽しみなんだけど」
「そっか...あそこは何だか思い出もあるしな。あっ...そういえば知ってっか?あの宮部さんって人メジャーデビューするんやで」

ちょっとした昔話にマコの気分も解れて来たみたいで良かったんだけど、ボクの方が久しぶりに聞いた予想外の名前にちょっと頭の回転が付いていかなかった。

「え...そ、そうなん?」
「ああ、確か深夜アニメのエンディング曲かなんかやった。ネットで見ただけやけど。確かアーティストネームはアルファベットでMIYABEだったで。PV見たけど間違いなくあの宮部先輩やった」
「そうか...ついにメジャーデビューか。売れるかな」
「どうやろな。応援する?」
「うん、まあ...一応同じ中学の出身者だし」
「ふ〜ん...そうなんか」
「あの人の音楽は好きだったからさ、今度チェックしてみるよ」

そうは言ったものの...三好さんとkandersで会った時の記憶が頭を過る。音楽はともかく宮部先輩ってどうなの?って疑問が頭をもたげる。同じ中学の出身だからって無条件に応援する気分でも無かった。それはあの人の音楽を聴いてから決めよう...

*
そして迎えたバイト初出勤の日。その日の午後、ボクはちょっとドキドキしながらkandarsの扉を開けた。ライブハウス独特の香りに少し緊張感と言うよりも高揚感を感じる。

「こんにちは...」
店内に居た人が振り返る。
「あら。ジジ君ね、久しぶり」
「おう...少年、よろしくな」
凪子さんと貫太郎さんが出迎えてくれた。
「お〜う、ジジ、早速手伝ってくれや」
奥の方からポリバケツとモップを抱えたカンちゃんが呼ぶ声が聞こえる。
「カンタ、少年は別にオマエの部下じゃねーんだぞ」
「あー、わかってるっつーの。手持ち無沙汰だろと思ってさ」

凪子さんがそのやりとりを聞いてケタケタと笑う。その雰囲気にボクはすぐに気持ちも解れ、楽になった。この日は夕方からアマチュアバンド三組のライブが入っていて、掃除の後は凪子さんの指示でカウンター奥での食器の準備と洗浄の仕方を習った後、貫太郎さんの好意で出演バンドのリハーサルをPAブースの後方から見学させて貰った。ドラムの音はセッティングが難しそうだなぁなんて思いながら貴重な体験をさせて貰った後、カンちゃんに付いてチケットのモギリを手伝った。ライブ中はカウンターで凪子さんの隣でドリンクやフードの注文を受けたり結構忙しかったけれど、出演バンドの演奏もエネルギッシュで仕事という感覚でなくとても楽しい時間を過ごせた。ライブが終わり、貫太郎さんから今日はもう上がっていいからと言われ、帰る間際に凪子さんに挨拶した時。

「カンタ君がね。マスターにジジ君をバイトで使ってくれって一生懸命頼んでたんだよ。でも夏休み中バイト漬けになっちゃってホントに良いの?」
「あっ...そうだったのか...ハイ。頑張ります」

カンちゃんには今度たっぷりお礼を言っておこう...帰り道、そんな事を考えながら、高校二年生の一度きりの夏休みは始まった...

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投稿者 スレッド
zizi
投稿日時: 2016-4-22 20:54  更新日時: 2016-4-22 20:54
登録日: 2008-4-25
居住地:
投稿数: 3257
 Re[2]: SCRAPSさんへ
SCRAPSさんどもども。

がははっ。そうそう吹奏楽部って結構体育会系ですよね、自分の所も
そうでした。OBの方がいた私大吹奏楽部なんて「応援指導部」ですもんね。
しかし美術部でそんな活動を。それはそれで面白そうですね、
アングラな感じがいかにもSCRAPSさんらしい(笑)

遅くなりましたがお読み頂きありがとうございます。
そうです宮部はデビューしました。え〜と制作が間延びしてるので自分で
考えてた設定を忘れがちですが(おい)ちょっと思い出してみましょう(笑)
確か以前...え〜と第9話でしたね。

http://gbuc.net/modules/d3diary/index.php?page=detail&bid=345&req_uid=2049&mode=category&cid=6

こんな感じで、そうそう思い出しました(大丈夫か)。設定では
結局「Blue mirage」の後、宮部はどっかの事務所と契約するのですが、
その際に三好女史と意見に相違があり袂を別ってしまいます。

三好女史は事務所の大小に関わらず、宮部の音楽を大事にして育てて
くれる所を...と考えてたのですが、宮部は内容はともかく大手との契約を望み、
意見する三好女史を疎ましく思うようになります。
おそらく大手の事務所はルックスが良いのでビジュアル系的な売り方を
しようとしてて、曲はキャッチーなモノを流行りの曲が書けるライターに
書いてもらい、宮部の音楽性は二の次...みたいな。たぶん「売れたらその後で
自分のやりたい音楽やれるから」なんて空手形を信用したのかもしれません。
何せ若いですから世間知らずなのでしょう...

少しづつ本当の宮部の音楽を浸透させて、コアなファンを大切にし、
一発大ヒットよりも最初はライブ活動を地道に...と意見具申した三好女史に
「アンタなんか今のオレには必要ないんだよ」とか言ってしまいます(たぶん)
まあそんなこんななってた中で業界内で知り合った音楽家が須倉歩。
その優れたマネージメント能力に目を付けたか須倉氏から自分の所で
働かないか?と言われ、やがてその手腕を発揮するようになる....
という設定なんです(長い)

今ちょっと連載が遅れておりすみません、ちょっと最後まで話を
考えてから...と思ってまして、二話分くらいは書いてるのですが、
もう少ししたらまた載せますので宜しくお願い致します〜!


PS まだまだ余震が続いてますね、お気をつけ下さいませ...
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