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zizi さんの日記

 
2014
10月 19
(日)
13:47
風に尋ねて 第4話
本文
「風に尋ねて」 第四話

 そして試験が終わり部活が始まる。試験は...まあまあってとこかな。察して欲しい。で、次の雨の日。この時ボクには何となく予感があったんだ。桜井さんはあの小音楽室に居るんじゃないかって。案の定だった。今度はボクはすぐには入らずに、廊下に譜面立てを置き、自分のパートの楽譜を置いてそれを眺めるふりをしながら、しばらく廊下に立ったままでピアノの音を聴いていた。相変わらず凄く巧い。でもやはり途中で、少しささくれ立ったように感じる所があるのは変わらなかった。二曲弾き終えるまで待って、ボクは扉をそーっと(慣れてるから)開けた。彼女は入り口から中を伺うボクに気付いて、ため息混じりに言った。

「またなの」
「あ、まぁそうなんだけど」
「出てけばいいんでしょ」
「もう少し弾いてけば?」
「いいえ、結構です」

ボクはこの前のカンちゃんの歌を聴いた時の事を思い出して言った。

「あのさ、もしもここ使いたいんだったらさ、使用の許可を出しとくといいよ」

彼女は少し迷ったような素振りを見せ、逡巡した後に言葉を発した。

「え?何それ...」
「いや、あのさ、この部屋って放課後来てもよく鍵かかってるでしょ」
「…そうね」
「誰も使用の申請を出してない時は鍵がかかってる」
「そう…なの?」
「うん。誰も使わない事になってるから。それでさ、天気悪そうな時はボクたち吹奏楽部がよく事前に許可取ってる。だから鍵が開いてるんだ。だから君がピアノ弾いてる時にボクとハチ合わせしてたってワケさ」
「そうだったの…」
「だからさ、君もほら、許可申請出しちゃえばいいんだよ。先生の所に許可申請の用紙があるからさ、それ貰ってさ、ピアノ弾きたいんだったら先に使いたい日を書いて渡すんだ。そしたらその日空いてるかどうかすぐ教えてくれるよ」

「…」

彼女は少し考え込むような顔をした。初めて見る彼女の反応に...何故かボクはちょっとワクワクした。

「…バカじゃないの」

あれ…期待虚しくボクの耳に届いた言葉は屋上で聞いたのと同じだった。思わず口を尖らせて返す。

「何でさ?」
「そんなに怒んないでよ」
「別に怒ってなんかないよ、でも何でだよ」
「だってほら…私がそんな事したら、天気の悪い日あなたここで練習出来ないじゃないの」
「あ...」

ボクは予想外の答えに言葉が出てこなかった。しばらく考えてからボクは言った。

「まあ放課後空いてる部屋は他にいくつもあるし、出来なくなる事は無いよ、大丈夫」

言い終わると彼女は鞄を取り、スタスタと黙って出て行くかに見えた。が、扉の所ですれ違う時彼女は口を動かした。とても小さな声で良く聞き取れなかった。でも微かにこう聞こえた...ような気がした。

「ありがと」


ボクは個人練習中にその言葉を思い浮かべてた。やはり彼女はピアノが好きなんだ。ボクがこの部屋を使う理由は勿論ある。時々個人練習をサボってピアノを弾いてたんだ。いや触ってた、という方が正しい。この前カンちゃんのオリジナルの歌を聴いて、自分も曲を創ってみようと思い起っていた。ホルンは脇に置きっぱなしにしてピアノの鍵盤に触れる。何となく思い付いたフレーズの音を探す。

「お」

一小節分の音の並びが出て来た。ボクは慌てて空いた五線紙に低音の三連符を書き込んだ。しばらく考え込み、更に音を追記して行く。少し面白くなって来た所で先が続かなくなった。

「うーん」

考え込んでいると、パートリーダーの先輩が様子を見に来て、ボクは慌てて書きかけの楽譜を隠しホルンを構えた。先輩にここから吹いてみてと言われたがあまり復習ってなくて上手く演奏出来なかった。アドバイスを頂き、後の時間は吹奏楽部の練習に費やした。

個人練習の時間が終わり、部室に戻るとパートリーダーから小言を頂いた。

「ジジさ、ダメじゃん教えた事やっててくれないと」
「すみません、ちょっと譜読みに時間かけすぎてました」

ボクはつい言い訳をした。でも時間を費やしたのは作曲だった。あれ、良く考えると伴奏の部分しか創ってなくて主旋律が無かったな…今度はあの低音部に合わせたメロディーを創って…なんて考えてると突然。

「人の言う事聴いてんのか」

パートリーダーの言葉に思わずハッとしてシドロモドロに返事をせざるを得なかった。

「え?ええ、ハイ、スミマセン…」





そして翌朝、ボクはまず職員室に行って放課後の空室使用許可申請書を貰って来た。教室に行くと、丁度桜井さんが廊下を歩いて来た。

「おはよ」
「…おはよ」

ためらいがちにそれだけ言って通り過ぎようとする彼女に一枚の紙切れを渡した。

「これ」
「え?」
「放課後にさ、空室の使用許可取るための申請書。当日だったら昼休みまでには出しといた方がいいと思うよ」

彼女はようやくその紙切れを受け取り、しばらく眺めた後呟くように言った。

「…ありがと」

小さい声だったけど今度はちゃんと聞こえた。翌日の昼休み、ボクは屋上でカンちゃんにこの顛末を話し、曲を創り始めた事をカミングアウトした。

「でさ、その続きが思い付かなくて。カンちゃんだったらそんな時どうする?」
「あんま根詰めてもムリなんじゃね?」
「そうだよね。でもなんかこのままずっと出来ないんじゃないかって不安になったり」
「楽譜に書いてんの?」
「うん。でも四小節書くのに何度も失敗して、何枚もゴミにしちゃった」
「さすが吹奏楽部やね。オレ楽譜なんて書いた事ねぇもん」
「そうなの?カンちゃんどうすんの?」
「オレはまず…ギター持って歌うかな。やり方は人それぞれさ、ジジはそれでいいんじゃね?」
「でも…この先出来っかなー」
「あのさ、楽譜埋めんのが目的じゃねぇからさ、深く考えんなって。楽しめばいいんだよ」
「そっか」

と口で返事はしたものの、内心モヤモヤした気持ちだったけど、放課後再び吹奏楽部の練習に向かった。

 さて。今日も昨日の続きを…と思ったが今日は天気が良くてしかもパート練習の日だった。屋外で練習していると、あの小音楽室に照明が点いている事に気付いた。
『今日は使用許可貰ってピアノ弾いてんだな』
そう考えると何だか自然と口元が緩んでしまった。

「ジジ、オマエやる気あんの?」

パートリーダーが目ざとく見つけて注意される。

「ハイ!申し訳ありません!」

ボクは気合入れろと言われる前に必要以上に大声で返事し、マウスピースを口に当てた。

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投稿者 スレッド
zizi
投稿日時: 2014-10-28 21:31  更新日時: 2014-10-28 21:31
登録日: 2008-4-25
居住地:
投稿数: 3257
 Re[2]: PIYOさんへ!
PIYOさんどもども。

最近ちょっと寒くなって来ましたよね、
カゼなんかひかないようにして下さいね。
そういえば先日早朝プチ登山に行って来たんですよ。
夜明け直後に入山、まだ薄暗い山道を進んでましたら、
ガサガサっと音がして...ハッと前を見たら私の進行方向の
登山道に黒い「イノシシ」が!

一瞬目が合った...ような気がしました...
が、程なくしてあちらが山の方に去って行ってくれました。
まあ突進して来られたら華麗に身をかわすつもりでしたが...
いや無理か足が一瞬すくんでたような気が(笑)

どうでもいい話すんません...

お忙しいのにお読み頂きありがとうございます!
少しづつ話も動きだし、二人の距離感にもちょっとした変化が訪れる...
今もってクラスに馴染まず一人黙々とピアノを弾く桜井さん。
そのピアノに弾かれるジジ少年。
思わず呟いた「ありがと」のセリフ。

さて...これからの展開、あまり先の話は出来てなかったりもしますが
(マイペースながらも)頑張ります!
また宜しくお願い致します!
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