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zizi さんの日記

 
2014
3月 28
(金)
22:15
Blue mirage 第24話 -最終回-
本文
Blue mirage 

第24話 -最終回-


卒業式の日。学校に行き教室に着いて友達と喋ってると、マコがこっそり話かけて来た。
 
「ね、ジジ。あの音楽室行ってみようよ」
「え…もう時間あんまり無いんじゃ…」
「だから早よ行かんと」
「そ、そうだな…」
 
そんなワケで最後にあの小音楽室を訪れる事になった。廊下を歩いてるとボクは少し切ない気持ちになって、らしくない事をマコに言ってしまった。
 
「あの部屋も懐かしいなぁ。こうここに来る事も無くなるんだな」
「何や今さら…あっ。そうや…先に行っててジジ。ちょっと忘れ物したから」
 
そう言ったが早いかマコは逆の方向に小走りに行ってしまった。自分から言っておきながらどうしたんだよと思いながらもボクは音楽室へ足を運んだ。久しぶりにその扉を開ける。鍵が掛かっていなかったのは先生方の粋な計らいなのかも知れない。中へ足を運ぶ。とたんにボクの胸には色んな記憶が蘇って来た。誰かの姿を捜したけど…そこには誰もいなかった。あのピアノはいつもの場所に微動だにせず鎮座している。ボクはそっと近づいて、蓋を開けた。最後にちょっとだけ触ってみたくなり、椅子に座ってみた。あの娘の前で一度だけ、あの曲のイントロだけ弾いた。あれからちょっと練習したし、今じゃ1コーラス位は弾ける…かもしれない。もちろん人前で弾くレベルじゃないけど。よし…ボク最後の記念に、と思ってピアノの鍵盤に指をのせ、意を決して「Let it be」を弾き始めた。
 
うわ…ダメだぁ…ミスタッチはするしテンポも一定には弾けない…アサミちゃんのようにはやっぱ無理だよ…もうすぐイントロが終わるからそこでやめよう…と思ったその時。
 
「続けて」
 
という声が右後ろから聞こえた。誰もいないと思い込んでいたボクは心底驚いたけど、鍵盤を見てないと弾けないし、振り向く事は出来なかった。でも誰だかはすぐに分かった。アサミちゃんはボクが弾くたどたどしい中低音部の伴奏に合わせて、高音部の鍵盤を上手に使ってメロディーを弾いた。それはとてもキレイで、ボクは合わせるのに一生懸命だったんだけど、アサミちゃんの方がボクにうまく合わせてくれて...ああ、もう終わっちゃう…永遠に続けば良いのにというボクの願いも儚く1コーラス分を弾き終えて、1分半程度その至極の時間は終わりを告げた。
 
「あ、アサミちゃん!びっくりしたぁ〜!」
「うふふ、びっくりした?マコちゃんから音楽室に行こうって…先に行ってるからって言われて来てみたらさ、ジジ君ピアノ弾いてるんだもの!ついつい手が出ちゃった。迷惑だったかな?」
「ううん、とんでもないよ!うまく合わせてくれてありがと。弾きにくかったでしょ?」
「そんな事なかったよ。時々同門の人と連弾する時あるけど、技術があっても弾きにくい人って居るよ。でもジジ君は全然。結構フィーリングが合うのかも」

ボクは久しぶりにアサミちゃんと二人きりになって、ちょっとぎこちなかったけど話を続けた。
 
「アサミちゃんは...ずっと音楽やってくんだよね」
「うん。そのつもりよ。ジジ君は?」
「ボクは相変わらず下手クソだからさ…練習してもちっとも巧くならないんだ。ボクなんかがやっても意味あんのかなって思ったりして…」

アサミちゃんは少し考え込むような表情をした後、応えてくれた。

「ジジ君さ...今、私とピアノ弾いててどうだった?」
「え...そうだね...うん。楽しかった。とても楽しかったよ」
「私もよ。だったら...楽しければいいんじゃないかな。難しく考えないで」
「そうか...Don't think. Feel...って映画のセリフあったよね...そうだよね」
「あ〜それ知ってる!SF映画の賢者のセリフだよね?」
「え?違うよ...古いけどカンフー映画の言葉じゃなかったっけ」

二人の話が食い違って来た時。

「それ、どちらも正解なんや」

今までどこに行ってたのかわかんないんだけどいつの間にか入り口の所に立ってたマコが入って来た。
 
「あれ?マコちゃん先に行ってるからって…居ないなって思ったんだけど」
「ボクはきっとどっかで覗いてんのかなって思ってたけどな」
「何言うてんのや、ジジがピアノ弾き出したんで逃げ出してたら、アサミちゃんのピアノが混じったんで聴けるようになって戻って来たんや」
「そりゃ悪かったな...でも今アサミちゃん弾き易かったって...」
「うん、それは本当だよ、マコちゃん」
「あははっ、ごめん、勿論冗談や。二人で弾いてんの外で聴いてたら入るに入れんかったんや...何やこう...良かったで、マジで」
「そう...なのか?」
「マコちゃん、ありがと」

なんて言ってたらチャイムが鳴って、式が始まる時間を告げた。ボクたちはまた後で、とだけしか言う暇が無くて慌てて教室へ戻った。

卒業式が始まる。式の間、ボクは今朝の事を思い出して、これからもどんな形でも良いからもっと音楽をやって行こう、と心に決めた。

そして、とうとう卒業式もつつがなく終了した。

いよいよボクはもうこの学校を卒業するんだ。一旦教室に戻り、最後のホームルームがあった。それも終わり、三年生の時も担任だった須倉先生に挨拶した時、「マコ君が今朝早く来て、小音楽室をどうしても最後に見たいから、何とか鍵開けてくれって頼まれてな。オマエも行ってたんだろ?二年生の時いつも音楽室で何やってたんだ?」って聞かれてドキっとした。そっか、マコが頼んでてくれたんだ。

教室を出て、さすがに皆名残惜しくてすぐには帰り難く、ユーイチ達と校門の所で集まって冗談言い合っていると、当然のようにマコも何となく一緒にいた。

「なあ、マコ。良く考えてみると...オマエには散々世話んなって迷惑かけたよな。本当に悪かったと思ってるし、色々ありがと。感謝してるよ」
「何やジジ〜、それだけなんか?ほら、何かもっと別に言いたいこととか渡したい物とかあるんやないか?今なら絶賛受付中やで」
「何もあるか。それにまた逢うんだし」
「ま、今日は勘弁しといたるわ。この借りは...高校に行ったら頼むで」
「そうだよな、って言うか、高校でも宜しくな」
マコとはまたしても、同じ普通のレベルの普通の高校へ行く事になってしまった。サヨナラを言う必要は無かった。


その時、ようやく見つけた。アサミちゃんがお母さんと一緒に帰る所だった。お母様はボクに気付いたのか少し頭を下げ、アサミちゃんを促した。アサミちゃんがボクに近づいて来る。いつの間にかマコは少し離れた場所で男子に取り囲まれてる。アイツ結構人気あったんだな。


ボクは少し皆と距離を置いて、アサミちゃんと面と向かった。


「ジジ君、あの時…ひどい事して本当にごめんね..」

「いいんだよ別に…ボクの方こそ...」

「ジジ君にはまだちゃんと謝ってなかったから...ちょっと心残りだったんだ」

「それはボクも同じだよ...こっちこそ傷つけるような事言っちゃってゴメンね...」

「うふふ...あの事もあの場所も...今思うと...何だか懐かしいよね...」


ボクたちは二人にしか意味がわからない思い出し笑いをした。それから、アサミちゃんは一度俯いてから少し間を置いて、顔を上げてボクの方を見て言った。


「私ね。遠い所の音高に行くんだ...サヨナラね...」

「うん、知ってるよ...頑張ってね。」

「それじゃ、ジジ君。元気でね。」

「うん…アサミちゃん、君も…」

彼女は右手を差し出した。ボクはそっと手を伸ばし、握手をしてからゆっくりと手を放した。そして、お互いにまぶしさを感じて空を見上げたその時だった。

「あっ」

二人で同時に声をあげた。その時ボク達は確かに見たんだ。空の彼方に儚く見える、青い蜃気楼を。

そしてそれは、一陣の風みたいに、消えた...



- fine -

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投稿者 スレッド
zizi
投稿日時: 2014-4-6 19:05  更新日時: 2014-4-6 19:05
登録日: 2008-4-25
居住地:
投稿数: 3257
 Re[2]: kankanさんへ
思えばあのジョボカトゥナイトでのコメントからが発端で、
kankanさんには最初から最後までお世話になりっぱなしでした。
改めて感謝です。ホントありがとうございました。

二人はここでお別れしてしまったワケですがこれから
どんな風に過ごしていくのか気になったりもしますが...

もしかしたらジジ少年はひきずってしまいますがアサミちゃんは
音楽に邁進、頭角を表します。青年になってもショボイままの
ジジは20歳頃大学入ったもののやめてフリーターかやってて
将来に悩み始めた頃アサミちゃんの演奏を町のどこかで
聴く機会があって励まされたりする事があるかもとか一人で
脳内で想像したりしています。

最後に彼らが見た青い蜃気楼は大人への階段の昇り口の扉で
あったのでしょうかね...

あ、また何かっすね、いや頭の中には色々あるんですが
どうにもボンヤリしてまして...この話の番外編とかみずねむの
戦後番外編とか次回作はライトノベル風にしようかとか(笑)
もしかなにかまとまったらまた書いてみようかと思います。

またその時は宜しくお願いします!
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