zizi さんの日記
2013
11月
3
(日)
05:44
本文
Blue mirage
第10話
2013年 8月 -2
八月最後の日曜日。そろそろ皆宿題の事が気になってくるらしく、友達からの遊びの誘いも少なくなって来た頃。夏休み中最も楽しみにしていたイベントを心行くまで楽しみたかったので、万難を排する事にしていたボクは、余裕で宿題を片付けていた。そんなに優秀でないこのボクがだ。
今日はアサミちゃんのピアノの発表会だ。予定通りユーイチを誘ったけどあいつは吹奏楽部の支部大会の応援に行くって言って来なかった。どうせお目当ての女子でもいるんだろう。で、仕方なくボクはマコを誘った。アイツはそんな大事な事なんで早く言わんのやと文句を言いながらもノリノリで行くと言った。
発表会は少し小さめのホールで、受付で貰ったプログラムをパラパラと眺める。アサミちゃんの先生はこの街では一番の先生で、音大志望の人もいたりするらしい。最初は小さな子供から始まった。まだ幼稚園に通ってる位の女の子がキレイなドレスを着て一生懸命演奏していて、その姿をビデオカメラで真剣に撮影している親御さん達の姿が何だか微笑ましく感じられた。段々年長の生徒さんになって行く。休憩を挟んで中学生の演奏になる。でも、まだアサミちゃんは出て来ない。
二回目の休憩の後、ようやくその時が訪れた。舞台の袖から現れたアサミちゃんは見慣れた学校の制服でなく、綺麗な舞台用の衣装を身に纏っていた。彼女は高校生なんかを差し置いて最後から二番目に演奏した。生徒さんの中では模範演奏に近いんだろう。
舞台中央、ピアノの前まで進んだアサミちゃんはボクの...いや、客席の方に向かってお辞儀をした後、ピアノに向かい、一瞬気を鎮めた後、おもむろに演奏を始めたんだ。
曲目はこの前聴かせてくれた「舟歌」だった。学校の備品のイスではなく、ホールの立派な椅子に座って、グランドピアノで聴くアサミちゃんのピアノ演奏は、あの音楽室とはまた違った雰囲気で、ボクはすっかり酔いしれていた。やはり生で体験する音楽はいい...昨夜youtubeで見たグルダの演奏動画よりも今日のアサミちゃんのピアノの方が素晴らしかった。そう自分には感じられた。演奏が終わった時ボクの眼にはうっすら涙が浮かんでいた。今日はマコも居眠りしなかった。
「演奏も良かったけど綺麗なカワイらしいドレスやったね」
「あ、うん。そうだったっけ、演奏に気を取られてたから」
ボクも本当はいつもと違う衣装でとても可愛らしく思っていたのをおくびにも出さずに言った。そのつもりだった。
「何言ってんのや。バレバレやで...目が虚ろやんか」
「違ぇよ、これはあのピアノ、グランドピアノだし演奏がとっても良かったしホールの音も...」
アサミちゃんの演奏後、ホールの座席でマコとそんなヒソヒソ話してると、次の最後の演奏者が出て来た。
「宮部 雅夫」
その名前がアナウンスされると、ざわついていた客席の雰囲気がボクたちにも分かる位に一気に変わった。そして、誰もが注目する中グランドピアノの前で一礼した、宮部という最後の演奏者は、ヴェートーベンのピアノソナタ「熱情」を弾いた。その演奏は客席に居合わせた全ての人を圧倒させる程凄かった。こんなに弾ける人がこの街にいたなんて全然知らなかった。演奏終了後、万雷の拍手を浴びている端正な顔立ちの若い演奏者...少し髪が長いようだけど...まだ高校生くらいだろうか、その人はゆっくりとお辞儀をして下がって行った。
全てのプログラムが終了した後、ボクとマコはロビーに出てアサミちゃんの姿を探した。ちょうどロビーに出て来ていて他の生徒さんと話をしている所だった。少し離れた所で待っていると、ボクたちに気付いてくれた。
「ジジ君、マコちゃん。来てくれてどうもありがとう。とっても緊張しちゃったー」
「とても良かったよ、コイツも居眠りしてなかったし」
「余計な事言わんでや。でもホント。相変わらずすごいね」
「ありがと。でもまだまだ頑張んなきゃ」
「そのドレス素敵やね!コイツまだ見とれてんで」
「余計な事言うなよ!でもそれ....ホントにカワイイよ...」ボクは最後は消え入るような声で言った。
「ふふっ...どうもありがと。」
その時彼女はロビーをキョロキョロ見回してた。
「あっ、それじゃ、ちょっとまだ会場に残んないといけないから」
「あ、まだ忙しいんだよね。また学校でね!」
「それじゃ、またね」
彼女はそう言ってロビーの反対側に向かって小走りに走って行った。その姿を見送っていて初めてボクは気がついた。向こう側にはあの最後の演奏者がいたんだ。
「宮部先輩!」
「アサミちゃん、随分上手くなったよね」
そこまでは聞くとはなしに聞こえた。ボクは気になって、しばらくその場に突っ立っていた。マコがボクの腕を引っ張ってその場を離れたから、それ以上の内容は分からなかった。ただ、とても楽しそうに話ている様子にボクは少し胸が痛んだ。
ボクはこの時、心の中に染みのような物が出来た事を感じていた。
第10話
2013年 8月 -2
八月最後の日曜日。そろそろ皆宿題の事が気になってくるらしく、友達からの遊びの誘いも少なくなって来た頃。夏休み中最も楽しみにしていたイベントを心行くまで楽しみたかったので、万難を排する事にしていたボクは、余裕で宿題を片付けていた。そんなに優秀でないこのボクがだ。
今日はアサミちゃんのピアノの発表会だ。予定通りユーイチを誘ったけどあいつは吹奏楽部の支部大会の応援に行くって言って来なかった。どうせお目当ての女子でもいるんだろう。で、仕方なくボクはマコを誘った。アイツはそんな大事な事なんで早く言わんのやと文句を言いながらもノリノリで行くと言った。
発表会は少し小さめのホールで、受付で貰ったプログラムをパラパラと眺める。アサミちゃんの先生はこの街では一番の先生で、音大志望の人もいたりするらしい。最初は小さな子供から始まった。まだ幼稚園に通ってる位の女の子がキレイなドレスを着て一生懸命演奏していて、その姿をビデオカメラで真剣に撮影している親御さん達の姿が何だか微笑ましく感じられた。段々年長の生徒さんになって行く。休憩を挟んで中学生の演奏になる。でも、まだアサミちゃんは出て来ない。
二回目の休憩の後、ようやくその時が訪れた。舞台の袖から現れたアサミちゃんは見慣れた学校の制服でなく、綺麗な舞台用の衣装を身に纏っていた。彼女は高校生なんかを差し置いて最後から二番目に演奏した。生徒さんの中では模範演奏に近いんだろう。
舞台中央、ピアノの前まで進んだアサミちゃんはボクの...いや、客席の方に向かってお辞儀をした後、ピアノに向かい、一瞬気を鎮めた後、おもむろに演奏を始めたんだ。
曲目はこの前聴かせてくれた「舟歌」だった。学校の備品のイスではなく、ホールの立派な椅子に座って、グランドピアノで聴くアサミちゃんのピアノ演奏は、あの音楽室とはまた違った雰囲気で、ボクはすっかり酔いしれていた。やはり生で体験する音楽はいい...昨夜youtubeで見たグルダの演奏動画よりも今日のアサミちゃんのピアノの方が素晴らしかった。そう自分には感じられた。演奏が終わった時ボクの眼にはうっすら涙が浮かんでいた。今日はマコも居眠りしなかった。
「演奏も良かったけど綺麗なカワイらしいドレスやったね」
「あ、うん。そうだったっけ、演奏に気を取られてたから」
ボクも本当はいつもと違う衣装でとても可愛らしく思っていたのをおくびにも出さずに言った。そのつもりだった。
「何言ってんのや。バレバレやで...目が虚ろやんか」
「違ぇよ、これはあのピアノ、グランドピアノだし演奏がとっても良かったしホールの音も...」
アサミちゃんの演奏後、ホールの座席でマコとそんなヒソヒソ話してると、次の最後の演奏者が出て来た。
「宮部 雅夫」
その名前がアナウンスされると、ざわついていた客席の雰囲気がボクたちにも分かる位に一気に変わった。そして、誰もが注目する中グランドピアノの前で一礼した、宮部という最後の演奏者は、ヴェートーベンのピアノソナタ「熱情」を弾いた。その演奏は客席に居合わせた全ての人を圧倒させる程凄かった。こんなに弾ける人がこの街にいたなんて全然知らなかった。演奏終了後、万雷の拍手を浴びている端正な顔立ちの若い演奏者...少し髪が長いようだけど...まだ高校生くらいだろうか、その人はゆっくりとお辞儀をして下がって行った。
全てのプログラムが終了した後、ボクとマコはロビーに出てアサミちゃんの姿を探した。ちょうどロビーに出て来ていて他の生徒さんと話をしている所だった。少し離れた所で待っていると、ボクたちに気付いてくれた。
「ジジ君、マコちゃん。来てくれてどうもありがとう。とっても緊張しちゃったー」
「とても良かったよ、コイツも居眠りしてなかったし」
「余計な事言わんでや。でもホント。相変わらずすごいね」
「ありがと。でもまだまだ頑張んなきゃ」
「そのドレス素敵やね!コイツまだ見とれてんで」
「余計な事言うなよ!でもそれ....ホントにカワイイよ...」ボクは最後は消え入るような声で言った。
「ふふっ...どうもありがと。」
その時彼女はロビーをキョロキョロ見回してた。
「あっ、それじゃ、ちょっとまだ会場に残んないといけないから」
「あ、まだ忙しいんだよね。また学校でね!」
「それじゃ、またね」
彼女はそう言ってロビーの反対側に向かって小走りに走って行った。その姿を見送っていて初めてボクは気がついた。向こう側にはあの最後の演奏者がいたんだ。
「宮部先輩!」
「アサミちゃん、随分上手くなったよね」
そこまでは聞くとはなしに聞こえた。ボクは気になって、しばらくその場に突っ立っていた。マコがボクの腕を引っ張ってその場を離れたから、それ以上の内容は分からなかった。ただ、とても楽しそうに話ている様子にボクは少し胸が痛んだ。
ボクはこの時、心の中に染みのような物が出来た事を感じていた。
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投稿者 | スレッド |
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zizi | 投稿日時: 2013-11-10 5:41 更新日時: 2013-11-10 5:42 |
登録日: 2008-4-25 居住地: 投稿数: 3257 |
それはおそらく入間基地航空祭です どうもありがとうございます〜!写真は...正直に晒しますと私のカメラはSonyのα300、使用したレンズは何とミノルタ時代の安い75〜300mmズームで結構暗いです。こういう所には白い(F値の小さな明るいヤツ)バズーカ砲みたいなレンズを装着した方がたくさん来場してて羨ましい限りです(笑)
先週というと入間ですね。首都圏から最も近いからでしょうか、おそらく基地祭で最多の来客数だそうで、報道によると32万!?こりゃすごい。メッチャ多いと思ってた築城でも8万人なのに...この集客は凄いですね。しかも時間ってせいぜい3時には終わるイベントですよ。 ブルーインパルスと言えば印象に残ってるのが長野オリンピックの開会式です。 http://www.youtube.com/watch?v=qGj_6qJdsSw 小沢征爾が指揮する世界同時遠隔シンクロ演奏による第九。言うてもクラシックの実演奏ですからね、多少の時間の前後はあると思われるのに、演奏が終わり最後の音が鳴った後、完全なタイミングで会場上空にスモークを引きながら進入、ブレイク。鳥肌が立った瞬間でした。 まあどう受け止めるかはあれです、語り出すと本物の巨匠のように後付けの理屈で自己正当化してしまい、しかも長くなりますのでここでの言及は避けます(笑) 大洗、是非行っちゃって下さい(距離関係が良くわからず言ってます)。五人揃うようじゃないですか、私も見たい(笑)。あ、コミック1巻見たのですが、確かに絵がちょっとアレですね。絵的には個人的にはアンソロにも含まれてましたがリトルアーミーの人が一番好きです(何の話か) |
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