Blue mirage

第１話


プロローグ


「青い蜃気楼を見た事ある？」

その時あの娘はこう言ったんだ。残念ながらボクはまだ見ていないんだけどね…


ボクはジジ。勿論あだ名だ。明日はいよいよ三年間通った中学校を卒業する。だから、今日は夜になって自分の部屋のいらなくなった物なんかを段ボール箱に詰めてる。母さんが捨てていい物は明日の廃品回収に出すからまとめて入れておけって。そういうワケで、古いノートや教材やつまらないガラクタを詰め込んでると、引出しから一冊のルーズリーフが出てきた。

これを見るとちょっと切ない気持ちになる。あの音楽室とあの娘の事を思い出すから。音楽室ってのは、正式には小音楽室って言って、どちらかと言うとあまり使われてない楽器倉庫みたいな感じで、骨董品みたいに古い外国製のアップライトピアノが置いてある。大音楽室は吹奏楽部が使ってる。実はボクも一年の時入ってたけど辞めちゃった。好きだった顧問の先生が転任されて、ニ年の時に赴任して来た新しい顧問の先生はコンクール至上主義！みたいな感じでいやになったから。

で、この部屋は校舎の一階の隅っこにあって、そこの前を通るとすぐに校舎の通用口があって、そこを出るとゴミ置き場があって更にその横に校外と繋がる裏通用口があるんだけど。ここの通用口は人一人通れるくらいの扉で先生や学生は普段通らない。管理作業員の人や何かの業者の人が時々通るくらいで、だから鉄の棒を通してあるだけで施錠されてないんだ。

でも。このルーズリーフももう箱に入れておかないとな…これにはボクが中学校二年生の頃に起きた出来事を書き留めてあって、色んな思い出の品が挟んであったりする。ピアノ発表会のプログラムやライブハウスのチケットなんかだ。別に日記を付ける習慣があったわけじゃないんだ。きっかけは…ボクは音楽が好きで、良くラジオを聴いていた。カッコいいDJが楽しいお喋りをする好きな番組があって、いつも聴いてた。そこにボクは自分に起こった出来事をメッセージしたんだ。どうしても伝えたい事があって、ルーズリーフに文章を書いてFAXした。携帯はまだ持ってないし、パソコンは家にあったけど、父さんがいつも使ってる事が多かったから、ボクが使いたい時に使えなかったんだ。そしたら、ビックリしたんだけどボクが送ったメッセージを番組で読んでくれたんだ！その時DJが答えてくれた事をメモしてて…そしたら、その後も何となく書いてないと気が済まなくなって来て。このルーズリーフに色々書き込むようになった。放送できないような内容もあるし、スタッフの人も扱いに困ると思ったから途中から送らなくなって、ちょっとした日記みたいになっちゃってるんだけどね。

さて。明日でいよいよあの娘ともお別れだ…そう思いながら、箱に入れる前にこんなの眺めてたら...あぁ、思い出すなすなぁ...事の起こりは、一昨年の春だった...