TOP  >  ガレぶろ(BLOG)  >  zizi  >  連載小説  >  zizi通信 11 「水の空に眠る」第八話

zizi さんの日記

 
2012
12月 7
(金)
05:42
zizi通信 11 「水の空に眠る」第八話
本文
連載小説「水の空に眠る」の第八話です。

れまでの経緯、バックナンバー及び外伝、関連楽曲等は下記御参照頂ければと思います。

第一話〜第七話
「水の空に眠る」/yuuichikさん
「君十七の月ほの暗く」/yuuichikさんの外伝曲
「À la fracture de jour」/SCRAPSさん
「彼方から」/ziziの外伝曲
かんなぎの空 〜「水の空に眠る」main title/zizi

主な登場人物(今回登場しない方含む)
簡寛太 海軍航空隊に所属する特攻隊員
なぎこ 航空隊のある町の花街にいた美しい娘「なぎこ」
由布 一 寛太の基地の司令官
ぽとまん「黒猫館」常連客で萬商店「土瓶屋」の主
いさこ なぎこと同じ店で働く娘。声の美しい、恥ずかしがり屋。
まこ なぎこと同じ店で働く娘。おきゃんで元気、だけど寂しがり屋。
じじ 彼女たちを束ねる怪しい料亭「黒猫館」のあるじ。
樋渡干記  大陸帰りの従軍記者。過去経歴に謎の部分有り。
シオン 寛太が漂着した村の美しい娘
笹子 古ぼけた写真に写っていた女性。じじ昔の知人であるらしい。
須倉 歩 気の荒い整備兵

それでは第八話。ぽとまんと樋渡の意外な接点とは...そしてシオンと寛太は...

今回のオープニングテーマはこちら。
「So I'm Alive」/kankanさん+potman2さん
挿入歌にこちらをどうぞ。
「しがない歩兵」(2007version)/ひわたしさん。

----------------------------------------------------------------------
「水の空に眠る」

第八話 ぽとまんの傷跡


1945年7月下旬
土瓶屋

基地の活動は活発では無くなっている...以前にも増して街の空気が重い。明らかに戦況は最悪の事態へ向かっているようだったが、しかしあからさまに口にする事ははばかられた。客足の鈍った黒猫館で働くなぎこ達にとって、こんな時に息抜き出来る場所はやはりここだった。「土瓶屋」をなぎこが訪れると、今日はぽとまんと樋渡が話し込んでいた。

「こんにちは、ぽとまんさん。」
「やあ、こんにちはなぎこサン、また今日も一段と…」
「もう。それは良いですから…あら、樋渡さん…」
「こんにちは。先日はどうも。」樋渡が応える。
「あ、こんにちは。あの、ぽとまんさんは以前からお知り合いなんですか?」
「ああ、流石なぎこさんだね、何となくわかっちゃいましたかね。」
「ええ、何となく…でもぽとまんさんって、何か不思議ですよね…こんな御時世なのに妙に飄々としてあって…以前は何してらっしゃったんですか?」
「へへへ…こりゃこの前のじじの旦那の気持ちが何だかわかるね…なぎこ姐さんにそう言われるとつい...ちょっと口が滑っちまう...」

最近は買い物をする客も少ないのだろう。暇のせいか今日のぽとまんはよく喋った。

「実はねなぎこサン。こりゃこの界隈じゃ初めて言う話なんですがね…結構昔の…20年位前の事なんだけど、俺と樋渡...こいつの親父の事ですがね、その大樋渡は陸軍の特務機関にいたんで…中国大陸で二人組で情報収集の任務に付いてたンです。中国語を叩き込まれてさ。当時の大陸は中央政府の抑えが効かなくてね。軍閥が割拠する戦国時代みたいなモンだった。それに加えて列強各国の思惑が入れ乱れて紛争や探り合いが続いてたんですよ。

で、中国の、とある二つの軍閥の勢力の境界地点にある村で情報収集の仕事をやってたんで。まだ下っ端だったからね、そんなに大勢に影響を与えるって程じゃあありませんでしたがね。それでも日本に味方させる有益な勢力を見つけ、情報を送る。それがやがては欧米列強の影響を廃し、大東亜の繁栄に繋がる、これが大陸にいる人達にとっても幸せなんだと単純に考えてたね。

俺は物売りになって、街中で情報を得る。樋渡の親父は表に出ず、軍閥の基地にこっそり忍び寄って情報を探るという役割分担があった。で、街で物並べて売ってるとさ、子供が珍しそうに見に来るんだね。何人かは顔なじみになった。ちょっとした事でも何か有用な情報になるかも知れないと思って何でも聞いた。その中に中国人の「小龍」という子供がいたんだ。目をキラキラさせてね…いつも来るんで仲良くなった。こんな会話をしたよ。

『おじさん、これなあに?』
『これかい?竹トンボって言うんだ、ほら、こうやって』
『わあ、すごい!』
『坊主、どこに住んでんだ?』
『村の外れの…農家なんだけどお金なんて無いから…』
『欲しけりゃ一つあげるよ。持って行きな』
『ホント?おじさん、どうもありがとう!』

そう言ってね。日本式のお辞儀を一生懸命しながら帰って行った。その時に丁度樋渡の親父が戻って来て、こんな時いつも冷やかしの客を装って話しかけるんだね。

『今のは?』
『農家の子供だそうだ。』
『軍閥の..両方の基地で見かけた気がする。気をつけた方が良いかもな』

樋渡はそう言うんだ。どうやら敵対する双方の軍閥の基地付近で兵士らしき男と話してるのを見かけたらしい。それで後つけて調べたのさ。そしたら、家は農家と言っても軍閥の連中にせっかく採れた作物を搾取されていてとても貧しいんだ。父親は兵隊に駆り出されて生死もわからないどころか居場所すら分からない状態で、母親は病気がちだった。小龍は日が暮れるまで一生懸命野良仕事してたよ。

で、小龍は何とかしたくていつのまにか覚えたのさ。街で軍閥の連中にちょっとした話を聞いて..どの場所にどんな人がいる、馬が何頭いる、とかどんな物を持っている、とかその程度の事だ。ある場所で聞いた話を別の場所の大人に話す事でちょっとした小銭や食い物なんかをくれる。それを目当てにあちこちウロウロしてたって訳さ。知らず知らずの内に二重スパイを働いてたって事になる。そんなある時ちょっとした小競り合いがあってね、片方の頭領が狙われたんだが襲ってきた連中を返り討ちにして…双方の軍閥が何人か死者を出したって事件があったんだ。そんな事があった後、小龍がね…何日か顔見なくなって、厭な予感がして気になって捜してみたんだ。そしたら…

小龍の家へ続く道端に倒れていた。その時はかすかに息があったんだが…可愛そうに…私刑されたような体だったよ…頭領が狙われた事件に小龍の情報が絡んでたんだろう。対立する軍閥の両方から恨みを買ったってわけさね。。酷い事されて…それでも命からがら逃れて一生懸命何とか家に帰ろう…そう思ったに違いないさ。可愛そうなもんだったよ、本人はスパイなんてしてるつもりは全く無くて、ただ母親を助けたかっただけなのに…

俺と樋渡の旦那で戸板に乗せて家に運んで行くその途中で、小龍は『おかあちゃん…』と小さくつぶやいてこと切れてしまったんだ…亡骸を家まで運んで行ったんだが、母親は俺があげた竹トンボを握りしめてさ、ぽろぽろ涙を流して

『やさしい子だったのに…昔の様に家族揃って…貧乏で良いから百姓だけ出来てればそれだけで良かったのに…』

と言うんだね。俺は持ってた物全部渡して来た。もうその時何もかも馬鹿らしくなってね。国家の繁栄なんて聞いて呆れるね、こんな子供を酷い死に方させておいて、お国が成り立っていけるワケがねぇ。俺はもう中華だとか日本だとか欧米がどうとかそんな……政治的な観念というのか、そんなのに縛られて、こんな仕事の片棒担ぐのがすっかり厭になってね。

樋渡の旦那は軍に残って状況を変えたいって言ったが俺は自分でワザと大怪我して内地へ帰還し除隊させてもらったのさ。で、もう俺は国家の思惑だとかそんな事がどうでも良くなってたからさ、大陸で知り合った連中、日本人も華僑も西洋人もいたんで、そいつらに協力してもらって商売を始めて…金の動きは国境なんて関係無いからね。ただ、しばらく特高に見張られてるみたいだったから油断させる為に大いに遊んだ。そんな時に浅草でじじの旦那と出会ったのさ。何だかよく見かけるんだが遊びを楽しんでる風でもない。興味を持って話かけたが中々口割らねえんだな、これが。で、今した話をしてやったらようやく腹割って話せるようになった。どうやら軍を相手に一儲けしようとしてるらしい。こりゃとんでもない大法螺吹きだって思ったんだけど話を聞いたら面白そうなんで…芸事もお国の思惑なんか関係ねぇでショ?。まぁそんなワケで一枚噛ませてもらってるって訳でさ。

その後、段々外国との商売は難しくなって来ましたんでね…ここまでのこのこ着いてきて、「土瓶屋」の主に納まってるってコトなんです。少し前にさ、その樋渡から久しぶりに手紙が来てね。短く「小樋渡を頼む」とだけ書いてあった。そしたらその小倅だというのがひょっこり顔出したってワケで。記者なんて嘘っぱちだろって言ったらこいつへへへと笑ってやがる。どうやら大陸に残っちゃどうもマズイ事になりそうなんでせめて倅だけでも内地に帰れるように裏で手ぇ廻したんだろ。」

「まあ、大体そんな所です。宜しくって言ってました。ぽとまんさんの体術は凄かったって親父は言ってましたよ。」
樋渡はニヤリと笑って答えた。

「かわいそうだね…そんな事あったんだぁ…」

いつの間にか土瓶屋に入って来て頬杖をつきながら話に聞き入っていたいさことまこが居た。

「ぽとまんさんって…何だかとぼけてる感じだけど身のこなしなんかじじさんと全然違って機敏だなって思ってたんですよ。あの匂橋の時なんか…昔はそんな大変な事されてたんですね、随分御苦労されてあったんでしょう?」
そんななぎこの問いに、ぽとまんが答える。
「若い頃の話ですからね。俺だけじゃあないし...あの頃の訓練は激しかったから...じじの旦那だって軍隊にいたんだ。小銃くらい扱えるんですぜ」

と言い終わらないうちにいさことまこは同時に声を発した。

「お腹空いたぁ…」
「ぽとまんさん、何か食べる物ないの?」

「へへ。そんな事もあろうかと思って…校長先生からかっぱらってきてますよ。さ、どうぞ」
おもむろに樋渡が風呂敷を広げた。

「わあっ!虎屋の羊羹だ!」
「でも流石校長先生だー!」
「樋渡さん、どうもありがとうごさいます。」

賑やかにお喋りしながら和菓子をつつくなぎこ達を眺めながらぽとまんは一人ごちた。

「いや…あの小龍に比べたら私なんてね…今こうやって生きてるだけでありがたいってなモンでさ…、この娘さん達にはあんな思いはさせたく無いねぇ…」

-----------------------------

同日
奄美大島海辺の島

寛太の体は回復しつつあり、松葉杖を使ってようやく歩けるようになった。シオンは心配そうな顔をしていたが、このままいつまでも横たわっているのも申し訳ない。村長は相変わらず焦らない事が治る為には早道だ、と言ってくれるが自分も何かしなくては、との思いが強くなって来る。シオンが見守る中、歩行の為の訓練を始める。今日は昨日より長く歩けそうだ。

「大丈夫ですか?無理しないで下さいね。」
「いや、もう少し歩けると思う。早く治さないと…」

もう少し…と足を伸ばした時、少し身体がよろけたが寛太の体を早く治したい、という意思の力は強かった。松葉杖を放り投げ、数歩歩いてみる。頭痛が襲って来て脂汗が滲んだが足を進めた。
 
「あの、やはり無理しない方が良いと思います…」
「ああ、そうみたいだ…今日はもう横になっておこう…」

心配そうに見守るシオンに促され素直に部屋に戻った。やはり昔の事は思い出せない…しかし体の方は快方に向かっているとの手応えを感じながらいつしか眠りについていた。

翌日、目が覚めると窓の外が少し騒がしかった。ふと眺めると、あの娘が泣いている…村長がそっと慰めている…寛太の目にそんな光景が見えた。しばらくして、医師でもある村長がいつもの検診にやって来る。

「具合はどうだい?」
「はあ…だいぶ良くなったような気がします。ただ、昔の事はやはり…」
「思い出せないか。まあ、あまり思いつめない事だ。ここでゆっくりしていれば良い。」
「すみません。そういえば先程、外に人が集まってましたが、あれは?」
「うむ。実は、娘には想い合っている村の若者がいたんだが…南方で戦死したとの通知が来たんだよ…」
「そうですか…お悔やみ申し上げます…」
「こんな御時世だ、仕方ないかもしれない…が、もうそれも長くは続かないだろう」
「そうなんですか?自分には今どうなっているのかさっぱり…」
「君はそれでいいさ。また何かわかったら教えるから。また後で様子を見に来るよ。」

村長が部屋を出て行った後、あの娘の涙が頭から離れなかった。もしも、自分がここにいる事を知らずにどこかで待っている人がいるとしたら…そこまで考えた時、またしても頭痛が襲って来て、それ以上何も考える事が出来なくなった。頭が痛い….今日はその事は考えない方が良いのだろう…寛太は痛みに耐えながらその考えを頭から追い払った。

-続く-

----------------------------------------------------------------------

この物語はフィクションであり、登場する人物や団体の名称等は実在のものとは一切関係ありません...
今回のエンディングテーマはこちら。 「With You(凪&BGMP)」/凪さん&BGMPさん

あとがき
今年は一応ここまでにして、来年また書き続けようと思います。今後は寛太との思い出を夢に見てしまう
「なぎこの回想夢」編、主が外出先で事件に会う「じじのおでかけ」編と続いて終戦へと続いて行く...
かもしれません(相変わらず曖昧)。

(閲覧:33076) |  (好きボタンポチっと数:)
投稿された内容の著作権はコメントの投稿者に帰属します。

投稿者 スレッド
zizi
投稿日時: 2012-12-8 22:24  更新日時: 2012-12-8 22:24
登録日: 2008-4-25
居住地:
投稿数: 3257
 yuuichik氏/校長先生/由布司令官へ
すみませんいきなりマジメなコメントしてしまいます(笑)

本年はyuuichik氏/校長先生/由布司令官には誠に御世話になりました。
元はと言えばアイデアをパクらせてもらって勝手に膨らませてしまい
本当に感謝しています。どうもありがとうございました!

しかし校長先生の文章、とても...私なんかより余程綺麗ですよね。

>※以上は、校長の妄想です。
>実在の人物、作品、作品成立背景とは一切関係ございません♪

と言いながらこの忘年会会場の描写なんかナルホドこんな事があってから...
とつい思ってしまう程リアリティがある...是非別の連載作品いかがでしょうか〜?

と言いつつ実は今CM動画みたいなの作成してます。もう少ししたら
gbucTubeの方にでも掲示しようと思います。

と言いつつパーティ会場へ戻る...

--------------------------------------------------------

監督は頭を下げながら思った。校長先生や須倉氏となぎこさん...
いかにも大人っぽい雰囲気だった。インテリジェンスがある。
寛ちゃんや音出し会の面々、ひわたし氏達にはちょい悪な雰囲気が香りがある。

それに引き換え自分はどうだ...今こうして床に額をこすりつけて喜んでいる...
最初の頃は紳士的なキャラを繕っていたのに...この連載を初めてからどうやら
木っ端微塵になってしまったような気がする...

そういつになく体裁が気になり出して来たその時....

-続く-
アバター
«前の月次の月»
1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
3031
アクセス数
5595388 / 日記全体
最近のコメント
RSS配信
zizi さんの日記



GBUC x Google
SEARCH
   検索オプション

  
GBUCアーカイブ
PAYMENT
購読料を受け付けています。
年額2000円。


銀行振込も受け付けております。詳しくはこちら
ライブスケジュール
予定なし
iChat
iTunes Store TOP100
ASSOCIATE LINKS
LOG IN
ユーザ名:

パスワード:



パスワード紛失

新規登録

MAIN MENU

NEWS

NOW ONLINE...
78 人のユーザが現在オンラインです。 (34 人のユーザが ガレぶろ(BLOG) を参照しています。)

登録ユーザ: 0
ゲスト: 78

もっと...

LICENSE
creative commons lisence
当サイトの作品群は、
creative commons license
の下でLicenseされています。
当サイトのデフォルトCCは
表示ー非営利ー継承
です。

Apple User Group




SPONSOR


iPhone対応サイト