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zizi さんの日記

 
2012
8月 12
(日)
04:53
zizi通信 05 「水の空に眠る」第ニ話
本文
連載小説「水の空に眠る」の第二話です。当り前ですが第一話の続きとなっています。
とても意味不明の方はすみません、説明するととても長くなりますので
第一話の状況をご参照下さい.. 第一話をお忘れの方もどうぞ↓

http://gbuc.net/modules/d3diary/index.php?page=detail&bid=85&req_uid=0

主な登場人物
簡寛太 海軍航空隊に所属する特攻隊員
なぎこ 航空隊のある町の花街にいた美しい娘「なぎこ」
由布 一 寛太の基地の司令官、あだ名は校長先生
ぽとまん「黒猫館」常連客で萬商店「土瓶屋」の主
いさこ なぎこと同じ店で働く娘。声の美しい、恥ずかしがり屋。
まこ なぎこと同じ店で働く娘。おきゃんで元気、だけど寂しがり屋。
じじ 彼女たちを束ねる怪しい料亭「黒猫館」のあるじ。

前回なぎこが飛び込んだ川の中...第二話はそこからスタートします..
オープニングのBGMにこちらをどうぞ...

水庭/揺蕩(たゆたい)/蕗菊 さん

http://gbuc.net/modules/myalbum/photo.php?lid=12170

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「水の空に眠る」

第二話 出逢い

1945年4月 

飛び込んだ川の中から水の空を見上げながら、
薄れかけた意識の中でなぎこは初めて出逢った時の事を思い出していた...
 
 
.............

1945年1月
 
寛太が転任して来た海軍航空隊近くにある花街の入り口に
「土瓶屋」という名の萬商店があり、通称「ぽとまん」と呼ばれる主がいる。
なぎこは店の小道具や日用品を買うためによくこの店を利用していた。
 
今日の店内にはなぎこの他に基地の航空兵らしき若者が一人。
 
「ぽとまんさん、こんにちは。今日も寒いわね。」
「おや、これはなぎこサン。今日もまたおキレイですなぁ」
「まぁた調子いい事言って。今はスッピンですよ」
「いやそれもまた結構なことで。じじの旦那は達者ですかい?」
「ええ、相変わらずブツブツ言ってるわ。この前なんかツケを払わないお客さんに
 「「金払わないモンは客じゃなかろうもん、二度と関門海峡渡って来んでよか!」」
 とか言って追い出したりするかと思えば、私達にはどっから調達して来るのか知りません
 けど甘いモノなんか頂いたりして...ケチなんだか鷹揚なんだかよくわからないんです」
「くくっ...あのお方らしいや...」
 
黒猫館の常連でもあるぽとまんと交わすこんな軽口は、なぎこにとって
今の緊迫した御時世における一服の清涼剤であった。
 
いつもの日用品を手に取ったなぎこは、何気なく見た棚先に珍しいものを見つけた。
手に取ろうとしたよりも少し早く、先程から店内にいた若者がそのハーモニカに手を伸ばしていた。
 
「あっ!すみません」
思わず手が重なってしまった。
 
「いえ、こちらこそすみません。宜しければ...どうぞ」
少し涼しげで精悍な顔つきの青年は、少し恥ずかしそうに言った。
 
「いえ、いいんです。ちょっと見てみようと思っただけで、私が吹けるわけじゃありませんから...
 音楽がお好きなんですね?」
買うつもりがなかったのは本当だったが、何故か少し気恥ずかしさを感じていた。
 
「ええ、まあ...自分も持ってはいたんですが、こちらに転任する際に実家に送って
 しまったんス..形見...い、いえ、もう要らないから妹にあげようと思って...でもこの店で
 目にしたらやっぱり欲しくなってしまって。本当に宜しいのですか?」
 
涼しげな顔つきに少し無邪気な色が宿る。それを見て取ったなぎこは、
自分でもびっくりするくらいに言葉が出てきた。
 
「ええ。ホントにいいんです。あ、でもその代わりに...今度私のお店にいらしてくださいね。
 すぐそこの黒猫館っていう料亭で働いているんですけど...
 あ、勘違いしないでくださいね、うちに娼妓はいませんよ。
 それに最近は物資も乏しくて、あんまりご馳走も出来ませんけどね...
 とても質素なおもてなししか出来なくて申し訳ないんですけれど...
 でも昔軍楽隊にいた、あるじの目利きで集まって来た娘ばかりですからね。
 他所にいったりなんかしたら絶対損しちゃいますよ!」
 
「そうでしたか、わかりました。それでは今度是非おじゃまさせていただきます」
若者は、一気にしゃべってハッとしたように我に返るなぎこを微笑ましく見つめていた。
 
「あの、お名前は?」
「寛太ッス。簡寛太。転任して来たばかりでまだこの辺りの事全く知らないんです。」
「寛太さん...あ、私はなぎこと申します。あの...もしもご迷惑でなければ
 今度一度、この辺りを御案内しましょうか?」
 
こうして二人は出逢い、あまり機会は無かったが、外出できる時間が合えば
二人の逢瀬を重ねたのであった...

 
 
.............



 
1945年4月 匂橋下のなぎこ
 
息が苦しくなるのも忘れてそんな事を水の中で思い出していたなぎこは
唐突に手にした物に思いが及んだ。
 
「寛太さんのハーモニカが壊れる!」
 
そう思うと無意識のうちに足で水を掻き、水面へと顔を出していた。
 
「きゃっ!」「わあっ!」と男女の叫ぶ声が聴こえる。
 
 
 
.............
 


 
1945年4月 一夜遡って昨夜、寛太出撃前夜の黒猫館
 
 
閉館後の黒猫館では、ぽとまんとじじが何やら話をしていた...
 
「じじの旦那、何です折り入って話って」
「いや、実はさ....今、明日出撃予定の特攻隊員が一人泊まってる」
「ええ?そりゃ重大な軍規違反でしょ?脱走兵をかくまってるんですかい?」
「いや違う。校長...いや、基地司令には話しを付けてる。明朝六時の出撃までには必ず戻る」
「旦那は本当に司令官殿と通々なんすね。出撃の時間や隊員が誰かなんてそんな事まで...」
 
そんな機密事項を何故か声をひそめずに話すじじは、さらに言葉を重ねた。
 
「それで今はなぎこネェさんと一緒におる。だからさ、ぽとまんサン、明日のその時間、
 匂橋に来てくれんかね...」
「...ああ、寛太さんだね...いい若者なのに...それでなぎこサンが後追わないかと心配なんだね、旦那」
 
「えっ!」「しっ!」後ろから特徴のある女の声がかすかに聞こえた。思わず振り返るぽとまん。
しかし障子の向こうにあった二人の影はすでに見えなくなっていた。
 
「旦那、気付いてたんすか? あの二人には教えてあげたかったんスね...」
「そういやいつも今時分、台所につまみ喰いに来てるみてぇだな...
 いやさ、私ゃ最近足の古傷が痛んでね...上手く走れねぇんだよ...」

声がした方を見ようともせずにじじは答えた。
 
 
 
.............



 
1945年4月 匂橋下のなぎこ

 
なぎこは水面へ顔を出し...

川面から見上げると誰もいないと思っていた橋の欄干から身を乗り出すようにこちらを見ている、
同じ店で働くいさこやまこの心配そうな顔が見えた。あれ?叫んだのはいさこちゃんかしら?
と何故か冷静に頭が働く。すると...と思う間に男が川に落下してきた。じたばたと
もがく男の後からさらにもう一人が飛び込んでくる。
 
自力で岸に泳ぎ着いたなぎこが振り返ると、溺れかけたじじを抱えるようにして
土瓶屋のぽとまんがこちらに向かって泳いで来た。突然なぎこは可笑しくなってきて
クスクス笑いながら話かけた。
 
「あれえ?二人ともどうしたんですか?」 
ぽとまんが答える。
「おやおやなぎこさん、朝から水練なんスか?足悪くして泳げねぇじじの旦那が
 踏み外してそっから落っこちるもんだからさ、こうやって助けてやってるって按配でさあ。」
「余計な事を..これは昨日風呂に入ってなかったけん...  げほっ...」
「ほ〜らじじの旦那、そんなに無理してしゃべらんでいいから。
 大体なぎこさんを助けるつもりがなんでこんなオッサンを...」
 
橋の上からも安堵の声と笑い声が起こった。
「みんな大丈夫ですか〜!」元気なまこが声を上げる。
 
「うん。」形見となったハーモニカを握りしめ、小さく、しかし強く返事をしたなぎこは
寛太さんの「生き抜いてください」という声が聞こえる...そうはっきりと感じていた。

自分も一緒に、とのつもりで昨夜寛太さんにあげた愛用の櫛。
それと一緒に寛太さんは南の空へ飛び立って行ってしまったんだ...でも...

今一度、自分の心を確かめるように頷くなぎこ。
 もう二度と死のうなんて思いません...どんな事があっても...
 
そしていつの日か、あの歌をもう一度...


- 続く-

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この物語はフィクションであり、登場する人物や団体の名称等は実在のもの
とは一切関係ありません...
今回のエンディングテーマはこちらをどうぞ(手前ミソですみません...)

http://gbuc.net/modules/myalbum/photo.php?lid=14957&cid=1

あとがき

連載第二回目となりました。長文大変申し訳ありません。
さて、この航空隊基地がある場所はどこか?架空の物語で設定も思い付きなので
こんな事言うのも変ですが、一応少し考えてみました、
九州には特攻隊の基地となった場所がいくつもあります。
花街が存在する、という事は結構大規模な基地である必要がありそうな気がします。
鹿児島県の知覧や鹿屋が有名ですが(資料館があり両方訪れた事あります)
少し地方過ぎる...ような気がします。大規模な施設で特攻の出撃もあった所...
どうやら長崎県の大村海軍航空隊が相応しいようです。
第21海軍航空廠という大きな工場もあり、周囲にも結構人が多かったと思われます。
また、海軍の重要な軍港であった佐世保や工場等があった長崎も同県内にあり、
物資の集積もあったと思われますので、黒猫館や土瓶屋がどうにかして
いろんなモノを調達をする機会もあったのではないでしょうかね...
と勝手に想像しています。次回は、寛太の出撃後...を描いてみたく思います。
最後まで御読み頂き誠にありがとうございます。

http://ja.wikipedia.org/wiki/大村海軍航空隊
http://www.omuranavi.jp/02history/history06.html

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投稿者 スレッド
zizi
投稿日時: 2012-8-15 17:28  更新日時: 2012-8-15 17:31
登録日: 2008-4-25
居住地:
投稿数: 3257
 Re[2]: 凪さんへ
先日より御世話になっております〜。ええ、「黒猫館」にいるのは娼妓でなく所謂「芸妓」です。
この物語には妄想の産物ですが、ある種のリアリティを持たせたく考えてます。
それで調べてみましたらまず長崎県内で遊郭と呼ばれる物があったのは長崎市丸山町だけのようです。
又、物語中の「じじ」はこの馬鹿げた戦争で文化が失われる事に非常に危機感を抱いており、
この時代莫大な国家予算を費やしている軍相手に商売をすることで、歌舞に秀でてかつ不遇な境遇
にある若い才能を保護する、という目的がありこの「黒猫館」を運営しており、
その目的の為には手段を選ばない...という設定です。
それに何と言ってもモデル設定が明白なのに娼妓など...頼まれてもziziに出来ようはずがありません。
登場人物...あさこさんについては只今正式に出演交渉を行っている最中です。もしも可能であれば
スポット的エピソードに出演して頂く考えです。(そのストーリーは既に頭の中にあります:笑)

>健気で清楚で可憐でまっすぐな感じのコ...
え?居ませんかね?ワタシの連れ合いなんてそれはもう...いやスミマセン...
完全に嘘ついてしまいまいた(爆)
理想像とかそういう訳でもなく、こういう人居たらそれは好きですが、真逆の人がいたとしたら
それも好きです。どうも人生においてそういう事が段々どうでも良くなって来ています(笑)。
まあ「なぎこ」の性格については物語的演出だとお考え下さい。
(その他の登場人物についてもですが)
詳しくは楽曲「水の空に眠る」における校長先生の凪さんへのレスを御参照下さい
(人まかせでスミマセン)
それに自分を筆頭に男の方も現実にはいい加減な人多いので(笑)

とりあえず現在三話先位まで粗筋は出来てます。また宜しく御願い致します!
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